31話--対策本部--


 1時間ぐらい車に乗っていただろうか。

 東京に住んでいると言っても地理には詳しくないため、ここがどこかの自衛隊基地であるということしか分からなかった。

 黒服の後ろを着いて歩き、建物の中の1室に通された。

 

「よう、嬢ちゃん。昨日ぶりじゃな」

「相田さん……だったっけ。昨日ぶり」


 気軽に挨拶をしてくるおじいちゃんのような感じだ。ここに向かっている途中に相田さんの……自衛隊の階級と呼び名の事を調べたが相田さんの階級は上から二番目と非常に偉い人だった。

 年長者ではあるけど、私は呼ばれて来ている身なので対等の立場として敬語は使わない。

 

「情報部の林です。よろしくお願いします」

「あ、そうだ。どうやって特定したか聞きたかったんだよね」


 正直な話、対策本部の事より気になっている。【神速】で完全に姿を消したと思ったのに3日後にはみつかってるんだもん。

 林さんがメガネをくいっと上げてから話し始めた。


「人工衛星です。対策本部から連絡があったときから衛星を使って渋谷駅を確認していました。人化牛を貴女が倒した後、渋谷駅から半径10キロの駐車場を洗いざらい探して……あれだけのことがあったのに普通に車を動かしてるところを発見しました。その近くの防犯カメラから車種と番号を特定して、後はそこから所有者を特定し貴女であることがわかりました」


 早口で捲し立てるように林さんが言った。

 半分ぐらいしか理解できなかったけど特定できる要因があったのだろう。

 話し終えて得意げにしているので、とりあえず拍手をしておく。

 

「さて、儂から本題に入らせてもらおう。日本は……いや、世界は今、危機を迎えている」


 相田さんが重苦しく話し始めた。

 確かに、そうだ。世界各国でダンジョンからモンスターが溢れ出てアメリカでは核を使って殲滅したとニュースでやっていた。

 この前の渋谷駅もそうだが、戦車の大砲が効かないモンスターは普通に出現する。

 

「儂らが分かっている事は3つ。亀裂の中に入ると別世界が広がっていること、亀裂に入ると超常的な力が手に入ること。そして一定の期間亀裂に入らないと異形のモノが出てくること」

「そこまで分かっているなら何を聞きたいの……?」


 率直な意見が出てしまった。ダンジョンが出現してからの重要な事を全て理解しているなら攻略すればいいじゃないか? というのが本心だ。

 相田さんは言いづらそうに続けた。

 

「儂らの実力不足が露呈するようで言いたくないが……超常的な力――スキルがあっても倒せない異形が居る。他のやつより一際大きい異形だ。銃も効かず原始的な武器で戦うしかない」

「そうだね。【剣術】や【槍術】だったりね」


 そう、スキルには現代兵器を使用して発揮するものが存在しない。

 必ずと言っていいほど剣や弓、槍などの武器に関するスキルが多い。例外として【魔法】と【支援】スキルがある。

 

「儂らは兵器を扱うのに慣れてはいても原始的な武器を扱うのには慣れていない。練度不足と言えばソレまでなのだが……今は一刻を争う。異形が出てくるのを防ぐために死刑囚を使ってはいるが限りがある」


 初めて知った。日本以外の国では大量に溢れ出ている。

 日本は案外抑えられているのか、と思っていたが想像以上の事をしていたようだ。


「それで? 対策本部が私に求めることは?」

「話が早くて助かる。亀裂を塞ぐ術を教えて欲しい」

「それならさっき言ってた一回り大きいやつを倒せば消えるよ」

「やはりか……」


 一回り大きいのはボスだろう。それを倒せば突発型ダンジョンなら消える。

 持続型だと残っちゃうけどね……。その辺はこの話が終わったらしよう。

 

「力を、貸してほしい」

「具体的には?」

「儂らの現状では亀裂を塞げない。できるだけ可能な限り亀裂を塞いでほしい」


 相田さんが頭を下げて言った。

 あぁ、この人は自分の立場に関係なく誠意を示せる"いい人"だ。ならば私もそれに応えたい。

 ダンジョンでレベル上げをするのが合法的にできるって事に釣られたわけではない。

 

「分かったよ。明日から可能な限り攻略する。手続きとか無しで入れるようにしてくれる?」

「助かる……。林、すぐに特例許可証を発行しろ」

「承知しました。失礼します」


 そう言われて林さんは部屋から出ていった。

 これでダンジョンが入り放題って事かな……?


