第25話

「と、いう訳だ。姫」


それ以上の言葉など、一切必要としなかった。伝えるべきことは全部伝えた。

4人は固唾を飲んで、ジャンチルを見た。


ジャンチルは、今、目を閉じていたが、ついさっきまでは身じろぎはおろか、まばたきでさえあまりしなかった。彼等はそれを知っていた。


4人の誠意に対して、ジャンチルもまた誠意で応える。


「わかったわ。あたしだって鬼じゃないんだから。半年だけまったげる。その間に、覚悟を決めなさい?いいわね?」


「いやなんかちがぅぅッ!姫!なんか違うううッ!!」

「兄者!落ち着け!落ち着くんだ!」

「ジャンチル殿!拙者たちが言いたかったことは、そう言う事じゃないでござるよ!」

「我らは、姫の事を案じてだな・・・」


「いいからいいから!あんたち!遊びはそこまでにして働きなさい。月光」

「は。はっ!」

「紙芝居よく出来ていたわ。誉めてあげる。明日から公園に行って子供たちに聞かせてあげなさい。10年後、あたしたちの理解を得られるように今のうちに洗脳するのよッ!」

「はっ、はっ!(せ!?洗脳っ?!そんな事をしていいのか?!はぁ!はぁ!)」

「コーシロー!」

「はいでござる」

「あんた宿題はやったの?」

「まだでござる・・・」

「だったらさっさと終わらせなさい!あんたは、学校に通ってるんだからしっかり勉強しなさいよね?」

「はいでござる・・・」


手探りの建国は、そのようにして、着実に進められていった。

ジャンチルには向こう70年ほど先までのざっくりとした国家運営のヴィジョンがあって。その中には、この国の政治中枢へ、自分の息のかかった人間を送り込む。というような物騒なものもあった。

