決断

 大農場の称号を出す前に、一応まだ残ってる点数行動を確認しておくか。私の手番は、残り3手。


 まず小麦はすでに4点だから、除外。野菜はさっき1つ畑に植えたので、現在2点。野菜の種に行くのは一応1点行動。家畜は現在、羊さん4、豚さん2、牛さん3。このうち羊さんは誰かが豚さんを取りに行けばハイドシュヌッケン飼いで1匹もらえるから、5匹になる。それぞれ繁殖すればちょうど点数が増える数だから、家畜を取るのは点数行動にはならない。改築は絶対無理。あとは木を取って厩を建てるぐらいだけど、これも出来ない可能性が高い。ほらっちさん6木持ってるから、誰かが木取った瞬間に農場拡充で厩3つ建てるでしょ。厩パンは2手で1点行動。それなら野菜取って1点で済ませるのと一緒。

 結論としては、大農場の称号を出した後は野菜を取るぐらいしか点数行動は残っていない。となると、大農場の称号を出した後に野菜が残ってるかどうか、なんだけど。くびきさんとほらっちさんはもう野菜は4点だから、取る必要はない。甘菜ちゃんと石積君は野菜が足りてないから取りに行く理由はある。特に石積君は野菜をまだ持ってないから、2点行動。でも羊さんも持ってないから、羊さんの方を優先してくれるかも……? いや、そう考えるのは危険だ。羊さんを取れるのは羊市場と家畜市場の2か所あるのに対して、野菜を取れるのは野菜の種1か所しかない。だったら石積君は次の手で野菜を取りに来る可能性がある。そうなったら、私は残り2手で出来ることは木を取って厩パンで厩を建てるぐらいしかない。でも厩パンは4手目になっちゃうから、くびきさん辺りにパン焼きでブロックされる可能性は十分ある。……だったら、野菜、今取っとく?


 いや、それはいくらなんでもリスクが高過ぎない? ほらっちさんの3石って、絶対手札から小進歩を出すための3石でしょ。だからほらっちさんは次の手で大進歩かスタプレに行くはず。もし私がここで野菜を取って、ほらっちさん以外にあと1人小進歩を出したい人がいたら、私は大農場の称号を出せなくなる。野菜の1点のために大農場の称号の3点をふいにするなんて、あり得ないでしょ。ここはやっぱり無難に、大農場の称号を……。


 いや、待って! 厳密に計算したわけじゃないけど、この試合、たぶん僅差のゲームだよ! 現状ライバルの甘菜ちゃんとは、1点2点の差で終わるような気がする!  今日最初にやった3グリだって、最後はほらっちさんと1点差だったじゃん! ここは強気に、1点でも多く取りに行くべきなんじゃないの? 今度こそ、勝ちたいんだよ! また1点差で負けるなんて嫌だー!

 石灰肥料! 石灰肥料さえ出していれば、石を取るだけで野菜の点数が伸びるから、選択肢が増えたのに! なんであのとき石灰肥料出さなかったの、私! 出してたら出してたで違う展開になってただろうから、今悔やんでも仕方ないんだけど! ああああああああああ!


 あ。くびきさん、とうとうスマホいじり始めた。ダウンタイム長過ぎ、みんなのこと待たせ過ぎ問題! ごめんなさい、ホントごめんなさい! 私みたいなウスノロに付き合わせちゃって、ホントごめんなさい!

 でもでもでも。負けたくないんだよおおおお。私史上、一番うまく回ってるんだよおおおおお。今度こそ、今度こそ勝ちたいんだよおおおおおおおお!

 神様! 今の私と甘菜ちゃんの点数、表示して! 頭が煮え切ってて、計算できない!


 ……あ。


 今、思い出した。





 アグリコラには、『ほら吹き』というカードがある。リバイズドの前の旧版から存在する、今なお最強の一角に君臨する職業カード。効果は、ゲーム終了時に自分の出した小進歩と大進歩の数に応じて点数を得られるというもので、そのボーナス点は最大で9点に達する。ただし9点を得るには出した進歩カードの合計が10枚以上必要で、これを達成するのはなかなかに骨が折れる。単純に考えても、手札の小進歩を7枚出し切った上で、大進歩も3枚以上取らないとならないからね。今、この条件を達成しているのは……石積君だ。


 ドラフトのときから、ずっと引っかかってた。2枚目でペットラバーが流れてきたとき、石積君はいったい何を取ったんだろうって。仲介商じゃない。仲介商も強いカードだけど、それはほらっちさんが「迷ったけど流した」って言ってたから。

 今の今まですっかり忘れてたんだけど……石積君のファーストピックがほら吹きだと仮定したら。ドラフトにもこれまでのプレイングにも、全て納得がいく。もちろん何もかも、仮定に過ぎない。仮定に過ぎないんだけど、あまりにも状況証拠が揃い過ぎている。

 もしも本当に私の想像通り、石積君が手札に抱えてるのがほら吹きだったとしたら――。


 神様は、また私を負けさせようとしている。





 思い返せば、バドミントンをやっていた頃からそうだった。本当に勝ちたいと思った試合で、神様に味方をしてもらえたと思ったことなんか、一度もない。なんだか腹が立ってきた。あの試合も、あの試合も! あいつとの試合だって、本当はもっと良い勝負が出来ていたはずなのに!


 わかったよ、神様。どうしても私を負けさせたいというのなら、それでもいい。どんな結果になったって、私はこれが実力だと思って受け入れるよ。

 その代わり、もうあんたには絶対祈らない。もしどこかに神様とやらがいるんだとして、私たちの勝敗を決めてるんだとしたら。


 そいつは絶対、丸めた鼻クソを飛ばした先で適当に結果を決めてるような、鼻クソ野郎に決まってる!


 もう迷いはない。腹は括った。

 ワーカーを掴んで、目標のアクションスペースめがけて、振り下ろす。

 現在14ラウンド、織木羊子、2手目。


「野菜の種!」


 神様――。


 また私の決断をないがしろにしたら、ぶっ飛ばすからね!



 ふん、と鼻から息を吐き出して、ストックから野菜を1つ、もぎ取った。

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