ちょっと待って

 職業カードと小進歩カードが7枚ずつ配られて、ドラフト開始。私にとっては初めての4グリだ。おー、4+のカードもある。なんかちょっと感動。


 あ、4+というのは、職業カードの使用制限のことで、4人戦以上じゃないと使えないことを示しているわけね。

 例えば今私の手元にある『台所の芸術家』は、誰かが小劇場に行くと小麦か羊か野菜を飯に変換できるカードなんだけど、4人戦以上じゃないとそもそも小劇場というアクションスペースが存在しないから、3人戦以下で使っても全く意味がないカードということになる。だから、台所の芸術家には4+と書かれているわけ。

 3人戦で4+が付いているカードが配られたときには、そのカードは捨てて3+以下が出るまで引き直すという方法で対処している。

 重ねて言いますが、私は4グリ初体験です。いやー、どんなカードが使えるのかワクワクが止まりませんな。


 あ、この小進歩カード知ってる! 『クラフトビール醸造所』! ネットの攻略記事で、最強カードの一角として紹介されてたやつだ。コストは2木1レンガで、収穫時に手元の小麦と畑の小麦を1つずつ払えば、4飯とボーナス2点を得られるという強烈な効果を持っている。収穫は6回あるから、毎回起動すればこのカードだけでゲーム終了までに12点! メチャクチャ強い!

 あ……でもこれ取ったら今回も畑プレイになるのか。うーん。いやでも、さっき使った樽詰めビールより圧倒的に強いし! こんなんこれ取るしかないでしょ! 採用!


 職業は……どれもパッとしない。使うとしたら、『板金工の親方』、かなぁ? いや、使わないかも。まあ、クラフトビールやるなら序盤は職業出してる暇ないし、職業が弱くても別にいいか。


 取らなかったカードをくびきさんに回して、ほらっちさんが取らなかったカードが私に回って来る。さてさてどんなカードが回って来たのか。

 お、このカードいいんじゃない? 『間借り人』。出しただけで、このカードが人物一人が住める場所になるという職業。ただし、9ラウンド終了時までに別に住む場所を用意してあげないと、住んでいた人物をゲームから取り除かなくてはならないというデメリットがある。

 このカードが良さげと判断した理由は、クラフトビール(長いから、以下クラビと略してしまおう)を1ステージから使おうと思ったら、増築のための資材を集めている手番が全くないから。畑畑小麦小麦種パン木レンガクラビで、キレイに8手使っちゃうんだよね。でも、5ラウンド目に間借り人を出せば、運が良ければ最速増員も出来る。増築材集めるのは3人にしてからの方が効率良いでしょ。9ラウンド終了時までにどうにかすればいいんだよね? よゆーよゆー。


 そんなこんなでドラフトが進んでいって、私の手札はこうなった。

 見よ! この輝かしいカードたちを!


【職業】

板金工の親方 間借り人 牧師 神父 資材配達人 倉庫管理係 二人目の配偶者


【小進歩】

クラフトビール醸造所 ミネラルフィーダー 鞭 小麦貯蔵庫 水車の輪 箕 粘土積み場


 何といっても、3枚目と4枚目で『牧師』と『神父』が取れたのがでかい! どちらも一度だけ大量の資材がもらえるという効果の職業で、牧師は自分だけ2部屋なら、神父は2部屋のレンガの家なら、というのが条件。つまり! どちらのカードも、増築せずに増員できる間借り人との相性は最高! うまくいけば、9ラウンドまでに2軒増築して4人目の家族を作ることも可能! ガハハ、たまりませんな!

 え? ドラフト1位の板金工の親方はって? えーと、残念ながら、たぶん戦力外かな。今回はご縁がなかったということで、またの機会のご活躍を祈念する次第です。


 小進歩の『小麦貯蔵庫』も、掘り出し物だよね。コストは2木か2レンガか2石で、払った資材に応じて2か3か4ラウンド先まで小麦を1個ずつもらえるという効果。2レンガで払えば小麦が3つ手に入るから、クラビ用に小麦を2つ植えても1つ余ることになって、ちょっとお得。将来的に小麦は3撒きしたいから、小麦が余分に手に入るのはかなり大きいでしょ。

 これを使うなら、変な入り方だけど初手2レンガからのスタプレかな。もしスタプレが空いてなくても、次のラウンドのスタプレで2撒きには十分間に合う。


 よーし、今回はいけそうな気がする! 今度こそ、勝つぞー!





「織木ちゃん、ドラフトどうだったー?」


 14枚の手札を確認してテーブルの上に置いたタイミングを見計らって、くびきさんが訊いてきた。


「あー、ええと、まあまあでした」


 言いながら、ちょっとニヤついているのが顔に出てしまうのを抑えられなかった。いかんいかん、もっと冷静にならねば。こういうところは石積君のポーカーフェイスを見習わないとな。


「いやー……なんかさっきまで織木ちゃん、私に対してツンツンしてるように見えたからさー。でも、ドラフト始まったら織木ちゃん、すっごく楽しそうな顔してたから、ちょっと安心した」

「あ……いえ、そんなことは。なんか、すいません」


 ……そっか。確かにさっきまでの私、ちょっと感じ悪かったかも。くびきさんに変な気使わせちゃってたのかな。ちょっと反省。


「普段の私って、ドラフト中もついつい喋っちゃうんだけどさー。ほら、普段マナブーとアグリコラしてるんだったら、甘菜ちゃんて知ってるでしょ? マナブーの妹の」

「あ、はい」

「前にその甘菜ちゃんがここに来てアグリコラしたときに、私がいつもの調子であーだこーだ言ってたのね。そしたら甘菜ちゃんに、すっごい低い声で『ちょっと静かにしてもらえます?』って釘刺されちゃってさ。いやー、あんときはマジびびったわー」


 あー……甘菜ちゃん、いかにも言いそう。そして、めっちゃ怖そう。


「それから私も反省してさー、なるべくドラフト中は喋り過ぎないようにしてるんだけど、ゲーム始まったらうるさくしちゃうかも。……うるさかったら、ごめんね?」

「いえ、大丈夫ですよ。私もわりと喋る方だし」


 ……くびきさんて。もしかしたら、すごく良い人、なのかな。





「じゃ、よろしくお願いしまーす」

「お願いしまーす」


 挨拶をすませて、1ラウンド目開始! めくられたカードは、種パン!


「じゃ、授業で。『鋤手助手』出します」

「うえー、マナブー、マジかー。めっちゃ強いじゃーん」


 1番手の石積君が出した職業カードは、鋤手助手。日雇いに行ったらついでに畑を耕せるという、激強カード。このカードは、石積君の家にある基本セットに入ってるから、私も知ってる。


 ……え? 鋤手助手? 石積君、畑耕すつもりなの?


 ちょっと待って。


 何かこう、猛烈に嫌な予感がするんだけど。

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