この屈辱、晴らさでおくべきか

「授業。1飯払って『恐妻家』を出すよ。2人目のワーカーで部屋の建設アクションをしたら、最初に置いたワーカーを家に戻せる効果だね」

「じゃあ、この後織木さんが部屋を建てたら、今授業に置いた人を戻してまた使えるんだ。面白いね」


 土屋さんの衝撃の1手にすっかり動揺してしまったけど、それを悟られないよう努めて冷静に次の手を打つことにした。あんな大声をあげてしまった時点で、狼狽しているのは認めてしまったようなものなんだけど……。でも、このぐらいのピンチはアグリコラではよくあることだからね。私だって伊達に修羅場はくぐってきてないよ。あくまでも、初プレイの土屋さんにやられたのが衝撃的だっただけだから!


 この後、土屋さんは3レンガ。飯には当面困ってなさそうだけど、レンガ取るのか。かまど用? それとも何か手札にレンガを使う小進歩でもあるのかな。あるいは改築でもするのか。だとしたら何かコンボ材を持ってる? 私の中で土屋さんに対する警戒心が一気に上がり、いろいろな予測が頭の中を駆け巡る。お、なんだか頭が回るようになってきたぞ。これだよこれ。この脳汁がドバドバ出てくる感じ、アグリコラをしてるって気がする。まさか今日が初プレイの土屋さん相手に、この状態になるとはね。私を本気にさせるとは、たいしたもんだよ土屋さん。


「増築して、恐妻家の効果でワーカーを戻すよ。で、スタプレ行くね。1木払って手押し台車。パン焼きアクションをしたら、その前にワーカーを置いてる累積スペース1か所につき小麦1つをもらえるよ」

「へー、なるほど。手数を増やしたら強そうなカードだね」

「うん、かなり強いカードだよ。コスト安いし、出す条件もないしね」


 5ラウンド目終了。6ラウンド目、西の石切り場! はい、増員なんか出ない! 知ってた知ってた。

 土屋さんは相変わらず子なしで野菜をもらって野菜スライサー。もしかして、これで最後まで食べていくつもりなんじゃ……? まさかね? だって増員した瞬間に飯基盤崩壊だよ? いや。たぶん何か考えがあるんだろう。もう一切油断はしない。対等の相手だと思って、全力でねじ伏せてやる。


「6木材ね」

「うーん、また6木持って行かれちゃったかぁ。私は畑で」

「漁に行くよ。2飯と、港の商人の効果で小麦をもらうね」


 よし。これで飯の目途がついた。次は確実に増員がめくれるから、本当はスタプレ行きたかったけどね。でも慌てて増員しても飯行動に費やす手が増えるだけなら意味がないし、ここは確実に物乞いを回避できる手を打っておく。


「スタプレ。2レンガ払って、『森の湖畔荘』」

「あー、それ私が欲しかったな」

「あ、そうだね。港の商人とコンボするね」


 森の湖畔荘は、森林に行けば1飯、漁に行けば1木をもらえる小進歩カード。地味な効果だけど、発動する機会は多いからチリも積もればなんとやらで、なかなか馬鹿に出来ない強さがある。ついでにカード自体に1点付いてるのも偉い。

 それはそれとして、スタプレ取られちゃったか。じゃあ土屋さん、次は増員するのかな。


 7ラウンド目。待望の増員。土屋さん、相変わらず野菜スライサー、4回目の起動。もう相当飯稼いでるな。今手元に9飯あるし、新たに飯基盤を作るまでの猶予は十分あるか。さて、どんな手を打ってくる?


「3木。森の湖畔荘の効果で1飯もらうね」

「……へー。増員、しないんだ」

「うん。織木さん、お先にどうぞ」

「じゃあ遠慮なく。増員して、1木払って『開墾鋤』。累積スペースから取った家畜全てを農場に飼えたとき、1回だけ畑を耕せるよ」

「食べたり逃がしたりしたらダメなんだね」

「そう、さっきの土屋さんみたいなことしたら、発動しないよ」

「……織木さん、けっこう根に持つタイプ?」

「いやいや、もうそんな昔のことなんて忘れちゃったよ」


 ここで、土屋さんの手が止まる。今までポンポンと、初心者とは思えないぐらいテンポ良く手を進めてきてたんだけど、どうしたんだろう。戦略の分岐点にでも差し掛かってるのかな。


「……織木さんて、今2飯しか持ってないんだよね。えーと、このラウンドに増やした家族の分は1飯だけ払うから……3飯足りないんだよね?」

「うん、3飯足りないよ。あ、また羊さん逃がしちゃおうとか考えてた?」

「うん。正解」


 ホントえげつないな。おとなしい子だと思ってたら、とんでもないわ。2人戦だと、こういう兵糧攻めもありなんだな。むしろ私の方が勉強になったよ。


「一応羊さんを逃がされても、種パンに行ってかまどで小麦2つをパンにしちゃえば4飯になるからね。物乞いだけはしないように手は打っておいたよ」

「なるほどね。じゃあ自分の手を進めた方がいいか。畑に行くね」

「あ、見逃してくれるんだ。じゃあ羊さん2匹を遠慮なくいただきます」


 ふー、良かった。将来のために、ここで小麦は焼きたくなかったからね。2ステはなんとか乗り切ったか。しかし、羊さん2匹をかまどダイレクトとはなぁ。こんなエレガントじゃない食べ方をさせられるとは思わなかった。この屈辱、晴らさでおくべきか。


 7ラウンド目、終了。私が5飯、土屋さんが4飯払って、2ステの収穫の処理は終了。次は8ラウンド、めくれたのは野菜の種。いよいよ後半戦に突入だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る