28話--対戦--

 七海は泊まるための服などを取りに一旦、自分の家に帰った。

 私は付き添いでコンビニ近くの小森ちゃん家に向かおうとしていた。沙耶は七海の付き添いをすると言って車に乗り込んでいった。どうやら私以外の人の部屋が気になるらしい。

 特に急ぐ予定もないので車は使わないで歩いて小森ちゃん家に向かおう。と思いながら階段を降りる。先に降りていた小森ちゃんは私を待っていてくれたようだ。


「あ、あのっ! 手……繋ぎませんか!?」

「いいよ、繋ごうか」


 小森ちゃんから差し出された手を握る。沙耶もよく手を繋ぎたがるからそういうものなのだろう。沙耶に関しては、今はもう手を繋ぐというより腕を組むに近いけど。

 夏の昼過ぎは非常に暑く、繋いでいる手が汗ばんでいるのが分かった。私の汗か小森ちゃんの汗か、どちらのものか判別はつかず引いている手は今にも溶けだしそうだった。

 道路からの照り返しも厳しく、小森ちゃんの顔を見ると紅潮しており少し火照っているようだ。

 

「暑いよね、大丈夫?」

「ひゃい! 大丈夫です!」

「そう? ならいいんだけど……」


 驚いた声で返事をした小森ちゃん。繋いでいない左手で顔を扇いで早歩きで歩き始めた。自然と私が手を引かれる形になる。自分が手を引かれる光景は意外と新鮮であった。

 

 

 その後は何事もなく小森ちゃんの家で少し涼んでから泊まるための準備をして私の家に戻るために歩いていた。

 両親は不在で、どうやらコンビニが休みになったから旅行に行ったらしい。朝起きたら書置きがあって気が付いたそうだ。何とも自由な両親だ。

 手を繋ぎながら今日の夜の献立を考える。そうだ、人数もいることだから寝かせている高い肉を食べよう。副菜はあり合わせでいいだろう。

 そうこう考えているうちに玄関ドアの前に着いた。鍵を開けて中に入ると沙耶と七海の靴があり、もう既に帰ってきているのが分かった。

 

「ただいまー」

「おかえりっ!」

「おかえりっすー」

「お邪魔します……?」


 まるで自分の家かと言わんばかりにリビングで寛いでいる七海を足蹴して洗面所で手を洗う。

 リビングに戻ると「なんでウチ、蹴られたんすか?」と言いたそうな顔をしている七海が私を見ていた。無視して沙耶を見ると何かをテレビにセットしてた。

 あれは……ゲーム機だろうか? 私の家にはないので多分七海の家から持ってきたのだろう。

 小森ちゃんはリビングの椅子に座って扇風機に当たって涼んでいた。

 

「お姉ちゃん! 対戦しよ!」

「いいけど……何のゲーム?」

「4人で大乱闘するやつっす!」


 やる気満々の沙耶と七海が私を見た。

 白いゲーム機からコントローラーが4つ繋がっており、沙耶と七海は言わずもがな小森ちゃんもコントローラーを持ってスタンバイしている。

 ここで私だけやらないのは気が引ける。素直にコントローラーを受け取って空いていたソファ左側に座った。

 右に沙耶、沙耶の足に寄りかかるように七海が座っており、私の足元には小森ちゃんが居る。

 この白いゲーム機になってからはやったことはなかったが、前とその前の時はやっていたので相手に不足なしだ。

 

「お姉ちゃんゲームクソ雑魚だった記憶あるんだけど大丈夫なの?」

「弱くないよ、多分……沙耶が強すぎたんだよ、あれは」

「先輩……見え張っても得しないっすよ?」


 七海が得意げな顔で煽ってくる。確かに昔は沙耶にズタボロにされてたけど、今なら何だか勝てそうな気がする。

 キャラ選択画面で緑の帽子を被ったキャラを選択する。シリーズを一貫してずっと使っているキャラだ。

 コントローラーは前作と同じものなので操作も同じだろう。

 

「もちろんアイテムは全部なしっすね。ステージもここで……」

「七海さん、残機制にしようよ。勝敗が分かりやすい」

「いいっすね、沙耶ちゃん」


 七海と沙耶が率先して設定を進めている。

 小森ちゃんはキャラクターを選び終えた。ピンク色の丸いキャラだ。

 設定が終わり、七海が仮面を被った丸い剣を持っているキャラで沙耶が傭兵のおじさんだ。

 ゲームが始まり、1戦、2戦としていくうちに操作に慣れてきた。

 10戦中7回1位は調子がいいのではないか? 残りの3回は小森ちゃんに負けた。吸い込まれてステージの下に吐き出されて文字通り何もできなかった。

 可愛らしい見た目の割に結構えぐいことをする……。

 

「そろそろ何か賭けないっすか?」


 満を持して七海が言い出した。私は3連勝と調子が良い、断る理由なんて無いな。

 心配なのは一度も一位になっていない沙耶と七海じゃないだろうか?

 

「いいよ。何賭けるの?」

「1位が負けた3人に自身で出来る範囲のお願いをできる権利とかどうっすか?」

「買い物の時に荷物持って~、みたいな感じだね? 七海さん」


 なるほど。

 学生などでじゃんけんで負けた奴が自販機で飲み物を買ってくるみたいな感じだろう。

 沙耶が補足してくれて概要を理解できた。横を見ると小森ちゃんが気合を入れていた。


「私もがんばる……!」

「そうっすね! 沙耶ちゃん。小森ちゃん、本気出したウチは強いっすよ?」

「七海さん。そんなこと言ってると私も本気出しちゃうよ?」


 沙耶と七海で火花が散っている。私も負けてられないな――ッ。

 

 

 

 負けた。手も足も出ずに負けた。

 何やらよくわからないコンボを食らって外に飛ばされたり、戻ろうとしたところを叩き落されたり。

 こっちが攻撃をしても全てシールドで防がれて掴まれて投げられる。開始して真っ先に残機が無くなり、そのあとは小森ちゃんがやられた。

 コントローラーから手を離して足元に座っている小森ちゃんの肩を揉みながら沙耶と七海の戦いを鑑賞する。キャラのガードと回避が絶妙的で見ている分には面白い。

 互いに一歩も引くことなく残機が1になり、勝負の決着が近いことが分かった。

 

 無言で集中している沙耶と七海。コントローラーの操作音とゲームの音だけが部屋に響いている。


「あっ」

「それは悪手だよ、七海さん」


 七海が声を出すと沙耶が七海のキャラに決め手となる一撃を入れて勝負が終わった。

 ガッツポーズをしている沙耶の頭を撫でる。七海が悔しそうな顔をしている。沙耶を撫でる手を止め、励ましの意味を込めて七海を撫でる。


「惜しかったね」

「あざっす……さあ、沙耶ちゃん。お願い事は何すか?」

「んーー、とりあえずお姉ちゃんだけに使おうかな。小森さんと七海さんのは保留で」

「沙耶、叶えられる範囲だからね……?」


 一応、釘を刺しておく。

 沙耶は顎に手を置いて考えている。一体何をお願いされるのだろうか……。

 何か思いついたようで、沙耶が手を叩いた。

 

「お姉ちゃん、皆でお風呂入ろっか!」

「え゛……」


 突拍子もないことを沙耶が言い出した。

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