14話--帰宅--
実家に帰ってきてから1週間が経過した。ゴブリンが出てきた件から毎日見回りという名の散歩をしているがゲートらしき魔力の気配は感じられなかったので当分は大丈夫だろう。
まあ、散歩というより母さんの配信から逃げる役目が殆どであるのはここだけの話だ。
沙耶から教えてもらった母さんのチャンネルで配信が終われば散歩は終わりにして家に帰る……というのを毎日やっている。
「もう元気なら私は東京に帰ろうかな……」
「お姉ちゃん帰るの?」
誰か見てくれている人がいないと宿題のやる気が出ない、などと言っていた沙耶が反応した。
今は沙耶の宿題を進めさせるために私は沙耶を監視している。
明日東京に帰ればダンジョンが現れ始めて8日。後2日経てばモンスターが外に出てくる。
今回のように少ない数じゃない。10日経ってモンスターが外に出てくる時は数百……多いときは数千のモンスターが一斉に出てくる。
日本で最初のダンジョン――渋谷と大阪の梅田に出現したダンジョンの位置はどちらも駅のトイレ内で発生初日にはその場所は封鎖されているらしい。
人口が多いところほどダンジョンが出現しやすい傾向にあった……はず。
「その宿題終わらせないと沙耶は連れていけないかなぁ」
「分かった。全力で終わらせるから部屋から出て待ってて」
集中して宿題に取り掛かる沙耶。人が居なくてもできるじゃん、と喉元まで出かかったが飲み込んで黙って部屋から出た。
せっかくやる気になったのに水を差すのはもったいない。
私の部屋は寝るスペースしかないぐらいには物置と化しているので行く場所がない。リビングにでも行くとするか……。
「あ、母さん。調子はどう?」
「もう大丈夫よ。あきちゃんは明日帰るの?」
「聞こえてたんだ。元気そうなら帰ろうかなって」
沙耶との会話が聞こえていたようで母さんが帰るのか聞いてきた。
帰れるのなら明日には帰って自分の家でのんびりしたい。一人暮らしに慣れてしまうと、いくら実家と言えど自分の気の休まる空間ではなくなってしまっている。
「なら、沙耶も連れてってあげて~。あの子ったらあきちゃんが東京行ってから毎日、あきちゃんはいつ帰ってくるのか聞いてたんだからね~?」
「ちょっと!!!! お母さん!!!!」
母さんの暴露に沙耶の部屋から怒声が飛んできた。
顔を真っ赤にした沙耶が自身の部屋から出てきて続けて母さんに言った。
「それは言わないでって言ったでしょ!!」
「あら~、ごめんねぇ~」
全く悪びれもせずに母さんは沙耶に笑って言った。やめておけ、沙耶。この状態の母さんには何言っても無駄だぞ。
私に聞かれたくなかったのか顔を真っ赤にして不機嫌を露わにしている沙耶を抱きしめて回収する。
「ほら、宿題終わらせて一緒に帰るんでしょ?」
「……うん」
一緒に歩いて部屋へ連れていく。沙耶を部屋に放流して「宿題頑張ってね」と声をかけるといじらしく小さな返事だけをした。
リビングに戻ると母さんがニヤついていた。
「だいぶ仲良くなったじゃないの」
「そう? 変わらないと思うけど……」
強いて言うなら沙耶の扱い方を分かってきたのが大きいのかもしれない。物理的に距離を近くして話せば殆どのことはまかり通る気がする。
無事に宿題を終わらせた沙耶は車の中で燃え尽きていた。
1つ終わらせれば連れていくつもりだったが、徹夜して全部終わらせたらしい。
「駐車場ついたよー」
「お姉ちゃん……私は燃え尽きたよ……」
「はいはい、私の家に帰ったら寝ようね」
「一緒に!? いいんですか!?」
急に起き上がる沙耶。実家では各自の寝る場所があったため一緒に寝ることはなかった。
私の家には寝具は1つしかないため必然的に一緒に寝ることになるけど。
「私も運転で疲れたから寝ようかな……」
「うん、寝よ? 一緒に」
やけに一緒に寝ることを押してくる。
いつもと違う体勢で寝ることぐらいしか違和感がないから別に構いはしないけど……。早く帰って寝たいのか、沙耶の歩く速さがいつもと比べて5割増しだ。
家に入ると1週間ぶりの我が家の香りが私たちを歓迎した。
靴を脱ぎ捨てて服も脱ぎ捨てて、浴室に直行してシャワーを浴びた。
浴槽に浸かりたい気持ちもあったが、寝てしまいそうな気がしたので止めておいた。洗い終わった私の後に続けて沙耶が浴室にやってきた。
沙耶がシャワーを浴びているうちに仕事用の携帯の確認をしておこう。
切っていた電源を立ち上げると不在着信が数件と新着の友達登録の通知が来ていた。
不在着信の正体は上司と……知らない番号。調べてみると警察署とコンビニのようだ。
……何かしたっけ?
「友達登録のほうは……こもりん? 誰だ……」
メッセージが届いていたので見て思い出した。
あぁ! あの時のコンビニ店員の子か!
じゃあこの警察署とコンビニの電話はあの時の一件だね。
「初めまして、こんにちは! 小森 愛です。
あの時のナンパ男の件は片付いたので連絡しました。
私の家族が経営しているコンビニなので私はいつでも居ます。
お礼をしたいので来るときに連絡して頂けないでしょうか……」
メッセージの内容はごく普通のものだった。怪文書みたいなものだったらどうしようかと思ったけどまともな人なのだろう。
どう返そうか悩んでいると沙耶がシャワーを浴び終えて浴室から出てきた。ドライヤーを手に持って
「髪乾かして~」
「自分で乾かしなよ……」
我が物顔で私の前に座ってドライヤーを渡してきた。
まったく、手のかかる妹だ。持ってこなければ私が乾かす必要はないと思って洗面台の前で乾かした意味がなかったようだ。
乾かし終えると沙耶が私の仕事用の携帯を手にもって画面を見ていた。
「お姉ちゃん? これは?」
「げ、えっと、それはね――」
どうして何も言ってくれなかったの。と拗ねる沙耶に事情を説明する。
納得していないようで疑り深く私を見ている。
……寝て誤魔化そう。沙耶をベッドに連れていき、余計なことをしないように抱きしめて私はそのまま眠りに落ちた。
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