アグリコラが強い人に、いい人なんかいない

 収穫の処理が終わって、2ステージ目終了。ほらっちさんが清廉潔白な人の飯、くびきさんが井戸の飯、私が小麦貯蔵庫の小麦を受け取って、8ラウンド目開始。めくられたカードは猪、スタプレはくびきさん。


 くびきさんの初手は3木材。これでくびきさんの手持ちの増築材は、10木2葦。このラウンドに、増築……するよね? 私が2軒増築するには、牧師、改築、神父の3手を経る必要がある。今ワーカーは3人しかいないから、このラウンドの2軒増築は絶対無理。そんなわけで増築できるのは次のラウンドだから、くびきさんがこのラウンドに増築しなかったら、次のラウンドに増築でバッティングする可能性がある。

 ……増築、するよね? お願いしますしてください! 何でもしますから!


 いかんいかん、こんなことを考えていたら、表情に出てしまう。ポーカーフェイスポーカーフェイス。石積君は3石。ほらっちさんは4レンガ。石積君は石窯狙い、ほらっちさんは調理場狙いかな。二人とも日雇いや漁で凌いできたけど、さすがにそろそろちゃんとした飯基盤を作らないと厳しいよね。


 さて、私の番か。えーと、改築してレンガ窯するには、まずは石を確保しないとだな。じゃあ牧師から入るか。


「授業で。1飯払って牧師出します。2部屋なのは私だけだから、3木2レンガ1葦1石もらいますね」

「おー。それで間借り人か。織木ちゃん上手だねー。ホントに初心者?」

「さっきの試合も織木さん50点取ってるからね。油断しない方がいいよー」

「マジで? 最初からクラビの動き方わかってたし、上手だなーとは思ってたけど。いやー、末恐ろしいわ」

「いえ、それほどでも……」

「あ、私の番だったわ。ほい、葦石飯ね」

「ごほっ!」

「ん、織木ちゃん大丈夫? むせた?」

「い、いえ、大丈夫……です……」


 もー! 人のこと褒めていい気にさせといて、しれっと葦石飯行かないで、くびきさん! これ、絶対くびきさんも2軒増築して5部屋にする気満々の動きじゃん! まあ見習い大工出してるしね! そりゃ私でもそうするわ!

 てことは、このラウンドには増築しないから……いや! くびきさんの葦は今3つだから、2軒増築するにはもう1葦必要。さすがに葦原の1葦を取りに行ってまで2軒増築を急ぐとは思えないから、葦の確保は次のラウンドになるはず。ならば、この後私が改築して神父を出せば、次のラウンドの頭には2軒増築できるはず! できるはず! できるはず!


 ……くびきさんてどういう性格の人なんだろ。間借り人をグッバイさせるために、増築の妨害してくるような人なのかなぁ……?


「増員します。小進歩は『区画整理』出しますね」


 石積君は増員。今の私には区画整理の効果を把握してるような精神的余裕がないので、解説はパス。なんか地味な効果だった気がするけど、ぶっちゃけどうでもいいわ!

 ほらっちさんは柵。はい。お好きに引いてください。

 私は改築! レンガ窯を取得して、パン焼き! 1小麦を、5飯に変換! これで飯に余裕が出来たから、次は2飯払ってでも神父を出す!


「んー、ほらっち柵引いちゃったのかー。じゃあ、こうするか。授業で。1飯払って『厩作り』」

「ごほっ!」

「あれ、織木ちゃん、またむせた? ホントに大丈夫? なんか持病あるとか?」

「い、いえ……大丈夫です……いたって健康です……」


 授業、埋まっちゃった……。そうか……くびきさんて、まだ2枚目の職業だったのか……それなら1飯で払えるんだもんね……そうだよね……。


 落ち着け。冷静になろう。ここでくびきさんが厩作りを出した狙いは? 厩作りは、出したときに1木払えば厩を一つ建てられて、なおかつ柵に囲まれていない厩一つだけに家畜を3匹まで飼えるというカード。このタイミングで出した理由は……あ、次のラウンド、豚さんが2匹になるのか。で、ほらっちさんが柵を引いたから、ほらっちさんよりも先に豚さん2匹を押さえたい。なるほどなるほど。じゃあくびきさんの初手は猪市場ってことだよね。葦の確保は次手番以降になるはず。それなら、まだいける! 私の次の手は、畑だ!


「俺は畑で。レグワーカーの効果で、1木もらうよ」


 ぬわあああああああ! ほらっちさんまでー! なんでみんなして私の邪魔ばっかりすんのー! ……いや、わかってるんですよ。そろそろ畑も混み合う時間帯だってことぐらいは! 畑は窪地の隣だからレグワーカーも発動するんだし、そりゃ畑にも行きますよね! 甘かった! 改築の競合はいないんだから、先に畑だった! ……いやでも、改築してからじゃないと、神父は出せないしな……どっちにしても、結果論……? って、今は過ぎたことを振り返ってる場合じゃない! うーん。どうしよう。やることがなくなった!


「あれ? そういえば織木ちゃん、そろそろ増築しないと間借り人がいなくなっちゃうんじゃないの?」


 ……この人、絶対わかってた上で、今思い出したフリしてるよね……?


「……いや、そうなんですけど……」


 ぐぐぐぐぐ。どうする……? また妥協して、2撒きでいいから種パン行く……?   で、次のラウンドに神父出して2軒増築。いやでも、それだとくびきさんが2手目で増築してきたら、間借り人がグッバイしちゃう……。あー! なんでこのタイミングで間借り人の効果を意識させるようなこと言うかな、この人は! 『くびきさん、次のラウンド、増築します?』なんて訊くわけにもいかないし!


 ……悩みに悩んだ挙句。

 私は心に敗北感を、手札に神父を抱えたまま、農場拡充のアクションスペースに、3人目のワーカーを、静かに置いた。


「……増築します……」


 思えば、妥協に塗れた人生だった。


「ふーん、織木ちゃん、2軒増築まで引っ張るのかと思ってたけど。今増築しちゃうのかー。そうかそうかー」


 ……くびきさん……試合が始まる前は、もしかしたら、いい人なのかなって思ったりもしたんだけど…………撤回する。


 アグリコラが強い人に、いい人なんかいない!




 くっそおおおおおおおおおお!!

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