第11話
将軍の参加もあってか、いつもなら放課ギリギリで終了していた幸子スペシャルはその終了予定を大きく早め、現在の時刻はお昼休みが丁度始まる辺りであった。
積みなおされた幸子スペシャルを抱えて、颯爽と教員室へと向かおうとする将軍を何人かが慌てて引き留めた。誰もおかわりなど望んでいない。
「はぁー今日は予定よりずっと早く終わったなぁ」
「将軍のお陰かもね?」
「俺は認めねぇ!俺が頑張ったからだ!」
「はいはいそうだね?今日映画行く?」
「うん。行く」
「今日は外でランチにすっかー」
「赤テラス行きたーい!そだ、たかしたちも来るぅ?」
「行くか。クーポン貰ったのあるし」
「おごらねぇからな?」
「ハハッ!うざー」
「決まりだね」
若々しく陽気な、いわゆる集団の上澄みのような者らが快活にその場を後にして、教室は僅かにガラリとして、もの寂しさが漂っていた。
将軍は、教室を去った者らが校門をくぐるまでその姿を目で追った。
「・・・」
「どしたの将軍?」
昼下がりの日差しを健やかに浴びて、渚は将軍の背中に向かって声を掛けた。将軍は、心なしか肩を落としてぽつりと言った。
「ずっと、一緒にいたかったな」
「ぷっ、また明日会えるよ?さ。私たちもご飯にしよ?」
「・・・ご飯ッ」
うんと伸びをして由夏も言う。由夏は今日もとても頑張ったのだった。
「ごはん♪ごはん♪」
由夏はカバンの中に手を滑り込ませて手作りの特性お昼ご飯を取り出した。
巨大なおにぎりである。
その隣で渚も、弁当の包みを開いた。
「相変わらずクソデカおにぎりだなぁ・・・」
「!」
「ふふふ。ご飯はね?いっぱいあるんだよ?渚?」
「なっ渚殿ッ!」
「どうしたの将軍?将軍の分もちゃんとあるよ?ほら?」
「わぁ・・・!渚殿の手作り弁当・・・ッ!・・・じゃなくて!」
「どうしたの?将軍様?おにぎり分けて欲し?はいあーん」
「え!いいのか?!ありがとう由夏殿!ふふふ・・・うん!おいしー!」
「うふふ。お塩と昆布とシャケとのりたまだよ?」
「あ!ああ!いや!とてもおいしいけれど・・・そうじゃなくて!」
「?」
「渚殿!」
「うん」
「その・・・さっき、渚殿が言った事なんだが・・・」
「ご飯にしよ?」
「ちがうちがう!」
「またみんなに会えるよ?」
「ちがうちがう!」
「クソデカおにぎり?」
「うん!」
「それが?」
「そんな言葉使っちゃいけない!その・・・くそでか・・だなんて!」
「ええー?おばあちゃんみたいなこと言うんだなぁ・・・」
「渚殿!」
「ああーはいはい。わかったよ。もう使わない。ほら将軍ご飯にしよ?」
「ありがとう渚殿!うん!君にはきっともっと相応しい言葉がきっとあるはずだ!一緒に探そう!」
「まったく、なにがなんだか・・・由夏あたしにもひと口ちょうだいー」
「はい。あーん♡」
「うん、美味い。シャケだ。お返し卵焼きー」
「やったー」
「あ!由夏殿!僕の卵焼きも是非食べてくれ!」
「いいよ?将軍様!」
「はい、あーん♡」
「ふふふおいしー!」
「ほっほんとうか?!なっ渚殿のとどっちが美味しい!?」
「なにその対抗心?」
「え?ふふ将軍様の方が美味しいよ?」
「本当か由夏殿!やったー!」
「おなじでしょうに。あたしが焼いたんだからもう、まぁ悪い気はしないど」
三人は穏やかで、楽しいひと時を過ごしていた。彼女たちだけではなく、学校全体がおおよそそんな感じだった。
変化が訪れたのはそれから間もなくのことだった。
渚、由夏、そして、将軍。彼女らにこっそりと忍び寄る人影があったのだ。
まるく借り上げた頭。太い黒ぶちの眼鏡、裾は校則通り、足首から2㎝の丈。骨太だがひょろりとした痩せた体躯。昼下がりの太陽で真っ白に反射する分厚いレンズの下で不敵な笑みを浮かべたその人物は言った。
???「将軍様。ジョンソン将軍様。この度はこのような場所でお会いできて恐悦至極に存じまするでござるよ」
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