24話--修羅場-前半--
沙耶と七海の支度が終わるまでの間は車の後部座席にあるものを部屋に輸送していた。
最後の荷物を運び終えると沙耶と七海がリビングで待っていた。
外食に行くだけだというのにメイクまでしっかりしているようだ。
間違いなく言えることは私が同じように支度したとしたら倍以上の時間がかかるという事だろう。
「お姉ちゃん! どお?」
「うん、似合ってるよ」
「へへ……今日はね――」
自身のコーディネートを私に解説してくれている。私からすれば呪文のようにしか聞こえない。
完全に理解するにはまだ早いようだ……。全て解説し終えて満足そうにしている沙耶に拍手を送る。
「沙耶ちゃん、先輩は説明されて理解できなかったら拍手して流す癖があるっすよ」
「……お姉ちゃんにはまだ早かったかぁ」
七海に指摘されて初めて気が付いた。確かに職場の男性陣からよくわからない自慢話とかされたときに、どう反応していいか分からず適当に拍手をしていた記憶がある。
それが癖となって染みついているのだろうか……。
「先輩っ! ウチはどうっすか?」
「七海の私服姿初めて見た気がする。似合ってるんじゃない?」
「あざっす!」
二人の相手をしているとメッセージアプリの通知音が鳴った。小森ちゃんも準備ができたらしい。
……そういえば沙耶と七海には説明してないけど大丈夫だろうか?
沙耶は面識があるから大丈夫として、七海は……コミュニケーション力が高いから大丈夫だろう!
カバンを持って皆で駐車場へ向かう。運転席に座ると沙耶と七海が後部座席に座った。
珍しく沙耶が助手席に乗らなかったのでカバンを助手席に置いた。
車を走らせて小森ちゃんの指定した住所に向かう……コンビニの隣の家だな。
コンビニに車を停めて小森ちゃんに「コンビニの方に車停めてるよ」と送る。
「……お姉ちゃん? 何でコンビニ寄ってるの……?」
「あぁ、この前、沙耶と小森ちゃんが仲良くなれそうに話してたから……ついでに親睦でも深めてもらおうかなって……? 何で頭抱えてるの?」
「誰っすか? ウチは知らない子っすよね?」
「そうだね。七海とも年が近いんじゃないかな……? このコンビニで働いてる子なんだけどナンパ男に絡まれてるのを助けてから話をするぐらいの仲になった……のかな?」
「理解したっす。
ひそひそと沙耶と七海が話し始めた。私には聞こえない内緒話のようだ。
コンビニに他の車は停まっておらず私の車だけだ。小森ちゃんが窓の外で私の様子を伺っていた。
窓を開けて後ろのドアをボタンで開ける。
「車でごめんね。後ろ乗ってくれる?」
「あっ、はい……二人きりじゃないんですね……」
声がとても小さく、かろうじて返事は聞こえたが尻すぼみになっていった後半は全く聞き取れなかった。
沙耶と七海が真ん中を空けて座っている。
ひっ、と小森ちゃんから息を吸う音が聞こえた。
「小森さん。真ん中、どうぞ?」
「七海っすー。よろしくっすー」
二人とも笑顔で言っているが目が笑っていない。小刻みに震えている小森ちゃんが涙目で真ん中に座った。
車の中に殺伐とした沈黙が流れる。
あれ……。もしかして私の選択は間違いだったのだろうか……?
とりあえず話題を振ろう。
「ど、どこに食べに行く?」
「個室があるところがいいなぁー」
「沙耶ちゃんに同意っす」
「わ、わたしも……」
会話が発展しなかった。これは本格的に何かやらかしてしまったのだろうか。
個室……個室か……。財布の中を確認しているとお得意先から貰った高い店の招待券が入っていた。
よ、よし。ここにしよう! ここなら接待で使ったこともあるから道は分かっている。
車で30分ほど移動したところにある招待券の料亭に着いた。
向かっている間は終始無言であまりストレスを感じない私でも胃がキリキリと痛みそうな圧迫感だった。
料亭に入って招待券を見せると女将らしき人が私たちを個別の和室へと案内してくれた。
手入れの行き届いた日本庭園を見ながら歩いて少しすると私たちが使ってよい部屋に着いた。
「御用の際はお呼びください」
「はい……」
女将が戻っていったのを確認して和室に入る。全員が入るとピシャリ、と沙耶が勢いよく襖を閉めた。
沙耶と七海は目が笑っていないが笑顔で、小森ちゃんはオロオロとしている。
「お姉ちゃんは両手を上にあげて、あっちの壁に向かって正座してて」
「……私何かした?」
「いいから早くするっす。今は何言っても無駄っすよ」
「はい……」
肩を落としながら入ってきた方向とは反対側の壁の近くで壁を見ながら正座する。
一体、私が何を……。
『愛の神が貴女の配慮の無さに頭を抱えています』
『全能の神が首を縦に振っています』
『叡智の神が貴女に同情の念を送ります』
ここぞとばかりに出てくる青い画面。渋い顔をして画面を消した。
沙耶の言うとおりに両手を挙げていると沙耶が私の耳にイヤホンを付けた。無線で音楽が聞けるタイプのやつだ。
疑問そうな顔をして沙耶を見る。
「ちょっとお話しするから音楽でも聴いてて? 外したら怒るから」
「わかった……」
沙耶からスマホを渡され、画面を見ると好きな音楽が聴けるようにアプリの画面が開かれていた。
適当にオススメの音楽をタップして音を流す。思っていた以上に音量が大きくて肩が跳ねる。
沙耶たちが話し終わるまでこのまま魔力増加法でもしていよう……。
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