こんなに苦しいのなら

「あー……なるほどねー、そういうことか」


 普通なら、私が畑調査人を出したのは全く意味のない1手。しかしさすがくびきさん、すぐに私の意図に気付いたらしい。石積君が並べている進歩カードの方に目をやっている。くびきさんならとっくに気付いているのかなとも思ったんだけど、たぶん職人地区が絶妙な目くらましになってたんだろう。職人地区があるなら、大進歩を集めるのはごくごく自然な手筋。だから、ほら吹きの可能性が見えにくくなっていた。よくここまで隠し通したよ、石積君。だけど、私が石積君の下家だったのが運の尽きだったね!


「織木ちゃんの言いたいことはわかるよ、わかるんだけどさー。私最後に木取って厩パンするつもりだったんだよねー。悪いけど、協力できないわー」


 そう言って、3木材を取るくびきさん。ぐっ……そうですか。まあ仕方ない。1位を狙えるならともかく、そうじゃないなら点数行動優先になっちゃうのは仕方ないですよね……。


「私は織木さんに乗りますよ! どうせこのラウンドは累積に3回行くの無理だし。授業行きますね。2飯払って、『森の住人』!」


 よっしゃー! さすが甘菜ちゃん! 甘菜ちゃんならやってくれるって信じてたよ! ちなみに森の住人の効果は……どうでもいいよね! 私の畑調査人と一緒で、今出しても意味のないカードってことだけわかればOK!

 さー、残るはほらっちさんだ! 頼みますよ、先生!


「あ」


 くびきさん……? なんですか、今の、まるでチラシに書かれている価格が一桁違うのを見つけたときのような「あ」は。もしかして、何かやらかしました……?


「ごめん織木ちゃん、私ミスったわ」

「え……何やったんですか」

「同じ3木取るなら、林の方から取っておけば授業塞げたわ。ごめーん、うっかりミス」

「……あーっ!」


 そうだった! 3つ目の授業のスペースは林と対になってる選択スペースだから、林に行ってれば授業使えなくなってたじゃん! なんてこったー! そんなこと、考えもしなかった! 5グリならではの落とし穴!


「さすがにもう甘菜ちゃんの手番終わってるから、やり直し効かないよね。ごめーん、ホントごめん」

「……いえ……私も、全然気付いてなかったですし…………仕方ないですよ……」


 そう。くびきさんは責められない。そんなことを言い出したら、私なんて他の試合でどれだけ多くのミスをしてきたことか。そもそも石積君の邪魔をして欲しいなんてのは私の都合なんだし、くびきさんがそれに協力しなかったからといって責めるのは、筋違いもいいところだ。

 大丈夫! まだほらっちさんがいる! ほらっちさんなら、きっとなんとかしてくれる!


「うーん……俺もう職業出し切ってるし、木も別にいらないんだよね」


 いつもの温和な表情から一転して、険しい顔つきで考え込むほらっちさん。思い出した。バドミントンをやってた頃、部の顧問がよくこんな顔をしてた。勝負師の顔だ、これ。全員が固唾を呑んで見守る中、ほらっちさんの手がワーカーを掴む。


「石積君1人を潰せば勝てるならそうするけど、絶対そういう状況じゃないんだよ。悪いけど、点数行動が残っているうちはそっちを優先させてもらうわ」


 そう言って日雇いにワーカーを置いて、動物捕りの効果で家畜をもらうほらっちさん。

 ……わかるけど! 仰ってることはものすごくよくわかりますけど! ほらっちさあああああああああああん!


「ありがとうございます!」


 もうね、このときの石積君の動き出しの速さときたら。


「授業! 2飯払って、ほら吹き出します!」





 ………………負けた………………かも………………。






 この後は、くびきさんが厩パン。甘菜ちゃんが石の家に改築して、かまどを取得。ほらっちさん、やることないと言って窪地でレンガを拾う。最終ラウンドが終了した。


「織木さん? 大丈夫ですか? なんか真っ白な灰みたいになってますよ?」

「……うん……大丈夫……」


 甘菜ちゃんに声をかけられて、なんとか前後不覚の状態から脱した。


「収穫が終わるまでがアグリコラですよ。しっかりしてください。ちゃんと収穫の処理をやりましょうね」

「はい……ええと……畑から、小麦と野菜を取って……機織り機で2飯もらって……甘菜ちゃん、私何人家族だっけ……?」

「4人ですよ。8飯払ってくださいね」

「はい……8飯払います……」

「飯を払ったら、家畜を繁殖させましょう」

「はい……家畜を繁殖……ええと……増えるのは、羊さんと、豚さんと、牛さん……」

「織木さん、それ豚じゃなくて石ですよ」


 甘菜ちゃんに介護してもらって、なんとか収穫の処理を終えた。「お疲れ様でしたー」と言って、ほらっちさんがアグリコラの箱からスコアシートを取り出す。みんなが盤面点やカード点を申告していって、ほらっちさんが記入していく。最後の気力を振り絞って、点数の申告だけはやり遂げた。たまに私が記入係をすることもあるんだけど、今だけは絶対無理だわ。


 ……疲れたな……。また、勝てなかったのかなぁ……。あんなに頑張ったのに……。あんなにうまく回ってたのになぁ……。

 こんなに苦しいのならいっそアグリコラなんて、次の日曜日までやめちゃおうかな……。


「じゃあ、点数を発表するよー」

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