妥協

 前に石積君が言ってたんだけど、鋤手助手というカードは序盤から種撒きをするのでなければ、基本的には増員してから出して、暇なときに日雇いに通う、という使い方の方が強いらしい。私は序盤はどっちにしても飯行動は必要なんだから、鋤手助手は序盤に出すのもアリだと思っている派なんだけど、今はそんなことはどっちでもいい。

 問題は、増員してから出す派の石積君が、いきなり初手から鋤手助手を出してきた、ということ。ということは、石積君も1ステから種撒きするつもりなの? 私と行動かぶってるからやめて欲しいんだけどー。


「んじゃ、俺は1飯払って『美術教師』出すよ。1木と1葦ゲット」


 2番手のほらっちさんが出した美術教師は出したときに資材がもらえる他に、今後職業を出す際に払う飯を、小劇場からちょろまかして払うことが出来るという効果を持っている。なんじゃそりゃ。教師の風上にも置けないな。


 さて、私の手番なわけだけど。ここは予定通り2レンガだよね。幸い1ラウンド目で種パンがめくれてるから、2手目でスタプレ行って小麦貯蔵庫を出せば、仮に石積君と種パンで競合したとしても、私は3ラウンド目に種撒きをすればいい。で、4ラウンド目に資材取ってクラビ。私は自分からは小麦を取りに行かないから、石積君とはバッティングしないはず。たぶん大丈夫……だよね?


「2レンガで!」

「ええええ、2レンガ!? すごい手打ってくるね、織木ちゃん。2レンガから入る人初めて見たかも」

「諸事情です」

「んー、じゃあ私は葦石飯でいっかなー」


 というわけで、くびきさんは葦石飯。次は石積君の2手目。


「すいません、スタプで。『木彫り』出します」

「あれ? なんで織木ちゃん、盛大にずっこけてんの?」


 いや! そりゃ盛大にずっこけますよ! もう! やめてよ石積君! これで2ラウンド目に小麦貯蔵庫出したら、4ラウンド目に種まきでバッティングする可能性濃厚じゃん! 謝るぐらいならスタプ取るな! あー! 責任取れ! 責任取ってお前が3ラウンド目に種撒きしろ、アホ石積!


「……諸事情です」


 脳内で荒れ狂う罵詈雑言を必死に押さえつけながら、体を起こす私。


「まあ、初手2レンガでかまど以外なら、スタプ行くぐらいしか理由ないよねー。どんまい、織木ちゃん」

「続けていいかな? 俺は3木で」

「……畑で……」

「んじゃ、2木かなー」


 1ラウンド目、終了。落ち着け。落ち着け私。1ラウンド目からこんなに動揺してどうする。いやでも! だって仕方ないじゃん! クラビって1手も無駄に出来ないから、心臓に悪いんだよ!


 2ラウンド目、めくられたのは大きい進歩。あ、これは助かる。クラビ出したいときにスタプレ埋まってても保険があるのは、安心感あるよね。


「授業で。1飯払って『家畜餌やり』出します。日雇い行ったら小麦を、」

「うわー、日雇い暴力団だー、何このクソゲー」

「石積君、それはさすがに許されないよ」

「さっきのほらっちさんの方がよっぽど酷いですよ!」


 などと醜く罵声を浴びせ合う3人を横目に見ながら、私はドラフトで回っていた、とあるカードのことを思い出していた。確か以前、そのカードについて、石積君とこんなやり取りをしたことがある。以下、回想シーン。




「この『ウイスキー樽』っていうカードさ、5点取ろうと思ったら相当きつくない?」


 ウイスキー樽はコストが小麦3つの小進歩で、6/8/10/12ラウンド以前に出せば、5/3/2/1点のボーナスを得られるという効果を持っている。つまりこれで5点のボーナス点を得ようとするなら、小麦3つを6ラウンド以前に用意した上で払わなくてはならない。


「そうだね。奇跡的に鋤手助手と季節労働者が揃ったら、1ステで小麦3撒きして出せるかもしれないけど。あとは『大鎌使い』で無理矢理小麦3撒きするとかかなぁ。2撒きだと小麦1つしか残らないから、ちょっときついよね」

「でもそこまでして出しても、得られるのは単発の5点だけじゃない? あとが続かないし増員も遅れるし、どんだけ良い条件が揃っても結局弱そう」

「そうだね。ぶっちゃけ僕も弱いと思う。でも使える条件が揃ったら使ってみたいかな」

「石積君て、弱いカードをなんとかして使おうとするの好きだよねー」




 はい、回想終了。

 あれだー! 絶対あれだー! さっきのドラフトで「何このゴミ」って私が流したあれだー! 条件、揃っちゃった! 石積君、絶対あれを使おうとしてる!

 ということは! えーと、この後の石積君の行動は、次日雇いでしょ、3ラウンド目は日雇いと何か、4ラウンド目は日雇いと種パン。これだ。絶対これしかない。あー! やっぱりかぶった! 種パンバッティング! うーん、どうする!?


「俺も授業で、小劇場から1飯失敬して、『清廉潔白な人』」

「ほらっちが清廉潔白ー? 飯ちょろまかしてる人が言うことー?」

「失礼な! 俺ほど清廉潔白な人はそうはいないよ!」

「清廉潔白って言葉の意味わかって言ってんの?」

「……石積君、意味わかる?」


 くびきさんとほらっちさんが楽しそうにやり合っている中、私は一人頭を抱えて悩んでいた。

 次は私の手番。スタプレは空いてる。小麦貯蔵庫を出す。3・4・5ラウンドに小麦が降ってくる。4ラウンド目に石積君より先に種パンに行ける? いや。3ラウンド目も他の誰かがスタプレ取るだろうから、私の手番が先に来る保障は全くない。いや待てよ。石積君は4ラウンド目の初手で日雇いに行かないと畑3枚小麦3つは揃わないから、私は先に種パンに行ける。……行ける? 本当に? 畑2枚小麦2つ構えてる私に対して、石積君ともあろう者が、悠長に日雇い行く? 石積君にしてみれば、要は6ラウンドまでに小麦3つ揃えればいいんだから、妥協して2撒きしてから日雇いにするんじゃない? うわー。石積君ならやりかねない。というか、絶対そうする。うーん。うーん。


「どしたの織木ちゃん? 早くもクライマックスみたいな顔して」

「私の中では今まさにクライマックスなんですっ!」

「お、おう」


 仕方ない! ここは私の方が折れる! 小麦貯蔵庫はあきらめる! 妥協して、普通に小麦取るよ! そうすれば3ラウンド目に種撒きできるから、種パンバッティングは避けられて、クラビも成立する! ほらっちさん、おそらくくびきさんも、私たちより格上! だったら、ここは格下の私たちで潰し合ってる場合じゃない!


「小麦取ります!」


 くっそおおおおおおおおおお! 私に感謝しろよ、石積君!

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