第3話 織木さんのライバル?
なんだかちょっと緊張してきた
「石積君、今週の日曜もアグリコラやりに行っていい?」
「……えっと……」
アグリコラを始めてからというもの、学校で石積君と話すことが少しだけ増えた。少しだけ、というのは石積君から私に話しかけてくることが全然なくて、声をかけるのはほぼほぼ私の方からだから。アグリコラをしているときは私とも普通に話せるくせに、学校だと人目が気になるのか、私とは一定の距離を置きたがっているご様子。シャイというかなんというか。
こういう奴だというのは知ってたけど、いい加減友達付き合いのある人間とは学校でもまともに話せるようになりなさいよ。いつまでも何考えてるのかわからない変な奴だと思われるのは、私だってほんのちょっとだけ寂しいぞ。
「……日曜は、甘菜が友達と約束あるからって」
「あ、そうなんだ。それは残念」
さすがに、石積君とフタリコラっていうのもなー。まあいいか。じゃあ日曜は何して過ごそうかな。久々に友達とどっか遊びに行くか。「羊子、最近付き合い悪いぞー」って、よっしーにもぶーぶー言われてたしな。
「それで、織木さん」
「ん? 何?」
踵を返しかけた私を、石積君が呼び止める。なんだなんだ。デートのお誘いか? まっさかねー。アグリコラのお誘いのためだけに私をわざわざ人気のない校舎裏に呼びつけるような人に、こんなお昼休みの教室なんかで、デートのお誘いなんてする度胸あるわけないよねー。もししてきたら、おへそでニシン鍋沸かすわ。
「家でアグリコラをする代わりに、二人で行きたいところがあるんだけど、いい?」
「……へ?」
……マジで?
「あ、いや! 違う! 今のはそういうのじゃなくて! ボードゲーム! ボードゲームが出来る店があるんだ! アグリコラも置いてあるし、アグリコラ以外のゲームもたくさんあって!」
何かに気付いたのか、顔を真っ赤にして取り繕うように説明を始める石積君。
「ふ、ふーん……」
いや、わかってましたよ。石積君だし。石積君のことだから、もちろんそういうのじゃないってのは、わかっておりましたともさ。だから、よっしー。ニヤついた顔でこっち見んな!
「どうどう。わかったから。わかったから、落ち着いて、石積君」
「ご、ごめん」
「いや、いいのいいの。アグリコラも出来るんだよね、そのお店?」
「あ、いや、いろんなお客さんが来る店だから、アグリコラをしたいって人が集まらなかったら出来ないかもしれないんだけど……でも他にもたくさんゲームがあるから、織木さんもどうかなって」
「わかった。いいよ。次の日曜ね」
話がまとまって、自分の席に戻る私。椅子に座ると、はあっと溜息が出た。
「あんな顔真っ赤にして言い訳しなくてもさー……」
「羊子も顔赤かったよー?」
隣の席のよっしーがからかってくる。
くそう。こいつ、私をおもちゃにして昼休みを過ごす気だな。
「そりゃ、あんな顔されたらこっちまで恥ずかしくもなりますよ」
「んー、そうなん? ま、そういうことにしといてやるかー」
ケラケラと笑いながら、ポンポンと肩を叩いてくるよっしー。
はー。
本当に、そういうのじゃないんだってば。
というわけで、日曜日がやってきた。なんでも今日行くのは、街の中心部にあるサンナナという店らしい。
さて、何着て行こうかな。あまり気合入れた格好して行っても、変に石積君のこと意識してるみたいでアレだしな。うーん、この地味めなブラウスでいいか。スカートも長めにしてと。髪は後ろで縛るだけにしておこう。ポニーテールは今日の服と合わないし、あれずっとしてると頭痛くなってくるしな。よし、こんな感じか。鏡の前に立ってみる。
うーん……悪くはない……悪くはないんだけどさ……いや、自分がこういう顔立ちなのは自覚してたけど。
なんだろう、この女子高生感のなさ。人妻みたい。
サンナナは街中の雑居ビルの一角にある店で、ボードゲームで遊ぶスペースの他に自習スペースなんかもあったりして、勉強やお仕事にも使えたりするらしい。まあ今日はボードゲーム目的で来てるから、私たちはただ遊ぶだけなんだけど。料金は学生だと一日いても800円で、とってもリーズナブル。時間換算すると、映画とかカラオケと比べてかなり安いのはすっごく助かる。
石積君が慣れた手付きで入口のロックを解除して、扉を開けた。後ろについて中に入ると、首を突き出しているみたいなクマさんのぬいぐるみが、壁に掛けられているのが目に入った。店長さんの趣味かな。
奥に進んでいくと、壁一面がものすごい数のボードゲームで埋め尽くされているのが見えた。
「うわー、すごい数だね。こんなにたくさんゲームあるんだ」
今までボードゲームといえば人生ゲームとアグリコラしか知らなかったから、ちょっとびっくり。そういえば石積君の家にも、アグリコラの他に何個かゲームあったような気がするな。結局アグリコラしかやってないけど。
「あ、ほらっちさん、こんちは」
「お、石積君。今日は友達連れてきたの?」
石積君に「ほらっちさん」と呼ばれた人が、私の方を見ながら訊いてくる。なんだか優しそうな顔をした、小太りのおじさんだった。ここの常連さんかな。
「はい、クラスメイトで。あ、織木さん、この人はほらっちさん。アグリコラめちゃくちゃ強いんだよ」
「初めまして、織木と言います」
「初めまして、ほらっちと言います。あ、ほらっちというのはネット上のハンドルネームで、ここでもそれで通ってるんでそれで呼んでください」
へー。ほらっちさんか。なんだか話しやすそうな人だな。正直、どんな人が集まる店なんだろうという不安がないわけではなかったけど、とりあえずは大丈夫そう。
「織木さんは普段どんなゲームするの? さっきの石積君の口ぶりだと、アグリコラはやったことあるんだ?」
「あ、はい。最近始めました」
「おお、それは素晴らしい。じゃあ、早速やりますかー」
流れるように棚からアグリコラを取り出すほらっちさん。石積君はアグリコラが出来るとは限らないって言ってたから、他のゲームをするかもしれない心づもりでいたんだけど、なんか普通にアグリコラ始まりそう。いや、もちろんアグリコラ出来るのは嬉しいけど。
「ということだけど、織木さんアグリコラでいいよね?」
石積君が一応訊いてくる。って、手際よくボードの準備始めながら訊かれてもなぁ。
「もちろんいいよ」
それにしても、いきなり知らない大人の人とアグリコラか。なんだかちょっと緊張してきたな。
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