29話--皆と入浴--
「ごめん、もう一回言って?」
私の理解を超えた発言は正常に耳に入ってこなかった。
思わず聞き返してしまった。
「皆でお風呂に入ってお姉ちゃんは全員を洗うこと。これがお願いかなぁ」
聞き間違いではなかった。例え私が良くとも他の二人が良いというわけでないでしょ……。
七海は職場の上司と一緒に風呂に入るなんて嫌だろうし、小森ちゃんに関しては今日、親交が深まったばかりだ。
自分が納得できる理由を考えて助けを求めるかのように七海と小森ちゃんを見た。
「かぁ~、仕方ないっすねぇ。勝者がそう言うなら従うしかないっすね!」
「恥ずかしいけど、負けちゃったなら仕方ないです……」
何だか裏切られた気分である。
沙耶の方に目を向けると口元が緩んでおり七海と小森ちゃんとアイコンタクトを取っているのが分かった。
既に退路は塞がれてたのか……。
ここでノーカウントだとゴネて再試合したとしても今の二人のプレイを見て勝てる気がしない。
小さくため息を吐いて腹をくくる。
「……わかったよ。入れば良いんでしょ」
「流石お姉ちゃん、期待を裏切らないね」
全員がグルなら私だって存分に仕返しをしてやる。
同性と風呂に入ることはここ最近沙耶と入っていることでだいぶ慣れている。
3人がソファの下から風呂の後に着るものであろう服や下着を取り出した。一体いつの間に……。
「そういえば、お姉ちゃん。クローゼットに入ってる壺みたいのやつの中身は何なの……? すごいネバネバしてたけど、この前ダンジョンで手に入れたやつだよね?」
「あー、うん。それはまた今度にしよっか」
「指で少し摘んだっすけど、じんわり温かくなったんでマッサージオイルかもしれないっすね」
沙耶が言っているのはスライムオイルのことだ。愛の神が細工をして怪しいものになってしまっている。
現状は私しか効果を知らないから誤魔化し通せるがゲーム好きな七海か沙耶にでも知られたら非常に面倒だ……。早く処分してしまえば良いのだろうが、防御力上昇はそれほどまでに魅力的なのだ。
見つからないようにクローゼットに収納していたのだが、探索されたときに見つかったのだろう。アイテム袋に入れておけばよかった。
少しすると風呂が沸いた音楽がリビングに響いた。いつの間にか沙耶が自動ボタンを押していたようだ。
「さて……行くか……」
着替えを持って脱衣所へ。私に着いてくる形で三人が続いた。4人も入ると脱衣所は狭く感じる。
最後に入ってきた沙耶が脱衣所のドアを閉めた。
誰も服を脱ごうとせず、微妙な空気感が流れる。
ここは年長者が物理的に一肌脱ぐとしよう……。
私が脱ぎ始めると他3人も流されるように脱ぎ始めた。一足早く脱ぎ終えた七海と沙耶が何やら争い始めた。
「あれ? 沙耶ちゃん。随分と慎ましいっすね?」
「七海さんも服を着ているときと大きさ違くない? 盛るのは程々にしないと脱いだときの落差がすごいよ」
「うるさいっす!!」
どうやら七海は胸を盛っていたようで、服を着ている時はそこそこあるように見えたが脱ぐと沙耶と同じぐらいの大きさだ。
互いに押し付け合うように競っていた二人が静かになる。ある一点を見つめて居るようで、その視線の先には小森ちゃんが居た。
「んしょ……あれ? みんなどうしたの……?」
服のラインと小柄な体からは想像の付かない大きさのものが2つあった。
大きさ的には私よりは無いだろうけど、カップ的には私よりありそうだ……。
「え、小森ちゃん? そんなデカかったんすか?」
「嘘でしょ……小森さん。あ、このブラ小さく見せるやつだ……」
「沙耶ちゃん、見ないでよー! 変な目で見られるのが嫌で小さく見せてるの!」
沙耶が小森ちゃんのブラジャーを手にとってまじまじと見ている。それを取り返そうと小森ちゃんが必死に手を伸ばすが届かず、2つの果実が揺れるばかりであった。
……なるほど。沙耶が私の胸を触りたがる理由が少しわかった気がする。
3人を眺めるだけではなく、私も早く服を脱がなければ。着圧タイプのスポーツブラを脱いで洗濯カゴに入れる。脱ぐと同時に押さえつけられていたから開放感がすごい。
「でっっっっっっ!? 嘘っすよね?! ほんの少しも盛ってなかったんすか!?」
「ほわぁ……すごい……」
七海と小森ちゃんがリアクションをする。沙耶はいつも見ているから見慣れているようで皆の下着を洗濯ネットに入れていた。
まじまじと見てくる七海と小森ちゃん。七海の生唾を飲み込む音が聞こえたように思えた。
「先輩……触ってもいいっすか……?」
「わっ、わたしも……」
「いいけど……」
2人は片方ずつ手を伸ばした。全体を掴んで感覚を確かめる七海と下から押し上げて弾力と揺れを見ている小森ちゃん。自分で触れているわけではないから、少しこそばゆい。
これが沙耶だったら遠慮なく後ろから揉みしだいてくるから、配慮はしてくれているのだろう。
……しかし、これは挨拶的なものなのだろうか。回帰前は男同士で筋肉の見せ合いや固さの競い合いをしていたからソレに近いものなのかもしれない。
小森ちゃんの触り方は純粋な興味と好奇心。七海は何か手付きがいやらしくなってきた。
2人の手を掴んで終わりを告げる。
「はい、終了。風呂入るよ―」
「うっす……」
