15話--妹とコンビニ--


 翌日起きると沙耶はまだ寝ていた。

 いつもであればこっちを向いて起きているのだが、何とも珍しいことがあるものだ。寝たのが遅かったのだろう。

 時計を見ると朝の7時を過ぎた頃合いだった。

 沙耶を起こさないようにベッドから抜け出し、伸びをしながら寝室から出て顔を洗う。最近の日課となりつつある朝食を作りながら魔力増加法をしよう。

 慣れてきたのか魔力を取り込んでも痛みを感じなくなり、【神速】も1分間は連続して使用することができるようになったので日々の積み重ねは大切だと実感した。


「明日はダンジョンの存在が世界的に知られる日か」


 ぽつり、と呟く。回帰前は命からがらゴブリンとスライム、コボルトから逃げていた記憶がある。

 凄惨な光景を目の当たりにして逃げるのではなく「何かの撮影か?」とか「ドッキリだろう」などと言ってその場に留まる者が多かったのだ。結果として一般人が大量に死んだ。

 いきなり空想上のモンスターたちが現れたら足も止まるのは理解できなくはないが……。

 

「あ、ドレッシングがない」


 実家に帰る前に冷蔵庫の中にあるものは使い切ったのだがストックした買い置きがあるだろうと棚の中を見たら不在だった。

 別のもので代用しようかと思ったがコンビニに買いに行くことにしよう。

 外出の準備をしていると寝室から沙耶が出てきた。

 

「おあよー……あれ? お姉ちゃんどこかいくの?」

「おはよう沙耶。ドレッシングが切れてたからコンビニに買いに行ってくる」

「コンビニ……。コンビニ!? 私も行くっ!」


 何か買いたいものがあるのだろうか。

 急いで準備をしている音が聞こえてくる。

 ――20分ぐらい待っただろうか。薄化粧をして服装もバッチリ決まった沙耶が出てきた。これ見よがしに私の前でポーズを決めていた。

 

「うん、似合ってるよ。かわいい」

「えへへ……ありがとっ」

「……コンビニ行くだけだよ?」

「分かってるよ、お姉ちゃん。これは私にとって聖戦みたいなものだよ」


 どうやら褒めてもらうのを待っていたようで褒めたら上機嫌に笑った。何やらよく分からないことを口走っているが、気にせず玄関に向かう。

 沙耶が居るので走るわけにもいかず、のんびりとコンビニへ歩いていると沙耶が腕を絡めてきた。

 

「……歩きにくいんだけど」

「お姉ちゃん、これは必要なことなんだよ」

「そう……」


 歩きにくくとも無理やり振り払うのは罪悪感に苛まれそうなので選択肢に無い。諦めて歩みを進める。

 他愛ない会話をしながら歩いているといつの間にかコンビニについていた。一人で歩くのと誰かと話しながら歩くのでは流れる時間の速さが違う気がする。

 

「いらっしゃ……いませー……」


 聞いたことのある声が私たちを出迎えた。最初は元気だった声が後半はすごい小さくなったのは何故だろう……。

 特に気には留めず、ドレッシングが売っているコーナーに向かう。いつも使っているものは無いけれど和風ドレッシングなら、どの商品でも似通っているのでコレにしよう。

 いつの間にか買い物カゴを持っている沙耶。カゴの中にはドレッシングのコーナーの対面にある珍味が入っていた。

 ……分からなくはない。実際にこの前コンビニに行った時に買い物カゴ持ってたし。

 他に何を買おうか悩みながら陳列棚を見る。

 

「おやつってあったっけ?」

「うーん……全部食べちゃった気がする」


 この前買った分は全部消費しきってしまったので新しく買い足す。雑に選んでカゴに入れていく。

 よし、こんなものだろう。

 レジに持っていくと、この世の終わりがが近づいてきているかのような顔をした小森ちゃんが立っていた。

 

「れじぶくろ、いりますか……」

「あ、お願い」

「さんえん……いただきます……」


 何やら元気がない。どうしたのだろうか……。

 さっきから引っ付いて離れない沙耶を見ると勝ち誇った顔をしていた。

 一体何をしたいんだ……? とりあえず、小森ちゃんに声をかける。

 

「元気ないけど、どうしたの?」

「あ、いえ……だいじょぶです。お連れさんとはどういったご関係で……?」

「妹だよ。ほら、沙耶。昨日のメッセージのコンビニ店員さんだよ」

「私の、姉が、お世話になりました」

「妹さんなんですね! どうも、小森 愛です」


 お互いに目と目を合わせて見つめ合っている。

 気が合ったのだろうか。こっちのほうには沙耶の友達がいないから良き友人になれそうならなってほしい気もあるけれど……。

 そうしているうちにレジに金額が表示されて会計をした。2500円越えは買いすぎた感も否めないなぁ、と考えていたら小森ちゃんが沙耶に話しかけた。

 

「私、諦めませんから」

「ふふん。好きにすればー?」


 何を話しているかは分からなかったけれど、終始見つめ合っていたようだから気が合ったのだろう。

 今度、一緒に遊ぶ機会などを作ってみよう。

 小森ちゃんに見送られてコンビニを後にする。

 時刻は朝8時。通勤通学のために忙しなく人の往来が増える頃だ。

 今日この後の予定を考えながら帰路に就いた。



 家に帰って朝食を食べ終えた。

 今日は特に予定もないので発生したてのダンジョンが近くにあれば攻略しに行こうか悩んでいる。

 【全知】、近くにダンジョンの反応はあるか?

 

『回答します。5つ存在します』


 結構あるんだな。一番人目につかない場所にあるダンジョンは?


『回答します。南西にある墓地の近くにあるゲートは人目に付きにくい場所にあるでしょう』

「墓地……? 霊園か」


 地図で調べながら【全知】の言った場所を確認する。

 確かに人が来なさそうな場所ではある。平日の昼間では人はまず来ないだろう。

 武器もあることだ。魔族との戦いに備えてレベルも上げたいから行くとしよう。

 髪を後ろで縛って立ち上がる。沙耶に説明してから行かないとな……。

 

「沙耶ー。私、ちょっとダンジョン行ってくるね」

「そんな近所のスーパー行くみたいなノリで行けるところなの……? この前説明してくれた、あのモンスターとかがいるところだよね!?」


 沙耶が私を止める。

 事情などは実家にいた時に説明済みで明日、モンスターが溢れることも知っている。

 そして、ダンジョンに入れば覚醒をすることも。


「そうだけど……」

「私も、付いていきたい!」


 ……さて、どうしたものか。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る