でも楽しそうだね

 4ラウンド目、残りの手番は私と土屋さんが1手ずつ。私の手番だけど、ここは無難に葦石飯でいいかな。あとは土屋さんの手番が終われば1ステは終了だ。


「うーん……」


 土屋さん、ここでかなり悩んでる。初めてやったときはもっとサクサク手を進めてた印象があるんだけど、やっぱりまだ初心者だもんね。2人戦と4人戦の違いもあるのかもしれない。って、私も序盤からけっこう悩むことがあるから、人のことは言えないか。経験を積んだ分かえっていろいろなものが見えるようになって、そのせいで悩むこともあるしね。


「授業、なんだけど……こっちの方がいいかなぁ……1飯払って、『台所の芸術家』を出すね」


 台所の芸術家は、誰かが小劇場に行ったら小麦を4飯に、羊さんを5飯に、野菜を7飯に換えられる職業カード。なるほど、それで菜園の世話人で野菜を取りに行ってたのか。納得のいくプレイングではあるんだけど、悩んでたってことは他に出したい職業があったのかな。私は豚さんを食べてれば当面の飯はなんとかなるから小劇場には行かないけど、石積君か甘菜ちゃんは2ステで行きそうだね。


「ラウンドが終わったから、日曜大工で増築しますねー」


 甘菜ちゃんが増築して、4ラウンド目終了。収穫の処理で飯を払って、5ラウンド目。めくられたのは『子供がほしい』。……え?


「えー、増員めくれちゃったの!?」

「織木さん、どうしてそんなに驚いてるの」


 私が驚いていることに驚いている土屋さん。だって! そりゃ驚くでしょうよ!


「私が最速増員狙ってるときにめくれたためしなんかないくせにー! なんで私だけ増築してないときに限ってめくれるんだよおおおおおおお!」

「落ち着いて、織木さん。あ、僕は増員するね。ついでに1レンガと1葦払って、『森の宿屋』を出すよ」

「うう……私は4木材で……」


 ショックのあまり何も考えずに4木材に行っちゃったけど、本当に4木材で良かったんだろうか……。あ、うん、4木材で大丈夫だ。これであと1葦あれば、私も増築できる。


「石積君、森の宿屋の効果って?」

「あ、これは土屋さんにカードテキストを見てもらった方が早いかな」


 そうだ、石積君、森の宿屋を出してたんだった。効果は、全員が使えるアクションスペースになるというもので、ここを使うと5/7/9木材を8木材と2/4/7飯に換えられる。ただし使用者以外は、使う前に使用者に1飯払わないとならない。条件として6ラウンドまでに出さなきゃいけないんだけど、今は5ラウンド目だからそこはクリアしてるね。コストの1レンガ1葦、特に1葦が重いから、6ラウンドまでに出すのは少し骨が折れる。だから石積君は1ラウンド目の2手目で1葦取ったってことだね。


「へー、なるほど。みんなが使えるアクションスペースになるんだね」


 説明を読み終えて、石積君にカードを返す土屋さん。ちょっと読んだだけだとわかりにくいけど、要するに5木材を持っているときに行くと、3木増えて2飯もらえるアクションスペースだと私は認識している。ただし石積君以外は石積君に1飯払わないといけないから、実質3木1飯。よほど飯に困っているときは、他の変換パターンを使うこともあるけどね。これが出てくると木が楽になるから、蒸気鋤を使う予定の私としては、かなり助かる。


 この後、土屋さんはスタプレ行かないと増員できないから当然スタプレ。出した小進歩は『レンガ補給』。1飯払って3ラウンドの間1レンガずつもらえる。甘菜ちゃんは4レンガ。石積君は2葦。2葦? 郊外管理者出してるのに、自分で2葦取りに行くのか。まあいいけど。私は葦石飯。これでやっと私も増築レディだ。土屋さんは3木。甘菜ちゃんは大きい進歩で2レンガ払ってかまどを取得。5ラウンド目、終了。


「お兄ちゃんがかまど取らないで、2葦取ったの意外だった」

「飯はこれでなんとかなるから、かまどは後でいいかなって思ったんだよね。新入生の効果で、『森林地区管理』を出すよ」

「うわー、またインチキくさいの出してきた……郊外管理者とコンボしてるじゃん……」


 森林地区管理は、森林と小さな森をどちらも自分で使っていればラウンドの終わりに5飯をもらえる職業カード。ということは、小さな森に行った後に郊外管理者の効果で窪地に2葦を置けば連手番できるから、そのまま森林に行けばラウンドの終わりに5飯をもらえる。なんじゃそりゃー! インチキにもほどがあるわ!


