11日目① それは奢ると言っていいのだろうか〈千鶴side〉

「早く来すぎた……」


 近くの時計台を見れば、時計は丁度真上を差している。

 つまり時刻は正午、場所は噴水前。


 唯織と約束した13時まではまだ一時間もある。


 昨日唯織に早く来すぎるなと釘を刺されたのに、10時にはお昼ご飯を食べ終わり、11時には家を出る準備が終わっていて、気付いたら待ち合わせ場所に到着していた。


「どこか、ここが見えるカフェとか……」


 唯織に待たせたと思わせたくないし、噴水が見える店かどこかで時間を潰して、唯織が来たタイミングで丁度到着したように演出すれば―――


「うわ、やっぱ来てんじゃん。そんな気してたけど」


「っ!?」


 真後ろから聞き覚えのありすぎる声がして、恐る恐る振り向けば、会いたかったけど今一番会いたくなかった人がいた。


「よっ。昨日ぶりー」


「唯織……あの、ごめんなさい…昨日、早く来すぎるなって言われたのに…」


「いーよ別に。結局私も来てるし」


「あれ…た、確かに」


 そういえば、この時間に唯織がいるってことは……。


「もしかして唯織も楽しみ過ぎて……!」


「いや、私は野暮用があって早く来ただけ」


「……」


 何だか自分だけ気持ちが空回ってる気がして、恥ずかしさに顔が熱くなる。


「まあ、私も楽しみだったけどね。それより体調は?頭痛とか熱とか。昨日も今朝も確認したけど、ちょっとでも体調悪くなったらすぐ言えよ?」


「だ、大丈夫!!むしろ元気過ぎて早く来ちゃったくらいだから…!」


「ならよし。じゃあもう二人揃っちゃったし行くか。ついでだし、ちょっと用事付き合ってよ」


「わっ…!」


 唯織に手を引かれて、一時間早く、流れるように唯織との二人きりのお出かけが始まった。





「今日の朝来る前に紬となんかよくわかんないゲームしてさー、お菓子買わないといけなくなったんだよ。クソめんどいことに」


「よくわからないゲーム…?」


「そお、なんか基本すごろくなんだけど、『?』マスに止まったら箱から紙引いて、中に書いてあることに従わないといけないよー、的なやつ」


 聞いている限りだと面白そうだけど、確かにやりたくなかったり苦手なことが紙に書かれていたら少し嫌かもしれない。


「…それは、紙の内容は誰が書いてるの?」


「私と紬。あいつその場でできること書けばいいのに、時間かかるかすぐにできないことばっか書くからダルいんだよ」


「へー……本当に…仲が良いのね、妹さんと…」


「なんだかんだなー」


 ショッピングモールの中、唯織の妹さんのお菓子を買うために駄菓子屋を目指し、唯織と並んで通路を歩いていた。


 日曜日のお昼頃だと言うこともあって流石に人は多く、親子連れも多い。


 さっき一瞬だけ繋いでくれた手は、すぐに離されてしまった。

 本当はもう少し手を繋いでいたかったけど、この人混みの中だとどうしても今までの自分が出てきて、言いたいことが喉に詰まったように言えなくなってしまう。


 少しは変われた気でいたけど、本当にそれは少しだけで、まだまだ全部じゃないのだと思い知る。


「ここだ」


 なんて考えていたら、唯織はそう言って足を止めた。


 買いものをしたことはないけど、昔懐かしの駄菓子屋さんの構えと言うか、当たり前だけど店頭にはたくさんのお菓子が並べられている。


「ここ、近くのスーパーよりちょっと安いんだよな」


「なるほど…」


 普段こんな所に寄らないから、なんだか少し新鮮だ。


「わ、私も……一緒に見ても大丈夫…?」


「ん?うん、そのつもりで連れてきたし。ついでだし千鶴も自分が食べたいの選んだら奢るよ。前のカフェの代金から」


「あ、ありがと…う…?」


 それは奢ると言っていいのだろうかと思いつつ、店に入っていく唯織の後を追いかける。


 店内には小さい子たちがたくさんと、自分たちくらいの年代から年配の方までちらほらといて、楽しそうにお菓子を見ていた。


