だから今は

「子なしで野菜をもらうけど、今回は野菜スライサーは使わないね」


 土屋さん、初めて野菜スライサーを起動せず。そろそろ畑に植えるつもりかな。畑も2枚耕してるしね。


「で、1手目は……うーん、3石取るね」


 3石か。てことは井戸狙いかな。さっきの練習のときは盤外点が全然なかったから、そこに目を向けてきたってところだね。もう野菜スライサーで4点取ってるし、盤外点はそこそこ良い感じになりそう。でも、家と家族の点数も馬鹿にしちゃいけないんだよ。


「私は4葦取るよ」


 手元には5木あるから、これで4部屋目の増築資材が揃った。手押し台車の効果を活かすためにも、最低4人は欲しい。飯はきついけど、手数さえあればどうにかなる。手数の強さを見せてあげるよ!


 土屋さんはまた増員せず、井戸を取得。何がやりたいのか、だいたい見えてきた。おそらく、ギリギリまで増員を遅らせて子なしを起動し続ける作戦だね。確かにこれなら子なしと野菜スライサーの飯だけで食べていけるし、野菜スライサーの点数もそれなりに伸びる。初プレイでよくこんな戦法を考えたよ、土屋さん。

 だけど、残念ながらそれじゃ私には勝てないね。確かに子なしは強い。毎ラウンド小麦か野菜を勝手に持ってきてくれるんだから、一見すると家族がもう1人いるかのように思える。だけど、それは手元に小麦も野菜も持っていないときの話。畑に植えたい分の小麦と野菜を確保し終えたら、あとは増員して畑に撒いてしまった方が圧倒的に効率が良い。例えば野菜3つを畑3枚に撒いたら、野菜が6つに増える。つまり差し引き野菜3つが増えるということで、野菜の数だけで考えるなら、種パンの1手で子なし3ラウンド分の起動に相当する。だから、野菜スライサーを使うにしても、やっぱり畑に撒いてからの方が、私は強いと思う。


 でも、今はそれは口にしない。発想はすごく面白い。何しろこれをゲーム開始前の短時間で、カードの予備知識もなく、誰の助けも借りずに、自分1人で考えたというのがすごい。もし土屋さんがアグリコラを好きになってくれて、アグリコラを続けてくれたら、きっともっと奇想天外で、私には思いつかないような、すごい戦略を見せてくれそうな気がする。

 土屋さんにはアグリコラを好きになって欲しい。もっと土屋さんのアグリコラが見たい。だから今は、私のアグリコラを見てもらうよ!


「増築して、恐妻家の効果で葦原にいるワーカーを戻すね。で、種パンで小麦を2つ植えるよ。最後に増員して、出す小進歩は『永久ライ麦栽培』! 条件は小麦畑1つだからクリア、効果は収穫の後に小麦2つあったら1飯、3つ以上あったら小麦をもらえるよ」

「へー、勝手に小麦が増えていくんだ」


 9ラウンド目、めくられたのは猪市場。土屋さんはまた子なしで野菜をもらって、野菜スライサー起動せず。

 土屋さんの初手は6木材を取って、森の湖畔荘で追加の1飯。私は4レンガ。土屋さんの2手目は畑。私の2手目は1石。


「1石でいいんだ?」

「うん。このラウンドはレンガ窯を取りたいだけだからね。資材は数じゃなくて、目的に合ってるかどうかだよ」

「なるほど」

「で、次は豚さんを取るよ。開墾鋤の効果で畑を耕す!」

「あ、そうか! 1匹だけなら飼い切れるから、開墾鋤が発動するんだ!」

「で、大きい進歩で3レンガと1石を払ってレンガ窯! 即パンが焼けるけど、その前に手押し台車の効果で、累積スペースに3人いるから小麦を3つもらう! もらった小麦のうち1つをレンガ窯で、もう1つをかまどで焼くよ! 合計7飯! これで手持ちが8飯になったから、このステージも飢えずにすんだね!」

「すごい! 小麦植えちゃって家族4人にして、これでご飯どうするんだろうと思ってたら、あっという間になんとかしちゃったね!」

「いや、ギリギリだったけどね……ここまで、ホントキツかった……」


 畑に小麦を植えて、家族も4人にした。ここから先は、手数で押していくだけだ。手は抜かないよ、土屋さん!





