お好きになさってください

「ほらっちさん、たまには甘えマスなしでやりませんか」

「いやいや、甘えマスは必要でしょ」

「僕は甘えマスなしの方が好きなんですけどねー」

「そんなこと言ってるの、知り合いでは石積君ぐらいだよ!」

「海外では甘えマスなしの方が主流みたいですよ。手数が減る分、1手の価値が高くなって競技性が高くなると思うんですよね」

「『子なし』とか、普段と評価が変わるカードがあるのはちょっと面白いけどねー。でもそれでもわざわざ、スタプレと増員に行列が出来るアグリコラはやりたくないかなぁ」


 などと、ゲームの準備をしながら楽しそうにアグリコラ談義をする、石積君とほらっちさん。

 ふーん。石積君て、学校では誰かと楽しそうにしているところなんて見たことないから、友達いないヤツなのかと思ってたけど。ちゃんと友達いるんじゃん。

 まあ、やっぱりアグリコラの話しかしてないんだけど。相手はおじさんなんだけど。


 ちなみに石積君とほらっちさんの話に出てくる『甘えマス』というのは、ゲームのメインボードとは別に任意で有り無しを選択できる、追加のアクションスペースのこと。『家畜市場』と『ちょっと子供がほしい』というスペースが追加されて、任意の家畜を一頭だけ取れたり、増員マスに行かなくても5ラウンド以降ならここで増員出来たりする。ただし、どちらかが埋まっているともう片方のスペースも使えなくなるという制約がある。

 甘えマスがあると5ラウンド目に確実に増員できるので、一般的には甘えマスありの方が人気のあるレギュレーション、ということらしい。石積君の家でアグリコラしてるときは甘えマスはあまり使われないから、私は全然知らなかったけど。


 私個人の意見としては……どっちが面白いと言えるほどまだ両方のレギュレーションで遊んだことがないから、よくわかんない。増員がめくれるまでスタプ連打しないとならないつらさは私も覚えがあるから、甘えマスありの方が人気があるというのは、まあ理解できる。

 でも私は自分のことを、たかがボードゲームに競技性を求めてしまうタチの人間だと認識しているので、甘えマスなしの方が競技性が高いって言われると、もしかしたらそっちの方を好きになっていくのかもしれないな。知らんけど。






 ゲームの準備が終わって、ドラフト開始。知らないカードがたくさんあって、すごく新鮮な気分。というのも、私が普段遊んでいる石積君の家のアグリコラは、カードプールに追加の拡張セットが入っていない基本セットのみのアグリコラだから。事前に石積君に聞いていたけど、サンナナに置いてあるアグリコラには今のところAデッキ、Bデッキ、Cデッキの拡張セットが入っているとのこと。

 一応私もネットでちょっと予習してきたけど、カードの量が多過ぎて、強いと言われているカードを把握するぐらいしか出来なかった。でもまあ、アグリコラはアグリコラでしょ。カードテキストの意味を理解するのにちょっと時間がかかったけど、なんとかやれそうかな。


「じゃ、よろしくお願いしまーす」


 ドラフトも終わってゲーム開始。私1番手、ほらっちさん2番手、石積君3番手。


「じゃあタダ授業で。『猫車押し』出します」


 猫車押しは、畑を耕す度に1レンガと1飯をもらえる職業カード。今回の私の方針は、1ステで畑3枚耕して小麦を3撒きして、その後に石を取り、猫車押しでもらったレンガを使ってレンガ窯を取得。まずはこうして盤石な飯基盤を作り、さらに小麦をボーナス点に変換できる『樽詰めビール』を出して、ボーナス点を稼いでいこうというもの。

 増員は遅れちゃうけど、今回は甘えマスありなので、慌てて増築ムーブをしなくても、後からでも増員できるはず。うーん、こう考えるとやっぱり甘えマスありの方が増築増員に神経を使わなくていい分、自分のやりたいことが出来て面白いのかな。今のところはどっちでも良い派だけどね。


 ほらっちさんは3木。石積君は2木。私の2手目は予定通り畑。ほらっちさんの2手目はスタプレ。


「1木払って『天秤』ね」


 天秤はまだ職業を出していないときだけ出せる小進歩カードで、自分が出している職業と進歩の数が同じになる度に2飯もらえる。面白い効果ではあるんだけど、無理して使おうとするとプレイに歪みが出そうだから、難しそうと思って流しちゃったんだよね。ほらっちさんがどう使うのかお手並み拝見と行こうかな。

 その後は石積君は1飯1葦取って、1ラウンド目終了。


 2ラウンド目、ほらっちさんが天秤を発動させつつ出した職業は『工芸指南』。工業系の大進歩を取る度に職業を2枚タダで出せるという凄い効果があるんだけど、あれ? ほらっちさん、ちょっと出すの早くないかな? 3グリだと序盤は石取るのに1石1飯とかになっちゃうから、工業プレイするのはけっこうきついよね? いや待てよ。なんか嫌なカード流した記憶が……いやいや、気にしても仕方ない。私は自分に出来ることをするだけだ。以下、石積君3木、私畑、ほらっちさん2レンガ、石積君葦飯、私小麦で2ラウンド目終了。


 3ラウンド目、ほらっちさん1手目でスタプ連打。まあ私は畑プレイだから3番手でも影響ないけど、って思ってたら出てきたカードが、


「1木1レンガ払って『金物屋』!」


 効果は、日雇いに行って2飯払えば(要は日雇いに行っても飯が増えない)、木とレンガと葦と石が1つずつもらえるというもの。1つずつとはいえ、1手で4種類の資材が手に入るという、とんでもない効果を持っている。


「えー、何それ、めっちゃ強くないですか!?」

「あー、うん。めっちゃ強いよね。今回のファーストピック、これと工芸指南だから」


 あー……これ、ちょっと……いや、ものすごくまずいかも……。


 途中経過はカットして、4ラウンド目。いやだって、私は畑と小麦行っただけだし! 石積君は空気だし! 我々のことなんてもうどうだっていいんすよ! この後ほらっちさんは、私がドラフトで流しちゃった『カゴ編み』を出してくるのでしょうね? あ、カゴ編みというのは、出したときに、本来はコストが2石2葦のカゴ製作所を、1石1葦で取れるという職業でございます。


「カゴ編み出して、天秤発動! カゴ製作所を取る! すると職業を2枚タダで出せるので、また天秤発動! 出す職業は、『紙すき』と『大工』! いや待てよ、1木もったいないから大工が先で紙すきが後ということにしても良い?」


 いやもう、お好きになさってください。


 一応補足しておくと、紙すきはこれ以降に職業を出す際に1木払うと、その前に出している職業の枚数分だけ飯がもらえるという効果でございます。そりゃ天秤であんだけ飯もらったら、紙すきの効果なんかより1木の方が大事だよね……。




 結果。このゲームは、ほらっちさんが64点で圧勝。

 ほらっちさん、つっよ……。

 あと、拡張ありのアグリコラ、怖い……。

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