 普段お菓子をあまり食べない私でも見たことのあるようなものもあれば、何やら怪しげな白い粉が入っている見たことも聞いたこともないようなものまで陳列されている。


 見ていて飽きないけど、色々あり過ぎて目移りしてしまう。


「何買うか決まったー?」


「いえ…まだ全然……」


 声を掛けられてふと見れば、唯織の提げている小さい買い物カゴにはいつの間にかたくさんお菓子が入っていた。


「カゴの中に入れてるのは、妹さんの好きなお菓子?」


「ん?いや全然。全部私が好きなやつ」


「あれ?確かさっき妹さんに頼まれて買いに来たって…」


「あー、それな。そもそもあいつ、お菓子自体あんま好きじゃないんだよ」


「それは…どういう…?」


 お菓子が好きじゃないのに、お菓子を買ってきて欲しいだなんて、なんだか少し、ウミガメのスープめいた話だ。


「紬自身はあんま好きじゃないんだけど、逆に私がお菓子とか甘いの大好きで、私が食べてたらあいつも食べたいって言ってくるから多分、口には出さないけど一緒に食いたいんだと思う。だからとりあえず、二人でも食べられる私が好きなの選んで買ってる」


「…なるほど」


 聞けば聞くほど、唯織と妹さんの仲の良さがわかっていく。


 前ほどの嫉妬はないにしても、やっぱり二人みたいに面倒くさがりながらも深い所で思い合える家族がいることが、羨ましく感じてしまう。


「そういや千鶴ってこういうとこ来ることあんの?」


「いえ、近くを通ったりすることはあったけど、入るのは初めて」


「ほお、ならおすすめをいくつか紹介してやろう」


「本当?それならすごくありがたいけれど………」


「例えば……これとか。ちょっと持ってみてこれ」


「……?うん」


 カゴから取り出した、細長くてオレンジ色で、上側で結ばれた開け口が緑色になっているものを手渡される。


「………にんじん…?」


 何なら袋に『にんじん』とプリントされていた。

 中には小さくて白っぽい粒みたいなものがたくさん入っている。


「の、ポン菓子」


「にんじんが材料になってるの?」


「知らん。それよりそれ、両手で持って胸元に当ててみてよ」


「胸元?……こ、こう…?」


 よくわからないけど、そういう決まりがあるのかと思って言われた通りにしてみる。


「んで、『私は千鶴だぴょん』って言いながらジャンプしてみて」


「わ、私は千鶴だぴょ…………」


 言われた通りの台詞を言いながら、ジャンプのために膝を折り曲げた所で、ふと違和感を覚える。


 うん…?にんじんを持って『ぴょん』って言いながらジャンプ……?


「はっ……!」


 見れば、ニヤニヤ笑いを浮かべながらこっちを見ている唯織の姿。


「あれ、やってくんないの?」


「なんっ……!!」


 からかわれたことに気付き大きい声を出しかけて、すぐに喉元で止まる。

 周りにはたくさんの人がいる上に、ここは店内。小さい子もたくさんいる。


「………」


 睨みつけて精一杯の意趣返しをするも、唯織は気にする様子もなく満足気に微笑み、別のお菓子を棚から取った。


「これとかも結構おいしーよ」


 それからなんだかんだ三十分くらい唯織と二人で駄菓子屋を散策し、結局二人合わせて三千円ちょっと程の買い物をした。


 私は多分、唯織におすすめしてもらったり自分で選んだりと、千円分くらいのお菓子を買ってもらった。


 この前カフェで唯織に渡したお金が三千円で、そこから私と愛川さんの食べた分を引いて920円、この前コンビニで奢ってもらった肉まんが大体110円だとして、今回のを合わせると確実に唯織が私に返すお金分を超過している。


「唯織、レシート見せて。足りない分を返さないといけないから」


「いやいーよ、延滞料ってことで」


「そういうわけには……!」


「んー。じゃあ私ちょっとシャーペン買いたいから、安いのでいーから奢ってよ」

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