 試合は進んで、最終ラウンド。スタプレは私。

 私の盤面は、家族5人、レンガの部屋4、畑4枚、牧場4マス1区画。空き地が3つあるけど、それはこれから畑種と改築柵に行けば埋められる。盤外点はそんなにないけど、予定通りいけばたぶん50点は越えられるんじゃないかな。

 土屋さんの盤面は、家族3人、木の部屋3、畑5枚、牧場4マス4区画。空き地は3つで、これはたぶん埋められない。最初に増員したのは、なんと13ラウンド。それでよくここまで盤面を作ったよね……。畑5枚にきっちり小麦3つと野菜2つを撒いてるし。主な盤外点は野菜スライサーの5点と井戸の4点。とても初心者のプレイとは思えなかったよ。

 おっと、褒めるのはまだ早かったね。ゲームはまだ終わってないんだし。


「初手はもちろん畑種行くよ。小麦5つを撒くね」

「私は牛3頭を取るよ」

「授業! 1飯払って、『異端教師』! 授業のアクションを使用するたび、小麦が3つ植えられている畑の一番下に、野菜1つを差し込めるよ。だから、5つの小麦畑の下に野菜を差し込んで、これで私も野菜4点だね」

「えっ、どういうこと? これって、あらかじめ出しておかなくて良いの?」

「うん、私も最初は知らなかったんだけど、『授業を使うたびに』って書いてある職業は、授業で出したときに即発動させていいんだって」

「へー、そうなんだ」


 この後、土屋さんは豚さん5匹。でも飼い切れなくて1匹逃げる。私はパン焼き、土屋さんは振り飯で食べてたから、家畜は溜まっていく一方だったなぁ。木が辛くて、2人とも柵引くの遅かったし。

 私は改築柵で石の家にして、5木材払って柵を引いて空き地を埋める。最後は溜まってる羊さん7匹をさらって、ちょろっと飯行動して終わりかな。さすがに土屋さんもここまで来て「さあ、お逃げアタック」はしないだろうし、最終手は急子で3点でしょ。しても別にいいけどね。お互いの点数が下がるだけだし。


「織木さん、この『森の学校』の効果なんだけど」

「ん、何?」


 そういえば土屋さん、そんな小進歩出してたな。効果は、授業のアクションスペースを占有されていても使えて、職業コストの飯を木で払っても良い、というもの。


「私これ出してるから、授業は行けるんだよね? 木は持ってないんだけど、そのときのコストって普通に飯で払ってもいいの?」

「うん、どっちで払ってもいいってだけだから。占有されていても使えるって効果は活きてるよ」

「じゃあ、授業で、1飯払って『領主』! 4点のカテゴリー1つにつきボーナス1点だから、小麦と野菜と畑と牧場で、4点!」

「おー、すごい! 4点なら急子よりも強いね!」

「うん。ずっと最後にこれ出すこと考えて動いてたんだけど、他で点数取れなかったなぁ……」


 いやいや、十分すごいよ、土屋さん。セオリーで強いとされている打ち筋を覚えたら、あっと言う間に上達しそう。てか、領主なんて持ってたんだ……先に異端教師出しといて、ホント良かった……。


 この後は私が予定通り羊さん7匹を取って、飯が足りないので漁で8飯と港の商人の効果で葦をもらって終了。別に羊さんとか食べれば物乞いはしないんだけど、食べない方が点数は伸びるからね。


 さて、最後の収穫の処理をしたら、得点計算だ。1位は私だろうけど、土屋さんが何点取れたのかは気になるね。

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