20話--獲得と終幕の始まり--
第2波のモンスターを倒しながら生存者がいないか駅構内を動き回った。
残念なことに生きている者はおらず、皆見るも無残な姿になっていた。
沙耶から借りた仮面舞踏会のやつはいつの間にか無くなってしまっている。後で沙耶に謝らないとなぁ。
外では銃声や爆発音が響いており、日本の都心であることを忘れさせた。
ホーム階に上って狩り残しと生存者を探すが動いているのはモンスターだけ。
小さく舌打ちをして近くにいたゴブリンを切り刻んで八つ当たりをする。
「後どのぐらい居るんだろ……」
オークとコボルトを倒しながら呟いた。かれこれ一人で数百体は倒している。
ポーチに入れておいた腕時計を見ると時刻は15時を過ぎていた。
集中力が途切れ、呼吸も荒い。体力の限界が近いことが理解できた。服に付いた血は黒く変色し、その上から更に血が重なっている。
物陰に隠れて携帯食料を水で流し込む。血が固まって軋んでいる髪を手で触る。
「沙耶に怒られそうだな」
髪のケアを怠ると口酸っぱく私を叱ってくる沙耶の声がとても懐かしく感じた。
ふと、思い出して倒したオークとコボルトの魔石を取り出して口に含むと魔石がドロり、と溶けて口の中で液体となった。思っていた以上に喉の通りが悪く、むせ返りそうになるの堪えて飲み込んだ。
輪ゴムのような味がした。
「げほっ……まっずぅ……」
『スキル名:【怪力】とスキル名:【統率】を取得しました』
「本当に、獲得できた……」
スキル欄を見ると確かに2つ増えている。
スキル名:【怪力】
効果:常時発動スキル。攻撃力が80上昇する。レベルが1上がるごとに上昇値が4上がる。
スキル名:【統率】
効果:自身を主とした
どちらも回帰前で聞いたことのあるスキルだ。
【怪力】はレベルが上がれば上がるほど強くなるのが特徴的で【統率】は共にダンジョンを攻略する仲間がいるのであれば必須とも言えるスキルだ。
私とは縁が無かったスキルに思わず口元が綻ぶ。
『魔石の純度が低いため全てのスキルを獲得できませんでした。同様の魔石を再度取り入れることを推奨します』
【全知】が私に告げた。どうやらモンスターどもは2つ以上のスキルを持っているらしい。
疲れ果てて重くなっていた体に活力が湧いてきた。消耗した魔力も回復している気がする。
『回答します。魔石の魔力を吸収したため魔力が回復しました。保有できる魔力の量も増加しています』
「気のせいではなかったのか」
これからは余裕のある時に魔石を喰ってもいいかもしれない。
構内に戻ると第1波、第2波よりも濃い魔力の奔流を感じた。
――第3波か。出現したモンスターを見ると体の大きさがさっきまでとは違い、一回り大きい。
ゴブリン……というよりホブゴブリンだろうか。ダンジョンで倒したボスと同じぐらいの大きさだ。さっきまでのゴブリンとは違い、武器を持っていたり防具を装備している。
【神速】を使って切り込む。
「――硬いな」
先ほどまでのモンスターたちは何の抵抗もなく剣が通ったのだが、今湧いたモンスターからは抵抗を感じる。
私の攻撃力と剣で抵抗を感じるのであれば防御力がそれなりに高い。銃器が全く通用しないモンスターだ。
このまま進行を許してはいけない。ここで倒さなければ――。
その瞬間、腹を内側から殴られたと錯覚するほどの爆発音が私を叩いた。平衡感覚が失われ酷い耳鳴りがする。アイテム袋から回復薬を取り出して流し込んだ。
耳鳴りが止み、感覚が戻る。何かが撃ち込まれてきた。
今のは間違いなく兵器の類の爆発音だ。飛んできたのは先ほどの1発のみで耳を澄ますとキャタピラの音がいくつも聞こえた。
「戦車の砲弾か……ってちょっとマズくない!?」
号砲が鳴るといくつもの発射音が響いた。【神速】を使って全力でホーム階に駆け上る。
無数の着弾音がすると建物が揺れた。支柱を吹き飛ばしたのかホーム階が沈んでいく。
完全に崩れると共に飛び上がって近くにあった看板に掴まる。駅が崩れて粉塵が大きく舞った。
粉塵が晴れるまで静寂が訪れる。巨大な扇風機のようなもので粉塵を吹き飛ばしているようで瓦礫の山と化した駅が顕わとなった。モンスターの姿は見えない。
「グルァアアアアァァア!!!!」
瓦礫が飛んだのと同時にオークの地を這う重低音が静寂を突き破る。それを金切りに瓦礫の山の中からモンスターたちが次々と出てきた。
戦車砲による攻撃が一回り大きいオークを襲う。直撃しているがダメージは微塵も見えない。
オークはニヤリと笑って足元にある瓦礫を掴んだ。
「投げるつもりか――!」
看板を蹴ってオーク目掛けて急降下する。
腕を振りかぶって瓦礫を投げるモーションに入ったオークの首を飛ばして地面へ着地する。
出来れば人前に出ずに片付けたかったのだが……!
無理やり人目に晒されては仕方ない。住処から引っ張り出されたモグラの気分だ。
次々とモンスターを切り伏せていると砲撃が止んでいた。目に見える範囲のモンスターを掃討した後、戦車のある方へ目を向けると一人の自衛官が私に笑って敬礼をしていた。
――あの時助けた人だ。
「……ありがたい配慮だね」
誰にも聞こえない小さな声で呟いた。
モンスターの出現が止んだからか、周りに居る人たちのざわめき声が大きくなり始めた。
突如として出てきた私に視線が注がれているのが分かる。
まだ……終わりじゃない。
暴風かと錯覚するほどの魔力が渦巻くと10mはあろうモンスターが出現した。
鋭利な角が生えた牛の顔、筋骨隆々で自身と同じ丈の両手斧。
ミノタウロスだ。
「ブモォォオォオオオオォォオォォ!!」
天を裂くほど大きな咆哮は人々を絶望させるには十分すぎるほどだった。ひとしきり咆哮し終わったミノタウロスは威圧感を放ちながら両手斧を高々と突き上げた。
立ち尽くし、手に持っていた武器を落とす自衛官も居た。恐怖は伝播し数人が崩れ落ちる。
すすり泣く声すら聞こえた。
「よっ」
足元にあった瓦礫をミノタウロスに投げる。角に当たったのか硬い音がした。
一瞬で辺りが沈黙した。ミノタウロスはわなわなと両手斧を握っている。
「早くかかってきてくんない? 晩御飯までには帰りたいんだよ」
「ブルァァァアアアア!!」
――携帯食料はもう食べたくないんだよ……。
ミノタウロスの怒号と共に最後の戦いの火蓋が切られた。
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