ネズミが現れないように可愛い猫を部屋に招く、というものもあった。

もちろん最終目標は、大鮮麗の征服だった。


一方で、王国のちょっぴり頼りない民たちには、不思議とやすらぎがあった。彼等は、各々が使命感を持って与えられた責務をまっとうしていた。


もうじき、日が沈む。


部屋の中央を照らしていた光は、いつの間にかオレンジ色を帯びて、台所の床に暖かな光の島を作り出していた。

表では、学業や仕事を終えた町の住民たちが、誰も居なかった道などにひととき躍り出ては、暖かな光の中へと消えて行く。

寂れた小さな港町は今まさに、日常と、日常の境い目にあった。


時を同じくして、何者かが、ジャンチル共和国の国境(ドア)を叩いた。


『ちょっと!功史朗君!?さっきから随分うるさいんだけど?!5時以降、友達は連れてきちゃダメだって契約書に書いてあったの忘れちゃったの?!功史朗君?!』


「大家さんでござる!はい!いま行くから開けないでほしいでござる!」


功史朗が慌てて立ち上がって、玄関へと向う。それをジャンチルが止めた。


「ジャンチル、殿?」


『功史朗君!いるんでしょ?!開けるわよ!?変な男達も行ったり来たりしてるし。みょうなパーティでも開いてるんじゃないでしょうね?』


部屋の主の返事を待たずして、扉は堂々と、また、用心深く開けられる。

扉の隙間からいち早く得られた情報は匂いだった。


嗅ぎなれない、匂い。


これは、特別強い匂いだったわけでも、大家の嗅覚が特別に優れているわけでもなかった。


言うなれば違和感。


掃除機や、洗濯機の音に紛れて聞こえてくる焼き芋屋さんの声であったり、左右の靴下を履き間違えた時のような、些細ではあるが明確な違和感だった。


女の匂い。


きっと若い女だろう。


どこぞの財閥の御曹司と、その愛人の間に出来たどうでもいい存在と、普段から思っていた功史朗に対して、大家は身勝手にも強い敵対心を燃やしていた。

明日も来週もぐっすりと眠るために。若い男女の逢引きが頭上で行われているなど決して許されない事実だった。

大家にとって、ふかく考えるまでもない行動だった。

大家は半ば衝動的に扉をあけ放った。


「ちょっと!功史朗く」

「初めまして。大家さん」


若い女である。加えて。やはりその場で一番優位な立場にあるのは自分だった。

大家の予想はどちらも見事に的中した。

けれど、胸の違和感はなくならないままだった。


完ぺきな座礼は、自らに向けられていた。人生で初めての経験に大家は困惑した。

部屋の中では、功史朗と見慣れぬ筋肉のバケモノも自分と同じようにしていたので、大家は少しだけホッとした。

見計らう様に顔を上げた少女は可憐で、偶然にもその顔は、初恋の人に似ている気もした。


「ご挨拶が遅れてしまい大変申し訳ございませんでした。私は、ジャンチル共和国。国家元首。キム=ジャンチル・ペクドナ・ルル・トリューシュカと申します。勝手を重々承知で申し上げます。少しの間でいいのです。どうか、どうか私達をこのお部屋に住まわせてください!」


「共和国?国家元首、って」


大家は息をのむ。しばらくのあいだ泳いだ視線が功史朗をとらえた。


「大家さん。拙者も詳しい事はよく知らないのでござるが。彼女は拙者の友人の妹君で、わけあって、自国を追われて浜辺に漂着していたのでござるよ。この月光たちと拙者が偶然その場に居合わせ、現在に至るという訳でござる」

「はぁ、自国を追われて?ふうん。そう」


詐欺かいたずらだろう。大家はそう決めつけた。


「でもねぇ、そう言うのはやっぱり行政の方をまず先に頼るべきじゃないかしら?」


我ながら、なかなかの返しである。


まゆをひそめる大家に対して、功史朗はそれよりも、もっと困窮している表情を見せた。


「それがそうもいかないのでござるよ。先ほど申し上げたように、拙者は彼女の兄にあたる人物と面識があるのでござるが。その兄と言うのが、お隣の国大鮮麗人民共和国の国家主席その人なのでござる」

話しのスケールが急に拡大したため、大家の顔に強い疑いの色が現れる。

「・・・いたずらじゃないの?」

「拙者も初めはそう思ったでござるが、彼等の言動や思想や行動理念から察するに、残念ながら真実でござる」

「でもそんな事、ニュースで少しもやってないじゃない。だって、一番偉い人がいなくなっちゃったのに・・・そんなおかしな話・・・ねえ?」

功史朗の分厚い眼鏡が白く輝いた。

「そこが、今回の一連の騒動、最大のミステリーなのでござるよ」

功史朗はパイプをくわえた探偵さながらに、ちゃぶ台の周りをゆっくりと歩いて姿勢を正した。

「一国家のトップとその妹君が国外への逃亡を余儀なくされておきながら、この国はおろか世界中のメディアのどこにもその事が報道されていないのでござるよ!陰謀論やオカルトを専門に扱う情報誌、『Eye‣of all things』にさえ欠片も取り上げられていないのでござるよ。ご存じでござるか?この雑誌の最新刊、大国を牛耳る裏組織のドン,お化けに怯える!」

「・・・おばけ?」

「ああ、いや、話がそれたでござる。拙者は、往々にして、事実は小説より奇なりと、言いたかったのでござる。大家さんの言う通り、こんな事は普通はあり得ないでござるよ。何者かが、事実を隠そうとしているに決まっているでござる。その辺のちゃちな悪党なんかじゃないもっと巨大な『何か』でござる。そんな状態で、生き証人である渦中の二人が公の場に姿を現したら一体どうなってしまうのでござろう。世界有数の先進国家で軍事クーデターが決行されたという衝撃的なスキャンダルが公表されるだけでなく、その事実を、例えばでござるが。一部の関係者、または諸外国、もしくはその両方が共謀し、徹底的に隠そうとしていたと世界中に知られたら?それは、つまるところ、『暴力による政権奪取を一部の先進国家が黙認し、あまつさえ、国家ぐるみでその証拠隠滅に協力した。』と言っているようなものでござる。これではまるっきり共犯でござるよ。昨日まで平和だった世界は大混乱でござる。もしも、その説が濃厚となり、世論が加速した場合、『話し合いによる平和的解決』を公言してきた先進国家の信用は地に落ち、人々は疑心暗鬼に囚われ、次世代の覇権を狙う国家が続々と台頭し始めるでござるよ。彼等は声高々に言うでござる。『我らの先祖を苦しめた嘘つき共を許すな』と。ようやく訪れた人類の平和もたった十数年で幕引きでござるよ。そうさせないために、ジャンチル殿は独立国家を樹立し、まずは自身の影響力と信用を国際社会に認めさせ、正式な手続きを踏んだうえで公の場に立ち各国首脳と会談を設け、自国の民と、一族の名誉のために、事実の解明に努めようとしているのでござる」


