織木さんのアグリコラ

わざとなのか天然なのか

「そんな話、どうでもいいから！　土屋さんの番だよ！」

「あ、ごめん、えーと、２木取るね。で、私は３木にも行ってるから、菜園の世話人の効果で野菜もらうね」

「はい、どうぞ。これで２ラウンド目終了だね」

　３ラウンド目、めくられたのは羊市場。私が汚水溜めのレンガ、甘菜ちゃんが路面舗装工の１飯をもらって、スタプレは石積君。

「あ、ごめん、さっきのラウンドの終わりに焼き菓子講座と新入生のコンボ使うの忘れてた。今やっちゃっていい？」

「えー、もうラウンドカードめくった後じゃん。まあいいや、羊市場に影響ありそうなカード出すのはやめてね」

「ごめん、羊市場には関係ないから。『郊外管理者』出すね」

　珍しいな、石積君がカードの効果使うの忘れるなんて。やっぱりさっき土屋さんにからかわれたのが利いてるのか？　それはそれとして、郊外管理者か。効果は、小さな森か窪地の累積スペースを使うたび、もう片方に共通ストックから２葦を置けば連手番ができるというもの。あまりうまく使える気がしなくてスルーしがちな職業なんだけど……って、窪地が６レンガになってるじゃーん！　今まで誰も取りに行ってなかったんかーい！

「じゃあ、６レンガ取って、小さな森に２葦置いて、連手番で２木２葦もらうね」

「なんだそのインチキー！　やっぱり許可するんじゃなかったー！」

「まあまあ、織木さん」

　石積君を動揺させた責任を多少は感じているのか、私を宥めようとする土屋さん。まあ、私も別に本気で怒ってるわけじゃないんだけどね。こんなの石積君とはいつもやってるやり取りだし。でも今日は石積君の家じゃないし、土屋さんもいるし、やっぱりちょっと自重しないとな。

　で、私の番だけど、ここは３レンガを取って２手目で調理場だよね。妙なことをしてもし調理場を取り損なったら、全ての戦略が崩壊する。石積君に６レンガを取られたのはけっこうショックだけど、先に郊外管理者の効果で手番を終えてもらったのはむしろラッキーだったと思おう。これで石積君に２手目で調理場まで取られてたら、目も当てられないことになるところだった。

「３レンガで」

　この後は土屋さんが葦原で２葦、甘菜ちゃんが授業で『造園事務長』を出して４木入手。造園事務長は早めに出せば４木もらえる他に、得点計算時に一番畑の野菜が多い人に２点ボーナスという効果も付いている。うーん、野菜かー。小麦ならいくらでも手に入るんだけどな。

　石積君の手番は終わってるので次は私、予定通り大きい進歩で４レンガを払って調理場確保。さらに若い農夫で小麦をもらって即植える。次は豚さんを食べるから飯行動は必要ないし、４ラウンド目の２手は自由行動だ。ここまですこぶる順調。土屋さんは、少し考えて増築。部屋を中段の横に伸ばす形に配置。あ、やっぱり避暑地使うつもりだね。甘菜ちゃんまで回ってたらどうしようかと思ってたんだけど、ドラフトでちゃんと取ってくれたのだけは褒めてやろう。石積君も甘菜ちゃんも察した様子。次は甘菜ちゃん。

「あ、次６木できるんですね。じゃあ、ここはスタプレ一択ですね！　３木払って『鎖状農具』！　７、８、９ラウンド先だから、１０、１１、１２ラウンドに畑タイルを置きますねー」

　うわ、ここで将来の畑３枚を確保しつつ、次の初手で６木材か。これは強い。甘菜ちゃんも２葦は確保してるから、増築レディになっちゃうな。増員が遅れるのは織り込み済みだけど、さすがにちょっと焦るわ。これで３ラウンド目終了。

「今度は忘れないで新入生使うね。出すのは『日雇い農夫』」

　石積君がまたインチキで出した日雇い農夫は、日雇いに行ったら増築か改築ができる職業カード。あれ、石積君、今の手持ちが２飯だから、日雇い行ったら増築しつつ飯問題解決じゃん。やっぱりインチキだー！