そのまま手を引いて浴室に入る。
体を洗う場所で4人が立っているが、やはり狭い。浴槽なんて全員で入ったらギチギチだ。
私は湯に浸からずそのまま上がるか……。
「皆軽く体流して、順番に洗っていくから洗われてない二人は浴槽で待機してて」
「じゃあ私から洗ってもらおっと。勝者の特権だね!」
「はいはい。七海と小森ちゃんは湯に浸かっててもらえる?」
我先にと風呂椅子に座った沙耶。七海と小森ちゃんには浴槽で待機してもらう。
いつも通り沙耶を洗い終える。ソワソワと落ち着きのない七海から洗っていくとしようか。
「次、七海」
「あっ、よろしくっす……」
急に借りてきた猫のように大人しくなる七海に驚きを隠せないが気にせず洗って行こう。
沙耶をよく洗っているからか、髪を洗うのは手慣れたものでスムーズに終わった。
ボディタオルを泡立てて背中から洗っていく。
……沙耶とはまた違う触感だ。張りのあるスラッとした感じの沙耶とは違って七海は、柔らかい感覚がする。
「あの、先輩……やっぱり前は自分で――」
「ごめんね、沙耶のお願いだから」
大人しい七海が珍しく、どんな反応をするか気になってしまった。
沙耶のお願い。ということで逃げ道を作って一向にこっちを向かない七海に密着して前側を洗っていく。
他人に洗われるのが慣れていないせいでくすぐったいのか、七海は自身の人差し指を噛んで漏れ出る声を抑えていた。その姿が私の嗜虐心を擽った。
わざとらしく弱い部分を指で触れると七海がビクンと跳ねた。既に洗い終えていたが、このまま――。
「しゅーりょー!」
沙耶が声を出しながら小森ちゃんと一緒に私たちに風呂の湯をかけた。
よくわからない空気が流されて我に返る。七海は恥ずかしさのあまり両手で顔を抑えていた。
シャワーで体の泡を流して小森ちゃんと交代だ。
「宜しくお願いします……」
「はい、座ってね」
赤面して俯いている小森ちゃんの髪を洗っていく。沙耶より短いので洗うのが楽だ。
シャンプーを流してトリートメントをして、流して……。
体を洗っていく。小柄な背中は直に触れると思っていたより小さく、少しでも力を入れると壊れてしまいそうだった。
立ってもらい脚を洗う。程よい肉付きである。後は前だけなのだが……七海と同じくこっちを向こうとしない。
心なしか小森ちゃんの背中は期待しているように見えた。
……まずいな。さっきの変な空気が残っているようだ。
気を確かにしてくっ付いて前側に手を伸ばす。七海の背丈だと背中に当たっていた胸が小森ちゃんは一回り小さいため頭の後ろに当たってしまっている。
意図せず頭を挟み込んでしまった。そのまま腹部を洗って胸を洗う。
ズシリと重い感覚が手に伝わる。これが沙耶の言っていた量と質なのだろうか……確かに自分のものを触れるのとは訳が違う。暫し堪能していると沙耶が咳ばらいをした。
堪能するのを止めて下へ手を伸ばす。デリケートな部分なので素手で洗う、と沙耶が言っていたからタオルは持たず直接――。
「ひゃっ……あっ……」
今まで普通にしていた小森ちゃんから嬌声が漏れた。すぐさま浴槽に居る沙耶と七海から湯が飛んできた。
ごめんね、と小森ちゃんに謝って泡を流す。多分驚いたのだろう。申し訳ないことをしてしまった……。
「全員洗い終わったね」
小森ちゃんを浴槽に入れるとギリギリ入れてる状態だった。足は伸ばせず皆、体育座りのような感じだった。
全員の視線を浴びながら自分を洗っていく。
洗い終えて浴室から出ようとすると沙耶に呼び止められた。
「お姉ちゃん、浸かってないでしょ? 私上がるから浸かりなよ」
「……入る場所なくない?」
「3人なら将棋倒しみたいな感じで皆が寄りかかれば肩まで浸かれるでしょ」
「これはどんな順番にするかの争いっすね」
確かにそれなら浸かれそうだ。
一番身長の大きい私が誰かに寄りかかるのは可哀そうな気がするので、そうならないような順番……。
年齢順などはどうだろうか? それならば私、七海、小森ちゃんの順になるはずだ。
「よし、年齢順にしよっか。それなら私が――」
「先輩真ん中っすね」
「え?」
「最年長は小森ちゃんっす。知らなかったんすか?」
「えっ、橘さんって私より年下だったんですか……?」
浴室内が静寂に包まれる。
全ての事情を知っているのか沙耶はニマニマと笑っている。
「私、今年20になったけど……」
「3つ下……!? 今年23です……分かりにくくてごめんなさい……」
驚きで声が出そうになった。沙耶の方を見ると頷いており、七海も頷いていた。
本当なのか……。
「ウチも驚いたっす。免許証なかったら信じてないっす」
「敬語にした方がいい……ですか?」
「違和感がすごいのでそのままでお願いします!」
「それもそうだね……」
「じゃあ、私は上がるね~。ごゆっくりと!」
沙耶が颯爽と浴室から出て行った。取り残された私と七海と小森ちゃんは互いに見つめあって、笑った。
私が真ん中ではあるが浴槽に浸かる。七海のスペースを狭くしてやろうと肩まで浸かると小森ちゃんの胸が私の後頭部に当たった。
……ふかふかだ。なるほど、沙耶が言っていたのはコレか。
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