第7話

買い物を済ませた二人は、海の近くを走る鉄道沿いの交差点に居た。

まっすぐ進めば渚の家、右に曲がれば由夏の家がある。

「ふぅーいっぱい買っちゃった。ありがとね由夏。助かったよ」


「ううん。いいの。今日は特売日だって。昨日渚が言ってたの聞いてたから・・・たくさん買うんだろうなーって知ってたよ?」


「ふふん。このい奴めー!このこのっ!」

「きゃー!」


「・・・由夏?」


「なあに渚?」


「今日、うちで一緒にご飯食べてく?」


「ふふ、嬉しいけど。お家に帰らないと」


「そか、まだ明るいけど気をつけて帰んなよ?」


「うん。またね渚。いつも、誘ってくれてありがと」


「いいよ」


たたたたたーっ!


「相変わらずの俊足だなぁ」


・・・・・たたたたっ!


「うわぁ!戻ってきた!」


「えへ、将軍様にさよならって言うの忘れてた」


「律義だねぇ」


「将軍様もまた明日ね?」


「ううん・・・迥ャ縺悟ヵ縺ョ雜ウ縺ォ縺翫@縺」縺薙r・・・」


「うなされてる。やっぱりすごくお腹空いてるんだね?」


「違うでしょ」


「沢山ご飯を食べてね?結婚式は・・・ふふ。じゃあ・・・ね?渚」


「うん。また明日」


「うん!」


たたたーっ!


由夏は真っ直ぐ自分の家に向かって走っていった。


どのような人物であっても、たとえそれが噂通りの人間であったとしてもだ。

人のつながりに変わりは存在しない。由夏は、今日もあの家にいるつもりなのだ。お父さんがいつ帰ってもいいように。


「健気だなあ」


ったく、幸せになりな!って。江戸っ子?


・・・。


ガラガラ・・・(扉を開ける音)。


「おばあちゃーん!ただいまー」


居間から光とテレビ番組の音が漏れていた。渚は手に持ったスーパーの袋を上がり框に置く、いつもよりも慎重に、今日は購入した品物の中に卵があるのだ。


『渚かい?ずいぶん遅かったじゃないか?』


そんな短い返事の最後の方は、こちらに近づいてきているように聞こえた。


「あー大丈夫。おばあちゃん座ってていいよ」


『何言ってんだい、早く仕舞わないと食べ物が悪くなるだろう?ただでさえ、最近あついんだから』


おばあちゃんの声の後を追うように、居心地の良い場所を追われた居候共が一足先に現れる。彼等の目的はエサだ。


にゃーにゃー。


わんわん。


かめかめ。


「おーよしよし、ただいま。今ご飯の用意するからなー」


「おや?渚。なんだいそりゃ?あんたまたなんか拾って来たのかい?」


にゃおーむ。


「・・・まったく。しょうがない子だね」


ごろごろ・・・。


くぅーん。


かめかめ・・・。


「ん?ああ、これね。将軍」


「まぁ何でもいいよ。こいつを片付けるのを手伝っとくれ」


「ああ!いいっておばあちゃん座ってて」


「何言ってんだい!同じことを言わせるんじゃないよ!」


「あーあー!わかったってばもう!いちいちうるさいんだよねー!」


「言わせるほうが悪いのさ・・・こんなにたくさん大変だったろう?」


渚のおばあちゃんはそう言うと膝うらに片手を添えて一度座り、スーパーの袋を持ち上げた。能天気なポップで書かれた派手な文字と、真っ白でチープなビニール袋は、おばあちゃんの抹茶色の着物に不思議とマッチしていた。


図々しい居候共もそれに続く。


にゃーにゃー。

わんわん。

かめかめ。


重ねて言うが、彼等の目的はエサだ。

おばあちゃんの姿が見えなくなると、渚はぽつりとつぶやいた。


「・・・今日も決まってるね」


『おべっかはいいんだよ!さぁ怠けない怠けない!』


「はいはい!わかってるってば!」


『はいは一回!』


「はーい!」


とたたたた・・・・。


『まったく、元気なんだから』

『ふん。一日中じっとしてるんだ。当然さね』

『今日は何食べたい?』

『そうさね。渚の作る料理はどれもおいしいからねぇ』

『カレーにしようか?』

『ふぅん。それもいいけどシチューにしてもらおうかね。野菜はばあばがこなそうかね』

『おっけー』


おばあちゃんは今日も元気そうだ。


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