ほら吹き死すべし

「なんか今の織木ちゃん、えらい迫力あったね。怖いぐらいだったよ」

「え、そうですか。長考し過ぎて頭が煮え切っちゃって……ホント、お待たせしました」

「あ、畑空いてるんだ。じゃ、畑だね」


 私が野菜を取った後、くびきさんは畑。まあ当然の1手だね。


「私は3豚取ります。飯余ってるし1点にしかならないんですけどねー」

「買い付け人はパスするよ。私も最後豚は7匹になるから、これ以上いてもね」

「あ、全然いいですよー。今までお世話になりました」

「ハイドシュヌッケンで羊さん1匹はもらうね」


 これがハイドシュヌッケン最後の活躍か。今までありがとうハイドシュヌッケン。名前長いのだけはなんとかして欲しいけどね。

 次はほらっちさんの手番。大進歩にワーカーを置く。予想通りだ。さー、何が出てくる!?


「3石と3小麦払って、『飼料部屋』を出すよ。えーと、5グリだから、家畜3頭ごとにボーナス1点の効果だね」


 飼料部屋! それがほらっちさんの切り札か! 効果をもっと詳しく説明すると、まずカード自体に点数が2点付いてる。そして、1/2/3/4+人ゲームの得点計算時、自分の農場の家畜7/5/4/3頭ごとにボーナス1点を得る、というもの。プレイ人数によって効果が変わるんだけど、要するに家畜をいっぱい飼ってるとボーナス点ワッショイというカードだね。今ほらっちさんは3種類合計9匹の家畜を飼ってるから、素点の2点と合わせて5点の価値があるということになる。さらに繁殖すれば6点、もう1度日雇い行って動物捕りで家畜を取れば7点! コストは重いけど、それだけのことはある。これはほらっちさんもトップ争いに絡んできたか?


「僕は羊市場で。羊を1匹もらいます」

「お兄ちゃん、家畜市場の方が良かったんじゃない? 1飯もらえるよ?」

「どっちにしても、くびきさんから買い付け人で1飯もらえるかなって。どうですか」

「そういやマナブーが客で来るの初めてか。しゃーない、サービスしたるわー」

「ありがとうございます!」


 石積君、どっちでもいいなら確実に1飯もらえる家畜市場で良かったんじゃない……? うーん、よくわからん。いや、待てよ。もしかしたら、甘菜ちゃんの家畜追いと後見人潰し? どっちも家畜市場じゃダメで、羊市場じゃないと効果がないカードだし。そこまで考えて、あえて羊市場に行ったのかな。

 ……これ、石積君、まだ1位を取る気でいるね。やっぱり、ほら吹きなのかな。


 よし! 無事にスタプレが空いたまま私の手番が回って来た! ふー、生きた心地がしなかったわ!


「スタプレ! 大農場の称号を出します! オマケで1飯もらいますね! やり切ったー!」

「おー、ちゃんと畑6枚ある! よく頑張ったね織木ちゃん!」

「う……まだそんなの持ってたんだ……これ、織木さんに負けたかも……」


 お。初めて甘菜ちゃんから弱気の声が漏れたぞ。甘菜ちゃんは石積君と比べると、プレイ中に何を考えているのかわかりやすい。勝てると思っているときはガンガン押してくるけど、負けそうと思ったときは途端にいつもの笑顔が曇る。これはもう、甘菜ちゃんからは驚くようなものは何も出てこないね。となると、やはり問題なのは石積君か。


 この後、くびきさんは牛市場、甘菜ちゃんは家畜市場で1飯払って牛さん。くびきさんはまだ牛さん飼ってなかったし、甘菜ちゃんはこれで牛さんが5頭になって、繁殖して6頭になれば4点になる。どっちも、堅実ではあるけど地味な点数行動。

 ほらっちさんは農場拡充で、6木払って3厩。3点行動。ほらっちさんも怖いけど、まだ私の方が点数は上なはず。次は石積君だ。そろそろ来るかな、アレが。


「漁で。カヌーの効果で3飯と1葦もらいます。ふー、これでなんとか飯は足りたかな」

「やっぱり飯に困ってたじゃん、お兄ちゃん」

「誰のせいだと思ってんだ」


 あれ? 授業じゃない? ほら吹き持ってないのかな? 私の考え過ぎだった?


「すいません。私の手番ですけど、また少し考えます」


 みんなに断りを入れて、またまた思考の海にダイブ。毎回毎回長考して申し訳ないけど、今回だけ許して欲しい。ここまでやりたいことをやり切った試合は初めてだから。だからこそ、最後の最後まで後悔のないようにやり切りたい。次からは、みんなを待たせないように、早くプレイできるように、努めます。


 さて、問題を考えよう。ほら吹きじゃない? ほら吹きじゃなかったら、ペットラバーを流してまでピックした職業って、なんだったの? まだ石積君のドラフト1位の職業、見てないよね? ただ単に噛み合わなくて戦力外になっただけ? ちょっと考えにくいんだけど。いくらなんでも、ここまでファーストピックの職業を出せないほど下手なドラフトを石積君がするなんてこと、ある? このラウンド、石積君の行動は急子、羊市場、漁。飯が足りてなかったみたいだから、漁を含めてここまで無駄な手は一切ない。

 ……もしかして、私の大農場の称号と一緒? 最後の1手まで点数行動を取り続けるために、ほら吹きを出すのを我慢してるの? だって、ほら吹きって9点だよ? 授業埋まっちゃったら、出せなくなるんだよ? そんなプレッシャー、私なら耐えられ……石積君なら、耐えるかも……。


 もう一つ、ほら吹きを後回しにしている理由を思いついた。ほら吹きを出した後の、みんなの反応だよ。特に甘菜ちゃん。もし先にほら吹きを出しちゃったら、石積君は一躍1位候補に躍り出る。そうなったら、甘菜ちゃん辺りが「累積ならなんでもいいんだよねー、漁行っちゃえー」とかやるかもしれない。目に浮かぶようだ。私でも予想できることが、石積君に予想できないわけがない。甘菜ちゃんとは、誰よりも石積君がたくさん対戦してきたんだから。だから、甘菜ちゃんに漁を潰される前に、石積君は漁に行ったんだ。


 すごいよ、石積君。本当にほら吹きを持ってるんだとしたら、尊敬するよ。


 打つ手は決まった。まさか、絶対に使わないと思っていたこのカードを使うことになるとはね!

 くらえ、石積君! これが私の、最後の1手だ!


「授業! 1飯払って、『畑調査人』!」


 みんなが私の意図に気付いて授業を潰してくれれば、ほら吹きは潰せる!

 ほら吹き死すべし!

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