第4話

季節は夏。そう。この地域には四季があるのだ。

繰り広げられるまどろみはまるで桃源郷にその身を置いているかのようだ。気を許せば星の反対側まで沈んで行ってしまうような、思わずそんな気がするほど柔らかい地面に体は横たわっていた。

美しいオレンジ色の薄暮の中での目覚めであった。


天国だろうか?


いや、そんなはずはない。


ジョンソンは、いつものように目覚めて一番に祖父から父へと、そして、父から自分へと引き継がれた母国の事を思い出し、飛び起きようとした。


・・・みんな!


が、体が異常に重く、まるでいう事を聞かなかった。その原因が彼には見えていて、衝動のまま飛び起きなかった事に深く安堵した。

なんということはない、怠け者がきっと物珍しいのだろう。昼間から情けなく横たわる体の上に小さな子供が乗って戯れていたのだ。


「んしょ・・・んしょ・・・」


ぺたぺた・・・。


ぼんやりと見えたのは、揺れるカーテンと、体の上に乗っている小さな子供、綺麗に整理された棚に並べられた薬品の瓶だった。それらは全て、夕日を浴びている。


「んしょ・・・んしょ・・・」


「ここは、ユニオン(初等部・中等部・高等部合同の学校)だったのか?」


「んしょ・・・はえ?」


ぺた。


「ありがとう、君は僕の手当てをしてくれたんだね?」

将軍がにっこりと微笑む。

「あっ!ああ!ごめんね!重いよね?体中傷だらけだったから。うんしょ・・・よかった、気分はどう?」


「君は?」


「私は、于志千鶴(うしちずる)ちーちゃんって呼んでいいからね?」


「そうか、ちーちゃん。どうもありがとう。本当に素晴らしい教育だ。渚殿と言い。君と言い。・・・ひとつ、聞きたいことがあるのだが?いいかな?」


「なあに?なんでも聞いてよ!」


「そうだな。君たちは、そのつまりこの国に住む人たち、お父さんやお母さんお姉ちゃんや弟とか・・・君のお友達が当てはまるんだが・・・」


「うん?」


「こういった教育カリキュラムを初等部から義務付けられているのか?」


「しょとうぶ?」


「ああ・・・ええと、初等部というのは・・・そう!小学生の事だ。だいたい6歳から13歳までの教育段階のことなのだが・・・・ああいや・・・6歳から13歳までの授業にあたるのか?・・・わかるかな?」


「?」


「ああ・・・すまない。何でもないんだ。ありがとう」


・・・ナデナデ。


「?・・・わーい!でもなんだか変わった謝り方だね?」


「ところで、ちーちゃんは授業に出なくていいのかい?」


「授業?」


「それとも初等部の授業はもう終わったのかい?」


「初等部の授業が終わらないとここにいちゃいけないの?どうしてだろ?おかしーねあなた。あっ!傷見っけ!」


ぺたぺた!


「ああ、ありがとう・・・ええと。言い方を誤ったかもしれない。その、ちーちゃんの同級生の友達は、クラスメイトという意味だ。今何を、しているのかな?ちーちゃんは、その子たちと一緒にいなくていいのかい?」


「お友達?同級生?」


「そう、一緒におうちに帰って。ご飯を食べたり、ああ、その。なぜ君のような小さな子供がこんなところに一人でいるのかという事を・・・聞きたいんだが・・・ううん・・・」


「・・・・ハッ!!」


「ああ!大丈夫。誰かほかの大人が来るまで僕が一緒にいよう。君はとても手当てが上手なんだな!すごいな君は、初等部・・・いや、まだ小学生だというのに」


「私!!小学生じゃないよっ!!」

「なんだって?!それは本当か?僕はてっきり、その、君がとっても。小さいから・・・」


「むー!失礼失礼!あなたもそんなことを言うの?!確かに体はほんのちょびーっと小さいけど・・・!教員章だって!!!ここに!あるんだからっ!」


千鶴は首から伸びていた青い紐をずいぶんと手繰り寄せて将軍に見せつける。

擦り切れた樹脂プレートには確かに彼女の顔写真と南城西高等学校教員とある。


「保健室の先生?あなたが?すまない!悪気はなかったんだ!昨日からいろいろあって!その違うんだ!冷静に判断・・・・いや、本当に初等部の生徒じゃないのかい?」


「むううーーー!!!」


千鶴は顔を膨らませて、ぶかぶかの白衣の内ポケットに手を突っ込んで銀色の容器を取り出して掲げた。


「本当なんだから!!」

「それは?!まさか!?待て!ちがうんだ!そういうつもりじゃなかったんだ!」

「お酒だって飲めるんだから!!」


クルクルクル・・・・ッ

ポンっ!

グイッ!ゴクゴク・・・・。


「よせ!」


「っぷはーー!!しみるー!・・・・ウィー・・・ううんーーーー」


「なっなんて無茶な飲み方を、せめて何か食べ物と一緒に飲まないと体に毒だ!肝臓に良くないぞ!胃や食道にも!血管にだって!」


「んもう!うるさいうるさい!こう見えたって私、来年30歳になるんだからね!あなたよりずぅっとずぅーっと、お姉さんなのよ?オトナなの!わかる?あなたたちの知らないことだってたーくさんしってるんだからね?ここ。なんていうか知ってる?尺骨神経よ?」


コンっ!


「うっ!」


じーん・・・。


「くぅ。痺れる・・・ッ!」


「ふふふ、そうでしょぉ?この間だってぇコーヒーに牛乳入れないで飲んだのよ?すごいでしょ?・・・ううんーあれーーおかしいなぁなんだか眠くなってきたぞ?・・・くかー」


「あぶないっ!」


ぷぅーん。


「くっ!酒臭い!!どうすれば・・・?」


『おおーい、しょーぐーん!』

『な・・・渚!声、大きい』

『だいじょぶだいじょぶ。ほら、ゴリ松。あんたがやったんでしょうが』

『む・・・むぅ。しかしだなお前ら・・・ここは』

『あ。そういえば名前聞いてないや、まぁいいよねおーい!しょうぐーん!』


「渚殿に由夏殿!それにゴリまつ先生!・・・・千鶴先生!千鶴先生!しっかりしてください!保健室の先生であるあなたがこんな状態では皆が心配してしまいます!」

「ううーん・・・あれ・・・・この声?」


ガララ・・・!

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