功史朗は、後半あたりからなかば自暴自棄になりながら自らの持論を語った。

なぜなら、そのほとんどが彼の予測によるでっち上げだったからである。

そもそも、ジャンチルが真に求めていたのは、感情に任せたただの仕返し&政権奪取だ。それもいますぐに。

国家の樹立などは、兄のいい付けを守ったうえでのプランBに過ぎない。

しかしながら、この、ジャンチルの大胆な一手は、感情に任せて打ち出したとは思えない攻防一体の妙手でもあった。

前政権の生き残りが他国で活き活きと政治活動を行うなど、現政権にとっては目の上のたんこぶでしかないだろう。

その上、ある程度、知名度が上がるころには、雑に扱う事も出来なくなってしまう。


彼女の活躍を見守る大衆が、何よりの証人となるのだ。


国家とは常々、歴史と、多種多様な価値観の証人によって形成されるものなのだ。


段々と整理されていく思考のなかでロジックが積み上がり、完ぺきな三角形が出来上がった。

△(シャキーン!)

ピラミッドだ!

功史朗は、この、若く、可憐な人物に隠された鋭い直感と、卓越した政治手腕に身震いした。


(ぶるぶる・・・)


功史朗のただならぬ様子に大家は息をのんだ。というのも、大家が知る功史朗少年とは、昔から、変わっていると呼べるほどに内向的で真面目だったのだ。

この豹変ぶりが、ただ事ではないという事を直感させた。

ジャンチルが再度、深々と座礼する。

「何かあったら、その時は、警察にご連絡していただいて結構です。何卒」

大家は初め、セールスの電話とおなじく9割方詐欺だと思っていた。しかし、今はそれが4割ほどになっていた。

大家は、私って、実は騙されやすいのかしら?と、人生41年目にしてようやく自覚する。

ジャンチルが顔を上げる。

改めて見ると、その姿はやはり高貴だと感じた。

日々の家事で荒れた指先が行き場を失い顎に伸びる。

「まぁ。少しくらいなら。ね?」

それを聞くと、ジャンチルは目を輝かせて、反射的に大家の手を取った。

「本当ですか!?ありがとうございます!何かお手伝いできることがあったら何でも言って下さい!あれは月光、雷電、雲龍です!見ての通りみんなとっても器用なんです!」

「は、はぁ。どうも」

「大家さん」「我らの事は」「お気に入りの下着の様に酷使して構わない」

「なんだか気持ち悪いたとえね・・・」

「この紙芝居も彼等が作ったんですよ?さっそく、何か言いつけてください!」

「ううんー、なにかって、急に言われても。もうじき暗くなっちゃうし、お夕飯の準備くらいしか」

「手伝います!それならあたしが手伝いますから!」

「でもねぇ、そんなに大変じゃないから」

「そう。ですか」


最初は堅苦しく必死そうで、その後は、とても快活に笑って、今は悲しそうにしているジャンチルを見て、大家は、久しぶりに他人に興味が湧いた。

思えば、彼女くらいの娘がいる世界線もあったのかもしれない。


「やっぱり、手伝ってもらおうかな?せっかくだし」


そう言うと、ジャンチルの表情は思っていた通りに明るくなった。

サラダを作り、ご飯を炊いて、煮物を煮よう。そう、思った。



その晩。



ジャンチル共和国では、裸電球が作り出す僅かな光の中、作成された原版を用いて造幣作業が行われていた。


1ジャンチルドル札。


同国の最高権力者の肖像画が印刷されたものだった。


「功史朗。あとは我々がやっておく。お前は明日の為にもう休むのだ」

月光は、いったん手を止めて、インクの受け皿の上に原版を置いた。

印刷された未断裁シートは、すぐに羅虎や魹鷲、雲龍らの手によって、乾燥の作業に移された。

乾燥したものから順に雷電と飛影が切り分け、それらは100枚を一束として紙帯でまとめられた。

