第23話
栄えある第一回ジャンチル王国(共和国)最高評議会が開かれてから、早くも、生まれたばかりの国家に新たな憲法が制定されようとしていた。
150個ほどの候補の中から、特に国を運用するうえで障害にならないもの以外が削り落とされて行き。最終的にそれらは3個ほどに絞られる事となった。
大前提として、国家の為に。とあり。以下の文がそれに続く。
1.善良である事
2.勤勉である事
3.健全である事
柔軟な国家運用の妨げになる恐れのある取り決めは一旦保留とし、後日、法律や条例と言った形での実装を予定したうえでの制定であった。
功史朗が小中学校と使っていた習字セットを活用し、ジャンチルは、見事な筆さばきを披露して。いくつか折れ目の付いた書初め用紙にそれらが記された。
「・・・美しい」
月光がそう言って、反対側の角を持っていた雷電も頷いた。
柱の高い場所にセロハンテープを用いてしっかりと憲章が固定される。
「次は祝日と、年間計画のスケジュールね!予算の割り当てと・・・定期国会、収支報告・・・伝統行事も何か欲しいわね・・・!そうね。この日っ!」
ジャンチルは、残すところ半分程度となった小さなカレンダーにすらすらと、今年いっぱいの予定を書き込んでいった。男たちはそれをじっと見守った。
「これで良し!雲龍」
「はっ」
「これは一番目立つところに置いておいて」
「はっ」
「さて次は、通貨が必要ね。これについては飛影と羅虎に当たってもらおうかしら?」
『はっ!』
「紙幣と貨幣の原板が出来たら一度持ってきてね?」
「はっ」
「おまかせを」
飛影と羅虎は早速立ち上がり、材料の調達に出かけて行った。
「魹鷲」
「はっ」
「あなたは、私たちの食料の統括管理責任者をやってもらうわ。出来るだけ簡単で良いから、とにかく無駄を出さないように注意するのよ?それと、少しでも人手不足を感じたら、月光と雷電を頼って。いいわね?」
「はっ!」
「月光、雷電、雲龍は、その都度必要な部署に割り当てて、各々のバックアップに当たってもらおうかしら」
『はっ!』
「さて次は、そうね、経済力強化のための人員確保についての計画ね」
名前を呼ばれなかった功史朗は、ほっと胸をなでおろし、すずりに残った墨を吸いとっていた。
じゅるるるるっ!じゅるるるるっ!
「しかし、ジャンチル殿、この国では、そう言った何らかの団体への勧誘はえてして煙たがれる傾向にあるでござるよ」
じゅるるるるるっ!!!
「たとえそれが、ジャンチル殿のような由緒正しいお方が率いる団体であっても例外ではないでござるよ」
じゅるるっ!!!
「ふぅ。綺麗に吸い取れたでござる・・・」
功史朗の言う通り。この建物の一階に住む、大家の扉にも、しつこい勧誘やセールスをあらかじめ拒否するためのステッカーが貼られていた。
ましてや、大国や国際社会の了承も無しに、今しがた樹立したばかりの国家など、疑わしいことこの上なく、よほどの秘策が無い限り相手にすらされないだろう。
もし一度でもアプローチを誤り、困惑させることとなれば、奇妙なよそ者共と認識されて、その結果、奇天烈なあだ名で呼ばれるのがオチだ。
月光や雷電、雲龍も、過去の経験をもとに、功史朗の意見に賛同の意を表する。
「そうだ姫、この国の民は既にとても安定した日常生活を送っている。経済に、仕事、食事、住む場所、ほとんどが国家に帰属し、また、不足も無いだろう。彼等を、我々の賛同者に組み入れるとすれば、それは、よほどの好条件でなければ恐らくは不可能だ」
続いて雷電。
「彼等の望む好条件を我々が差し出すか。あるいは、彼等が今現在身を置いている生活が、何らかの形で失われる必要がある。と、言う事か」
「しかし、兄者、我らがそれを望むのは、誇り高き憲法を遵守しない行為とみなされる。目的は何であれ、他者の不幸を望むなどとあって良い道理などない。我らが能動的に振舞う事も然り」
「うむ」
「そうだな」
「難題でござるなぁ」
4人は腕を組み頭を傾けた。そして、一斉に水をすすった。
ジャンチルが不思議そうな顔をして茶の間にやって来る。洗ったばかりの筆を新聞紙で拭いていた。
「なに難しいこと言ってるの?はい、コーシロー。どうもありがとう」
「はいでござる」
「しかし姫、この件に関しては、いるかどうかも解らぬ『同族』を探すほか無いのではなかろうか?」
「それは砂場から一粒の砂を見つけ出すようなものだ」
「うむ。さらに、我らの理念に賛同してくれるかどうかが最も大きな問題なのだ」
「たしかに、そうでござるな」
4人はまた、一斉に水をすすった。
「だから、なに言ってるよのあんたちは、人口を増やす方法は一つしかないじゃない。あたしがあんた達の子供を産むのよ」
何気なく放たれた異次元からの刃が4人の脳天を直撃した。
4人はしばらく固まった。
お互いに顔を見あって、まさかね?と、爽やかに笑った。
刹那、真顔となり、一斉にジャンチルを見る。
「あたしが、産むのよ。当然でしょ?」
4人は身じろぎして、互いの顔をのぞき込む。
月光が何かのきっかけで動き出して、他の3人もそれを手助けする形となった。
功史朗が、押し入れから、座布団を4枚も取り出して重ねて、その上にジャンチルを座らせた。
「ちょっと、なにするのよ!」
答えは無かった。意図的に無視したのではなく、何かに必死になるあまり答えられなかったと言った様子だ。
確認できる横顔は皆、屍の様に動かなかった。
仕方なく、ジャンチルは、しばらくの間様子を伺う事にした。
雷電がお湯を沸かし、その間に雲龍がお茶のセットを一式用意する。
様々な道具が押し入れから取り出されては活用された。その多くは画材のようだった。
「出来た」
月光がそう言って、それぞれが並び立つ。
ジャンチルがお茶をひと口啜った。
「それで?」
月光が手にした紙の束の、先頭の一枚をめくった。
新たに表れた紙には、鮮やかな色彩で、王子様とお姫様のお城での結婚式の様子が描かれていた。
オチから入る形式の紙芝居である。
『げっこーげきじょー!はーじまるよーーー!!!』
『わぁーい!!』
『よっ兄者!待ってました!!』
『やったてでざるぅ―!』
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