11話--ダンジョンと宝箱--

 車の中から鉈を取り出して北西の方角へ走った。

 家の入り口にゴブリンの頭を置いてきたので余程の事が無い限り入って来ることは無い。同族の報復より自身の生存を優先するモンスターだからだ。

 自分たちを狩れる者がこの敷地内に居る。というのを分かりやすくするためにやったことだ。

 森へ全力で走って息を切らしては回復するまでに余計な時間がかかってしまうので速度を落として向かった。

 森の中に入ると確かにダンジョンがある、というのが魔力の濃度で分かった。

 【全知】、方角は間違っていないか?


『回答します。後100mほど前に進むとゲートが見えます』


 進んでゆくと確かにそこに回帰前、嫌になるほど見たゲートが存在していた。

 ひし形に近い形をしていて中は濃い紫色をしている。なるほど、突発型のダンジョンだ。見分け方は簡単で、濃い紫をしていれば突発型で真っ黒であれば持続型だ。

 外からはゲートの中を観測することができず、ダンジョンの難易度が高くなればなるほどゲートの大きさが大きくなる。

 

 ゲートに入る前に周囲の確認をする。本来であればモンスターは10日経たないとダンジョンの外に出ることはない……はずなのだが今回、実際に外にゴブリンが居た。


『回答します。ダンジョンの外にモンスターが10日以内に出ることは原則、あり得ません』

「原則……ねぇ」


 つまり、【全知】でも知り得ない異常が発生しているって事なのだろう。

 ゲートの周囲を見て回ったけれどゴブリンが居る形跡は無かった。断定はできないが……出てきたのはあの4匹だけなのか……?

 中に入るとするか。


「ふぅ……よし!」


 パチン、と両頬を叩いて気合を入れなおしゲートに飛び込む。立ち眩みのような世界が歪む感覚に襲われて少しすると洞窟の中に私は居た。

 ゴブリンがメインで出現するダンジョンの内部は洞窟になっている場合が多い。難易度が高かったりすると遺跡のような場所のときもある。

 今回は洞窟なので今の私でも問題なく倒せる範囲の難易度だ。

 

 大きく息を吸う。鼻にツンとつく匂いとむせ返りそうになるほどの濃い魔力。

 ――あぁ、私はダンジョンに帰ってきたんだな……。そう思わせる空気感がそこにはあった。

 さぁ、ここからは戦場だ。一瞬たりとも気を抜くことなくボスを――狩るぞ。

 洞窟のダンジョンは単純に奥に進めばいい。分かれ道などは特になくて下へと降りる階段があり、階層ごとにゴブリンが居る。

 今、私が居るのを地下1階として今回のゲートの大きさならば地下3階ぐらいまでだろう。

 

「2時間で終わらせようか……」


 感覚が研ぎ澄まされてきた。洞窟内を罠など気にせず走り抜ける。稚拙な罠が多く、素早く走り抜ける物体には当たらないものが殆どであった。

 3分ぐらい走り続けると少し開けた場所に出た。ゴブリンが20匹ほど寛いでいるようだ。

 防具も無い現状でこのまま突っ込むと囲まれて袋叩きにされてしまう可能性があるが臆せず突っ込んだ。

 

「ギギャッ!?」


 手前に居たゴブリンが私の存在に気がついたのか叫び声を上げて周りのゴブリンが地面に置いていた自身の武器を拾おうとしている――が、遅い。

 瞬く間に近くに居た8匹のゴブリンの首を落として残りのゴブリンを仕留めにかかる。

 ゴブリンの戦闘準備が整ったのか矢や石が私の方に飛んできた。飛んできた方向へ駆けながら最小限の動きで躱して6匹を斬り捨てた。

 残すは逆方向に展開した6匹。鉈を地面に置いて殺したゴブリンが使おうとしていた投石用の石を全力でゴブリンに向かって投げる。

 目にも留まらぬ速さで飛んでいった石はゴブリン達の頭を砕いた。

 

「19……20! これでこの広間は全部かな」


 奥に階段が見える……が、早めに片付いたのでやれることをやってしまおう。

 ポケットに入れておいたサバイバルナイフを使って殺したゴブリンから魔石を取り出す。


「確かこれを食えばスキルが……」


 魔石を手に持ち、凝視する。

 ゴブリンの魔石……すんすん、と鼻を鳴らして匂いを嗅いでみる。

 