月光と共に第一段階の作業を任せられていた功史朗が手を止め、時計を見た。

「ご心配感謝するでござるよ月光殿、この一山を片付けたらそうさせてもらうでござる」

「うむ」


功史朗が立ち上がり、作業の邪魔にならない様に浴室へと向い蛇口をひねった。


空けておいた浴室の窓から、久しぶりの再会を果たした家族の様に楽し気な会話が聞こえた。

大家と、ジャンチルの声だ。

功史朗は、歯ブラシのストックが残り7本あった事を思い出し、胸をなでおろしていた。


「ただいまー!今帰ったわよ!大家さんにご飯をわけてもらっちゃった!こんなにたくさん!」


大家と作った料理と共に、ジャンチルが帰宅する。背中には古いリュックサックが背負われていた。


『姫、おかえりなさいませ』

「あんた達、今度大家さんにあったらきちんとお礼しなさいよ?あとそうだ!大家さんのお部屋の床がペコペコなるから、明日修理しておいてね?いい?」

「はっ!」

「ん?なによこれ!汚いわね!邪魔よ!捨てなさい!」

『・・・ああっ・・・!』


ちゃぶ台に、沢山の料理が置かれた。煮物や、炒め物、野菜のサラダだ。

月光たちは散らかった紙幣と道具を束ねて部屋の隅に追いやった。


「お箸も借りて来たッ」

「ジャンチル殿、風呂を沸かすのでよかったら先に入るでござる」


「ありがとうコーシロー。でも先に食事にしましょ?冷めちゃうわ。さぁ席について!頂きます!」

『頂きます!』

「しっかり食べるのよ?いい?遠慮した奴は、死刑よ?」

『はっ!』(し・・死刑?!はぁはぁ・・・)


早速8人は、温かい料理を貪るように食べ


・・・コロ。


「あ!」


・・・ころころころころ!


『ああっ!』


られなかった!


「くっ!なんでこんなに面倒な方法で食べるのよ!」


口まで運んだ煮物を一度下げて功史朗。


「フォークか、さきわれを持って来るでござるか?」


「必要ないわ!これくらいっ・・・!」


・・・ころ。


「くっ!」


「功史朗」

月光だ。

「正しい持ち方を教えてくれ」

功史朗は、摘まんでいた煮物を皿に置き、良く見えるように手を持ち上げた。


「ここをこうしてでござるな・・・」


箸の持ち方。

まずは、一本を薬指と親指、手の平の側面を使って固定する。

この時、手はピースサイン(✌)のように動かすことが出来る。


『ふむふむ』


次に、人差し指と中指、親指でもう一方を摘まむようにして持つ。

こちらは、ペンを持つようにするのがコツで、食べ物を摘まむ際に、動作させるのはこちら側だけになる。


「こうでござるよ」

『おおー!』


それぞれが早速試してみる。


「うむ、こうだな」

「なるほど」

「これならどのような食材にも対応できるな・・・」

「季節があり、豊かな土壌があり海産資源にも恵まれたこの地ならではの方法だな」

「何と美しい文化なんだ」

「3点留めを2か所で行うという事か。なんと無駄のない」


『では、いただきます』


・・・ころ。


『!!!』


「ひ・・姫!まさか!」


全員の視線がジャンチルに注がれた。

小さな手が操るお箸には、どういう訳かなにも摘ままれていない!


なぜだ!


「むぅ!どういう事なの?全然うまくできないじゃないッ!」

ジャンチルが立ち上がる。

「飛影!ちょっとどきなさい!」

「ぁ」

返事を待たずして、ジャンチルは飛影と功史朗の間に割って入る。


「で?どうするの?」


功史朗は、ゆっくりと丁寧に、初めからやり直した。


「こうやって」

「ふむふむ」

「こうやって」

「ううん」

「こうでござるよ」

「!!!」


できたぁっ!


