まさかね?

「私は葦石飯ね」


 私が悩んでいる間も、ゲームは進んでいく。くびきさんは葦石飯。せっかくの初4グリなのに、私はまだ1回も葦石飯に行ってない。なんか損してる気分。


「僕は授業で。1飯払って『作手』出します」

「なるほどね。それで石積君、そんな形に畑置いてたのか」


 ほらっちさんに言われて、私も気が付いた。いつもの石積君は、農場ボードの上1列に畑5枚を並べるという配置をすることが多い。それなのに、この試合では家の隣にL字型に3枚の畑を配置している。

 そして作手は、畑タイルを2×2の配置にしているときに、その中心に人が住める厩を建てることができるという職業カード。今の石積君の手持ちの資材は7木2葦だから、もう1回日雇いに行って畑タイルを2×2に配置してから増築して厩を建てれば、実質2軒増築ということになる。鋤手助手との相性もバッチリ。相変わらず、弱いカードをパズルみたいに組み合わせて使ってくるな。


「俺は漁ね。この6飯がないと死ぬわ」


 ほらっちさんは漁。清廉潔白な人で毎ラウンド飯を降らせてるとはいえ、それだけだもんね。私はクラビのおかげで飯行動に追われなくてもすんでるのはありがたいけど、いかんせん手数が少ない。増員が5ラウンドにめくれてくれれば、もっと楽な展開だったんだけどなぁ。


 おっと、もう私の手番か。窪地に4レンガあるけど、取りに行く? んー、次のラウンド増員するから、そのとき出す小進歩も合わせて考えると……お、『粘土積み場』が使えそう? 粘土積み場はコスト1飯で、手持ちの2レンガにつき1レンガを得られる効果を持つカード。

 当面必要なレンガの数は、改築と2軒増築とレンガ窯の分を合わせて15レンガ。今の手持ちは4レンガ。4レンガ取って8レンガにして、増員するときに手札の粘土積み場を使えば12レンガになる。これで改築した後に神父を出せば、レンガの数はなんとかなりそう。問題は葦が手持ちにないこと。次のラウンド、増員した後に2葦残ってたら欲しいけど、残ってるかな。


「4レンガ!」

「織木ちゃん、レンガ集めるねー。レンガで2軒増築狙ってる感じかな?」

「さあ、どうでしょうねー」


 くびきさんがカマをかけてくる。といっても、くびきさんはドラフトで神父は見てるはずだから、バレバレだろうけどね。


「あ、みんな終わってるから私の連手番か。んー、どうしよう。とりあえず井戸は取っとこうかな? えーと、次6木できるのか。織木ちゃんがスタプで、初手は増員だろうから……別に次でもいいような気はするけど、羊行っとくか。4羊取って、1匹2飯にしとくよ」


 6ラウンド終了。7ラウンド目、めくられたカードは石。


「ほい、織木ちゃんの小麦」

「あ、ありがとうございます」


 小麦貯蔵庫の小麦を入手。あと2小麦降ってくるから、クラビとパン焼きで最後まで食べていけそうかな? まあ、このラウンドは何はともあれ増員だよね。


「増員で。出す小進歩は1飯払って粘土積み場。8レンガあるから、4レンガもらいます。あ、くびきさん、これどうぞ」

「うーん、たぶん使わないなー」


 粘土積み場は、使ったら左隣の人に流れるカード。こういうカードは後手番のスタプ材に使われたりするから、使うタイミングにはちょっと注意が必要なんだけど、粘土積み場ぐらいの効果なら使うかどうかもわからないし、回しちゃっても問題ないでしょ。


 くびきさんはさっき自分で言ってた通り、6木。石積君は日雇い。これで畑が2×2になった。ほらっちさんは3木。お、よしよし、2葦残ったぞ。


「2葦で」


 これで神父と牧師の両方を出せば、葦の数も足りる計算になった。8・9ラウンドの6手の予定は、改築レンガ窯、牧師、畑、神父、種パン、2軒増築。ギリギリだけど、手数は足りてる! 今度は石積君とも種パンでバッティングしてないし、全部通ったらいい感じに点数伸ばせそうだ。くううう、今度こそ勝ちたいなぁ。


「スタプレー。2レンガ払って『調理場の拡張』」


 くびきさんが出した調理場の拡張は、収穫時に家畜1匹か野菜1つを鍋マークのついた進歩(要はかまどか調理場)で飯に変換するときに、得られる飯を2倍にするというカード。これでくびきさんは羊さん1匹を4飯にできる。それだけ聞くと「なんか地味じゃない?」と思えるカードだけど、調理場なら豚さん6飯、牛さんなら8飯になる。こう考えるとなかなかエグイ。


「増築します。あと、畑の真ん中に厩建てますね」


 石積君は予定通り作手の効果で実質2軒増築。これで2部屋なのは私だけになったので、牧師が使えるようになった。予定通り、予定通り進んでるぞー。


「えーと、石積君はこれで手番終わりだよね? じゃあ増員は最後でいいとして……うーん、2木材かな。で、隣に人がいるから『レグワーカー』の効果でもう1木材ね」

「ほらっちさん、補助作業員のことレグワーカーって呼んでるんですね」

「あ、ごめんね、紛らわしくて。ここのアグリコラは日本語版だけど、僕の持ってるアグリコラは英語版のだから、ついレグワーカーって呼んじゃうんだ」

「いえ、いいですよ。レグワーカーの方が言いやすいし」


 アグリコラは元々海外のゲームだから、当然日本語版よりも、海外版の方が先行している。アグリコラに熱中しているファンには、早く遊びたくて海外版を買っているユーザーもかなり多い。ただ、この場合、後から日本語版が出たときに、カード名の呼び方が紛らわしいことになるという些細な問題があったりする。他にほらっちさんがつい英語名で呼んでしまうカードのごく一部を紹介すると、『ツリーガード(森林保護者)』『ナイトウォーカー(夜間労働者)』『ガーデンデザイナー(庭園デザイナー)』等々。


 ちょっと脱線してしまったので、話をゲームに戻そう。この後はくびきさんが葦石飯、ほらっちさんが甘えマスで増員して、7ラウンド目終了。

 さあ、収穫だー。クラフトビール2回目発動! 2点4飯がうまい!


 ……ん?


 くびきさん、葦石飯行った?


 ……なんか、嫌な予感がするんだけど……。


 まさかね?

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