「くっっっっっさ!!?」


 想像を絶する臭さだった。思わず地面に叩きつけてしまった……。

 分かりやすく表現すると下水道に居るザリガニをそのまま腐った卵と酢で炒めたようなものだった。冗談抜きで臭い。


「え……これは流石に口に入れたくないんだけど……うぇ……」


 魔石を口に入れた想像をしてしまい吐き気を催した。

 よし、決めた。ゴブリンの魔石は食べない。集めるだけ集めといてハンターとしての生活が世界に浸透してから売り捌こう。

 悪態をつきながら死骸から魔石を取り出していく。

 20個全て集め終えて周囲を確認すると階段の横に道があるのが見えた。

 

「最初見た時あったっけ……?」


 見落としていたのか、もしくは今新しく出来上がったのか。

 まだ時間があるから行ってみるか……。

 階段を素通りして道を進むと宝箱が1つだけ置いてあった。

 罠じゃないだろうな? 魔石を1つ宝箱に向かって投げる。何も作動せずに魔石が地面に落ちた音だけが洞窟内に木霊した。

 

「魔力に反応する罠ではない……か」


 中身は気になるので宝箱に近づいてみる。開けれる距離まで近づいてみたが何も起きない。

 まさか罠がないのか……? いや、そんなはずはない。宝箱に触れると青い画面が目の前に出てきた。

 

『【決して小さくない加護】の効果によって宝箱の罠が解除されました』

「は?」


 罠は仕掛けてあるだろうと思っていたが、これは想定外だ。

 【全知】よ、どうして【決して小さくない加護】で罠が解除された?

 

『回答します。宝箱の隠された本質である罠を看破し、罠のレベルが貴女の器用さを下回ったため解除された。と推察されます』

「ふむ……? 神々が与えた加護のスキルが役に立ったということか」


 能力値を確認したが"器用さ"という項目は無かった。

 私が知るすべのない隠された能力値なのだろうか。まあ、宝箱の罠が解除されたのは僥倖だ。早速開けるとしよう。

 古びた扉を開けるような軋む音をさせながら宝箱を開けると中には金貨と小さな革袋が入っていた。

 

「こっ、この袋は!?」


 私が、回帰前に使用していた物ではないか!? 細かい傷があり袋の真ん中に、この袋を手に入れたときに組んでいたパーティーメンバーの僧侶が描いた骨付き肉から花が咲いているよく分からないマークがある。

 革に染み込むインクで描いたようで、このマークが落ちることは無かった。

 数十年も見続けてきたんだ。見間違うわけがない。

 これは、私のアイテム袋だ。アイテム袋とは10種類までであればいくらでも物を入れることができるダンジョンから排出されるお宝の1つだ。

 袋には使用者を登録する必要があり、登録する者の血を袋の中に垂らすと登録した者以外は使用することができなくなる。

 

「まさか……中身は入っていないだろうな……?」


 恐る恐る袋の中に手を突っ込むと入っている物のリストが頭の中に浮かんだ。


◆-------------------◆

・金貨 40,930,108枚

・携帯食料 250個

・古代竜の魔石

・古代竜骨の剣

・古代竜骨の鞘

・古代竜骨の杖

・古代竜骨の弓

・古代竜骨の矢 2000本

◆-------------------◆


 思わず呆けてしまった。私が回帰前に最後に確認したときと全く同じ中身だったからだ。

 古代竜を討伐してその骨で武器を一式作成したが、非常に価値の高いものだったから使うのが勿体なく感じてしまい袋の肥やしとなっていたんだったな……。

 

 ――なあ、私を見ている神よ。私にこれを渡してどうしたいんだ。

 などと、問いかけても返答はない。

 この袋が何故ここにあるか思索に耽るのは別の機会にして、今はこのダンジョンのボスを倒すことだけを考えよう。

 アイテム袋に宝箱の中にあった金貨を収納する。右手に持っている鉈は刃こぼれが酷く、あと数体ゴブリンを狩ったら使い物にならなくなるのが見て取れた。


「これも何かの縁……なのか」


 鉈を捨ててアイテム袋から古代竜骨の剣を取り出す。

 ……軽い。先程持っていた鉈の半分もないだろう。切れ味はどの程度なのだろうか。作成してから試し斬りもせずに仕舞い込んだから確認しないとな……。

 近くにあった岩に刃を押し当てると何の抵抗もなく剣が通った。剣が抜けてから岩がズレる。

 

「は、ははっ……」


 想像以上すぎて乾いた笑いしか出ない。

 これからこの剣で斬られるゴブリンが少し可哀想に思えた。

 

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