　４ラウンド目、めくられたのは種パン。スタプレの甘菜ちゃんは予定通り６木。石積君はスタプレ。

「２レンガ払って『会館』を出すよ。４ラウンド先まで１飯ずつ置いて、５ラウンド先だけ１石置くね」

　会館は４振り飯と１石をもらえる小進歩カード。コストは３木か２レンガのどっちかを選んで払うんだけど、だいたい２レンガで払われる。どう考えても木の方が大事だからね。点数も１点付いてて、けっこう優秀。それはそれとして、これで日雇い行ったら増築できるから、次増員がめくれたら石積君が最速増員か。土屋さん、せっかく先に増築したのに残念だったね。まあ、どうせ５ラウンド目に増員がめくれることなんてないだろうけど。

　私は４木材。自由に動ける手番なので、とりあえず目についた資材に飛びつく。土屋さんは漁で４飯確保、予想通り。甘菜ちゃんは授業。

「１飯払って、『日曜大工』出しますね。スタプレ行かなければラウンドの終わりに増築アクションができます」

　日曜大工か。スタプレ行ったラウンドは増築できないから最速増員を狙うには不向きだけど、それでも手番を使わないで増築できるならかなり強い職業だよね。これで甘菜ちゃんもこのラウンドに増築か。次は石積君は日雇い行って増築だろうから、早くも２部屋なのは私だけになっちゃうのか。いいもん。どうせ５ラウンド目に増員なんて出ないし。

「僕は日雇いで。２飯もらって、日雇い農夫の効果で増築するね」

「石積君、これで飯足りちゃうんだ。さすが上手だね。ここまでの手順、すごくきれい」

「え、そ、そう？」

　こら。何、土屋さんにちょっと褒められたぐらいで照れてんだ、石積君。普段私や甘菜ちゃんとやってるときは、ほとんどポーカーフェイスのくせに。

　……いや待てよ。私も甘菜ちゃんも、普段石積君を褒めることなんてないからな。石積君て何考えてるのかわからなくてやりにくいといつも思ってたんだけど、実は褒めてやれば案外チョロかったりするのか？

『わー、すごーい。さすが石積君、上手だねー』

『え、織木さんどうしたの。何か悪いものでも食べた？』

　……絶対、こうなりそうな気がする……。おかしいな。石積君て、私のこと好きなはずなんだけどな？

「ね、石積君と織木さんて、どっちが強いの？」

　土屋さん、ずいぶんグイグイくるな。よほど今日のアグリコラを楽しみにしてて、テンション上がってるのか。そりゃあ、もちろん――。

「土屋さん」

　あ。

「もしかして私のこと、この中で一番下だと思ってます？」

　出たー！　久々に聞いたよ、甘菜ちゃんのめっちゃ低い声！　相変わらず迫力あるわ！　背筋が凍る！　そうだよね！　甘菜ちゃんて何気に自信家だし、誰が強いかなんて話になったら黙ってられないよね！　さあ、土屋さんはどう返す？

「え？　違うの？」

　うわー！　そう来たか！　さすが初めてアグリコラをやった日に「さあお逃げアタック」を実行した上で、「もしかしてご飯に困っちゃった？」と私を煽ってきた女！　言うことが違う！　私には真似できんわ！

　さあ、甘菜ちゃんは……あ。気のせいか、前髪に隠れた青筋が、ピキピキと音を立てているのが聞こえたような気がする。

「一応私の自己ベスト、お兄ちゃんも織木さんも出したことがない６５点なんですけどね……？」

「……え？　あ！」

　ん？　土屋さん、何かに気付いた様子？

「ごめん、甘菜ちゃん！　年齢の話だと思ってた！　そうだよね！　勘違いしちゃってごめんね、へー、６５点……６５点！？　甘菜ちゃんすごいね！？」

「えへへ。そうでしょう」

　あれ。甘菜ちゃん、意外とあっさり機嫌直ったな。ちょっとヒヤヒヤしたけど、変にケンカにならなかったのは良かった良かった。もしかして、石積君が土屋さんに褒められたのが羨ましくて、自分も褒められたかっただけだったとか？　だとしたらかわいいな、甘菜ちゃん。

　それにしても、わざとなのか天然なのか。石積君とは違う意味で何考えてんのかわかんない子だな、土屋さん……。