正確にはちょっとだけ不格好な持ち方だったが、誰もそれを言及しなかった。

箸として機能すれば、とりあえずは問題ないのである。


「よかったでござるなジャンチル殿」

「ありがとうコーシロー!さぁ食べましょ!」


・・・ころ。


『・・・』

「ふん!」


あざ笑うかのように転がった煮物に箸が突き立てられた。

箸は、煮物の脳天をまっすぐ貫通し、テーブルにぶつかって止った。


「千里の道も一歩から、ね?」


ジャンチルが煮物を美味しそうに食べた。

月光たちも。

功史朗も。


おいしい煮物は忘れかけていた。母の味がしたような気がした。

そもそも、そんなものは知らないのかもしれないとも思った。


「とっても、おいしー!」


功史朗が、しみじみと味わっている間に、早くもジャンチルの箸がお皿に伸びる。

すると、彼女の肩や、腕の周りが功史朗の体と触れ合った。

ほんの、少ししか触れていないというのに、瘦せた体を包み込むように形を変える、柔らかい腕や肩。


功史朗は気付いてしまう。


今。

触れているのは。

女子だ!!!


一度、そう考えてしまうと、彼の胸は、どうしようもなく高鳴った。

鼻息も荒くなり、味わっていた煮物も当然喉を通らない。

彼は唐突に、女子という漢字について考えた。

女子とは、好き。と同じではないか!


つまり。


x=y

x=z


とした時。

必然的に求められる式は


x=y=z


x=女子

y=好き

z=ジャンチル!


つまり、ジャンチル=好き!


なんという恐ろしい方程式だろう!

ああ!漢字を発明した昔の人よ!どうか間違っていておくれッ!

さもなければ、あったばかりの人を好きだと思うなんてどうかしている!

不純だ!

汚れている!

大体、つい最近まで渚に思いを寄せていたお前はなんだったのだ!この浮気者!功史朗の浮気者!浮気者ッ!


「ん?コーシロー?どうしたの?具合でも悪いの?」

「あ・・・ッいや、何でもないでござるよ」


やめておけばいいのに、功史朗は、伏せていた目を恐る恐る持ち上げた。

すると、ジャンチルは、やはりこちらを見ていた。

その、可憐さ、愛らしさたるや。

短い人生を振り返ってみれば、彼女に限らず、女の子はみんなそうだった!どうしようもない魅力で満ちている!

歯止めなど、もう利かない。


無意識のうちに拒絶していたありとあらゆる情報が脳へと流れ込む。

同じようにやり過ごしていた感情が、あっという間に心を埋め尽くした。


功史朗は、正気を失わぬよう必死に耐えた。


理解だ。こんな時こそ、理解が必要だ


雷も、地震も、燃え盛る炎でさえ、原理を知っていれば恐れることは無く、いつだって冷静でいられる。

一見すると、解くのは無謀だ。と、思われるほどに複雑に絡み合った『ときめき』と言う名の糸の謎を、一本一本解明するのだ!


第一に、ジャンチルの体は信じられない程に柔らかい、一体何で出来ているのだ!

答え.そうだ!きっと古代文明のオーパーツだ!

第二に、とてもいい匂いがするような気もした!

答え,それはきっと煮物の匂いだ!

第三に、部屋は蒸し暑いのに、肌が全然ベタベタしてない!

答え,きっと最新技術を駆使したスーツのおかげだ!

第四に、すごく温かい!

答え,恒温動物はみんなあたたかい!


それから。それから。

あと、他にも、それはもうどうしようもないくらい、不思議そうな表情をしたジャンチルが素敵に見えた!なぜだ!理由など、とても理解できない!


となれば、もう、残された手段はただ一つ、男ならば気合をもって耐えるほかない!


がんばるでござる!がんばるでござる!がんばるでござる!功史朗!


「どうしたのよコーシロー?本当に大丈夫なの?」

「だ・・・だいじょうぶで、ござる・・・よ」


功史朗は、ようやく煮物を飲み込んだ。

それが、いけなかった。

ほとんど同時に、ジャンチルのおでこが功史朗のおでこと衝突した。


「・・・熱?」

「・・・・・・・・・う゛ッ!」


細い髪の毛がさらさらと落ちて頬に触れた。

煮物があらぬ所へと詰まり、功史朗は気を失った。

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