第15話 魔法使いの森Part1

 冒険者の街イルジオンを出た僕達だが、どこへ行くのかは全く考えていなかった。

 というのも僕もセリアもまともな情報を持っていない事に加えて、セリアが盗賊を名乗っているからだ。イルジオンでは何故だか盗賊を名乗って平然と街に入っていたけれど、どこの街でもそうとは限らないし、そうであってほしくは無い。

 結果、盗賊である事を隠さないバカでも入れるようなアウトロー気味の街を探す事になってしまったのである。


「ちょっと、その言い方だとアタシがバカみたいじゃないのよ」

「……」

「何か言いなさいよ。そうだねーバカだよねーとか、せめてフォローするとか。じゃないとアタシが本当にどうしようもなくバカって事になるじゃない!」


 後半は半分くらい涙声になりながら言っていた。

 どこに何がいるかも分からない状況で、大声を出すのはやめてほしかった。

 僕達が今いるのは【さざなみの森】の深部だ。本当ならここは深部へ行くのではなく、上手いこと外周を回って抜けるのがセリア曰く正解らしいが、彼女に案内された通りにやって来たら深部へと辿り着いてた。

 僕はスマホを見た。

 普通、異世界転生でスマホを持ち込むならスマホの機能を活かして冒険を有利にするのが定石だろうが、地図も無ければこの世界の細かな内情をよく知らない女神と通信が出来るだけなので、召喚が出来る以外でこのスマホを利用する事は無かった。今ではスマホと言うより電池の切れない懐中電灯の様な扱いだ。いやまあそれでも十分すぎるくらいに凄いのだけれど。


「女神様ももっとまともなチートスキルを欲しいところだぜ」

「フッ、与えられる力に頼ってばっかじゃダメよ。ヨシヨシ。自分の力を信じなきゃ」

「お前はもう少し自分の力を疑おうな」


 何故、セリアはそんなに自信満々に言えるのだろうか。薄い胸を張りながら堂々としている彼女を見ていると、厚顔無恥とはこの事だなと思う。


「この森ってどこに繋がってるんだよ」

「確証はないけれど魔法使いの森っていう場所に繋がってるって話を聞いた事があるわよ。あ、聞いただけだからね。信用はしない方がいいわよ!」

「魔法使いの森ねー」


 確か僕がやっていたスマホゲーム【ルインズサーガ】でもそんなエリアはあったような気がする。森を広げて施設を増やそうとする革新派と、森を守ろうとする保守派に分かれて対立しているとかそんな感じだったのを覚えている。

 何でファンタジーのゲームでそんな嫌にリアルな設定を持ち出してきたのかと疑問に思ったが、シナリオライターの故郷が今やダムの中にあるという話を聞いて納得してしまったのもいい思い出だ。


「魔法使いはダメよ」


 セリアが突然そんな事を言い出した。


「何でだ?」

「こんな森で暮らしているような奴らよ。まともな奴な訳がないわ」


 セリアが言うまともではないとはイコールまともという事だ。これは魔法使いの森が楽しみになってきたぞ。


「あまりイメージだけで人を断ずるのはやめた方がいいと思うぜ」

「私ね、前に魔法使いの道具をスッた事があるのよ」


 急に罪の告白が始まった。


「凄いたくさん宝石を身に着けていたから一個くらい盗ってもバレないと思ったのよ。なのにそいつすっごい怖い顔して追いかけてきて」


 セリアが顔を青くしながら言う。未だに思い出すのもぞっとするような思い出なのだろう。例えるなら静かな授業中にこてこてのアニソンの着信音が流れてしまうようなものか。考えただけで身震いがしてくる。


「あれはやばかったわ。三日三晩走ったわ。冗談じゃなく」

「どう解決したんだよ。返したのか?」

「私の宝石よ? 私が盗んだんだから。返すってのは文法がおかしいわよ。全くバカねヨシヤは」


 ああそうだ。コイツはこういう奴だ。

 他人の持ち物も手に持った時点で自分のものだと思う生粋のガキ大将。セリアにだけは持ち物を預けてはいけないなと僕は固く心に誓った。


「返したんじゃないなら宝石は? 持ってるのか?」

「もちろん」


 セリアは腰に付けている袋から赤い宝石を取り出した。確かに綺麗な宝石だ。小柄なセリアが持っているからだろうか。大きさを感じた。

 渡されたので持ってみると、ずっしりと重い。大きさは卓球のボールくらいなものだが、感じる重量は野球の硬球くらいにはある。


「宝石を持ち歩いてるなんて、珍しいな」

「それ売れないのよ。どこへ行っても価値が分からないとか言われてね」

「へぇ」


 そういうのは売れないアイテムなんじゃないだろうかと僕は思った。大事なものとか貴重品にカテゴライズされる道具はゲームでは売れない事がほとんどだ。この宝石もそういう類の物だとしたら、持っている事に意味があるのではないか。


「そんな売れない物に執着するんだもの。魔法使いは人でなしの集まりよ」

「そいつがそうってだけで、全員が全員そうとは限らないだろ」


 それに魔法使いが仲間になってくれたらこの先の旅も楽になるはずだ。物を投げるしか取り柄の無い盗賊と、召喚スキル以外に何も無い一般人だけでこの先やっていくのは中々に辛い。


「あ、そういえば。前に召喚してから時間も経ってるし、召喚してみるかな」


 スマホを見るとエネルギーが溜まっているのが分かった。召喚可能回数は一回。

 この召喚は十連で確定保証があるとかではないのだけれど、気持ち的に十連で引きたくなってしまう。

 だが今はそこそこの緊急事態。藁にも縋る思いで僕は召喚ボタンをタップした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る