「私の行ける範囲で行くから亀裂……ダンジョンの位置情報の一覧とかって貰えたりする?」

「嬢ちゃんはダンジョンって呼んでるのか、横文字のほうが若者に浸透しやすいかもな。異形はなんて呼んでいる?」

「モンスターだよ」

「なるほど。そっちに統一しよう。位置情報に関しては書類に纏めて林に持ってこさせよう」

「ありがとう。あと、私が連れてく人も入れるようにして欲しいかな」

「良いぞ。嬢ちゃんが連れている人なら何人でも入れるようにしておく」


 よし、これで沙耶のレベル上げもできるし……小森ちゃんと七海も連れて行ってみようかな?

 いい感じにパーティーを組めるスキルなら尚良しだね。

 相田さんにダンジョンからモンスターが溢れ出る周期、スキルと技能アーツの関係性とレベルについて。そしてダンジョンを攻略した際に手に入る金貨の説明をした。

 金貨の話は目の色が変わり、色々と話しているうちに考え込んでしまった。なるべく早く通貨が変わってくれると嬉しい。アイテム袋の肥やしとなってる4000万枚の金貨が火を吹くだろう。

 サンプルとして数枚渡しておく。

 そうこうしていると林さんが戻ってきた。

 

「こちらが許可証です。そして現在我々が把握している亀裂のリストです」


 1枚のカードと200枚はあるのではないかと思える紙の束を渡された。

 カードには相田さんが付けている階級章と同じマークが刻まれており、仕組みは分からないけど相田さんが身分を保証してくれるような感じなのだろう。

 そして問題は紙の束だ。

 都道府県別にダンジョンの位置が記載されている。1枚あたり30のダンジョンがある。

 東京都だけで40枚を占めていた。下水道ダンジョンは書かれておらず、まだ発見されていないようだ。


「ありがとう。行けるところから潰してくよ」

「恩に着る。明日からよろしく頼む。我々は地方のダンジョンに出向こう」


 相田さんがそう言った。私がダンジョンに出向いたけど既に先着が、という事をなくすための配慮だろうか。

 下水道ダンジョンの情報も教えておこう。

 

「東京都内の下水道。調べたほうが良いよ」

「……なに? 地上だけではないのか!?」

「うん、多分もう溢れてる。しっかり武装しないと大変かも」

「貴重な情報をありがとう。林、今すぐ裏を取れ」

「はい!」


 また林さんが出ていった。結構顎で使われているようだ。

 相田さんがブツブツと独り言を呟いている。要件が済んだなら私は帰りたいのだけれど……。

 あ、最後に1つ確認しておかないと。

 

「そう言えば私が何者だとかは気にしないの?」

「嬢ちゃんが何者か気にしてるやつは沢山居るぞ。政府の人間とか大企業の社長とかな。だが、皆自身の保身のために嬢ちゃんを利用したいだけなんだ。儂らは嬢ちゃんが何者なんて些細な事はどうでもいい。例え悪魔であろうが鬼であろうがな」


 屈託なく相田さんが笑って続けた。

 

「儂は嬢ちゃんが自分の意思で渋谷で戦ったことを知っている。八王子に住んでる嬢ちゃんがモンスターが溢れ出るって分かってる日に渋谷に出向いたんだ。この国の英雄ヒーローを信じないで何を信じるってんだ?」


 思っていた以上に恥ずかしい言葉が返ってきた。

 照れくさくなり人差し指で頬を掻いた。

 

「ダンジョンから溢れ出るって知ってるの分かってたんだね」

「少しでも考える頭があれば分かることだ。じゃなきゃあの日あそこに居た辻褄が合わない」

「お手上げだなぁ……」


 なんというか、人が出来すぎている。

 こういう人が上に立っているならば当分は安泰だろう。

 相田さんに向かって手を差し出す。

 

「結束の握手。私は攻略と情報を」

「儂はダンジョンの位置と情報の統制を」


 互いに固く握手をし、私は対策本部を後にした。

 基地を出て気がついた。どうやって帰ろう……?

 あれだけいい感じに話が終わったのに戻るのもなぁ、と思っていると迎えに来た黒服の人が車に乗って私の前に停車した。

 

「相田陸将からお送りしろ、と」

「ありがとう。戻ったらとても感謝してたって伝えておいて……」


 赤面するほど恥ずかしい。

 私はそそくさと車に乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る