 6ラウンド目、めくれたのは改築。

 スタプレは土屋さん、もちろん増員して『耕地の垣根』を出す。効果は、種パンに行ったら種撒きかパン焼きのどっちかをキャンセルすれば、柵を引ける。コストも条件もないから、出しやすくて使いやすい。

 甘菜ちゃんはスタプレ。甘えマスなしアグリコラ名物、行列のできるスタプレ増員。出した小進歩は『屠畜具』。なんかカード名とイラストが怖い……。効果は、かまどや調理場で羊さんか豚さんを飯に換えるたびに、追加で1飯をもらえる。羊市場に羊さんが4匹溜まってるから、今行って3匹食べれば追加で3飯か。良いタイミングで出してきたな。

 石積君はさっき説明したインチキコンボの連手番で、小さな森と森林へ。なるほど、このラウンドは窪地に置いた2葦は回収しないから、さっきは葦原の2葦を取ったのか。これで5飯確保した上にまた増築レディ。手番順は甘菜ちゃん、石積君、私だから、甘菜ちゃんと私の増員タイミングの間に、石積君が割って入りそう。ふざけんな。

 私はやっと増築。でも増員出来るのは石積君のインチキのせいで、たぶん9ラウンド目。んー、追いつけるかな。

 土屋さんは葦石飯。甘菜ちゃんは羊市場で、羊さん4匹のうちを3匹を屠畜具でアレして、合計9飯ゲット。イラストは怖いけど屠畜具、強いな。

 石積君は日雇い行って増築。これで手持ちの飯が4飯になって、さらに森林地区管理で5飯もらえるから……あれ?


「これ、もしかして誰も小劇場行ってくれないんじゃ?」


 うん、土屋さんも察したね。自分以外の誰かが小劇場に行ってくれないと、土屋さんが出している台所の芸術家は発動しない。

 これはもしや、私の中のアグリコラダサいプレイランキング第2位、「台所の芸術家を出しているのに自分で小劇場に行ってしまう」を土屋さんがやってしまうのでは?(ちなみに第1位は、「人形使いを出していて誰かが小劇場に行ってくれたのに、飯が足りなくて職業を出せない」)

 最後に私が授業で大鎌使いを出して、石積君がインチキコンボで『森林科学者』とかいう地味な職業を出して、6ラウンド目終了。


 で、7ラウンド目! このラウンドは甘菜ちゃんが増員したり石積君がスタプレ取ったりしてたんだけど、そんなのは誰でも予想できることだからどうでも良い! 私の興味は、台所の芸術家を出しているのに誰も小劇場に行ってくれない土屋さんがどうやって飯問題を解決するのか、その一点!


「おやおや土屋さん、飯が足りないようだね?」

「ぐむむ……」

「大丈夫だよ、小劇場に7飯落ちてるじゃん。拾っときなよ」


 ちなみに土屋さんは5木持ってたので、森の宿屋で飯を解決する手もあったんだけど、普通に3木1飯もらってた。まあこういう展開になってしまったら誰も小劇場には行かないだろうから、これは正しい判断だと思うよ。


「えーい、仕方ない! 自分で小劇場行って7飯取る! もー、石積君か甘菜ちゃんは小劇場に行ってくれると思ってたのに!」

「すいません、土屋さん。全部お兄ちゃんのインチキが悪いんです」

「そうそう、悪いことはだいたい石積君のせいだから」

「酷い言われようだ……」


 今、一つ気付いたことがある。土屋さんは、うまくいかなくて困っているときの顔が一番かわいい。


「このゲーム、ホント難しい。なかなか思った通りにいかないね」


 でも楽しそうだね、土屋さん。

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