第14話 スカイクラッド
勇者であるはずの僕は晴れて盗賊団の副団長となってしまった訳だが、団といっても二人しかいない盗賊団に入ったからといって特に何がある訳でもなく、たまにセリアからこき使われる程度の事だった。
イルジオンを出てから【さざなみの森】というゲームにもあったエリアに入ってもう半日が経過している。僕らはそこそこに平和な旅をしていた。
さざなみの森にいるモンスターはそこまで強いものはおらず、全てテラーラビットが平手打ちで倒している。確か、彼女の得意技は足技だった。とはいえ、SSRのテラーラビットを運用するのは僕の心身への負担が激しく、食料として食べれる魔物肉の確保にはかなり苦労した。
「はぁ……ったくセリアの奴め。僕一人に食料調達を任せやがって」
セリアがいかなる手段を用いてか準備していた野営セットで本日の寝床は確保済みだ。セリアはそこに他の冒険者がやって来ないか見張ると言い張り、かたくなに食料確保に向かおうとはしなかった。
「セリアはナイフを投げる事しか頭に無いからなぁ」
彼女に食料調達を任せれば半日どころか一日経っても成果無しもあり得た。
野営地にまで戻ってきた。
野営セットにはテントと寝袋、焚火セット、そして魔物除けの結界を発生させる装置が入っていて、彼女は僕用と自分用で二つ準備していた。なのでテントを一つ独占できるという中々の快適さがある。
「ん?」
テントを守ると言っていたセリアの姿がどこにも無かった。
「どうしたんだ? 腹壊したのか?」
ずっと腹出しでいるのだし、体も壊すだろう。彼女の盗賊の嗜みは立派だとは思うけれど、見習いたくはない。
「面倒だけど、探しに行った方がいいよな」
僕は片手にスマホを持って、いつでもテラーラビットを呼びだせるようにして野営地を出た。野営地には魔物除けの結界を動作させているが、それで防げるのはモンスターだけだ。人が来るのは止められないし、結界を動作させているのが却って人を呼び寄せる事もある。
だから寝る時はいつもテラーラビットを召喚している。彼女は寝なくとも活動が出来るのだ。あまりやる気のない性格だから、暇さえあれば寝ているけれど。
野営地を出てちょっと歩くと、水の音が聞こえた。どうやら近くに川でもあるらしい。
水を汲みに行ったのかもしれないと思い、僕は音のする方へと向かった。そこは野営地から近い所で池になっていた。
見た所、小さい池で、そんなに深そうでもない。ただ水がとても綺麗で、底に何があるかまでクリアに見えていた。なので魚がいないのも分かった。
「……」
僕は池の近くの茂みから隠れて池を見ていた。
その理由は明白だ。
セリアが水浴びをしていたのだった。
「居ない理由はこれか……まあ確かに。風呂なんてこっち来てから入ってないしな」
制服も何だか嫌な臭いがするし、そろそろ洗濯したいものだが、制服を洗濯中に着る物が無い。まさかパンツ一丁で冒険をする訳にもいかない。それにパンツも洗濯したい。
「……だけどそんな事よりも……今の僕には大事なものがある……!」
鼻歌を歌いながら、体を清めているセリアの姿を僕は目に焼き付けるようにして見た。
なるほど。普段から露出度の高い恰好をしているので何となく察していたが、彼女は貧乳だった。しかし形はいいと思われる。むしろ小さいからこそ形が崩れていないのか。
裸になると手足といい腰回りといい、より華奢に見えた。あれで盗賊団を背負おうとする覚悟の持ち主なのだから、中々に肝が据わっていると思った。
「さて、堪能させてもらったし、戻るか。見つかったら殺されるじゃ済まなそうだ」
相手は盗賊。ここまで接近で来たのは奇跡だ。僕はそっと注意して後退する。
だが運命は僕を愛していないらしく、僕の努力もむなしく、そこにあった木の枝を思いっきり踏みつけてしまった。
池で水浴びをしているセリアの表情が警戒心の強いものに変わる。彼女は体を腕で隠しながら、周囲を観察している。
「ヨシヤ?」
彼女は自分の衣服を置いてある所まで行くと、そこに置いてあるナイフを手に取った。盗賊の勘なのか、闖入者の位置には目星がついているらしい。彼女の視線はこちらに向いている。
どうする。
見ていた事がバレたらこの先、彼女に何をされるか分からない。
だけども見せてもらったのだから、何をされても文句は言えない。
だからこそ僕は見ていた事が気付かれない可能性に賭けていた。でもそれも彼女の盗賊としての技術で不可能と言うのなら、自分から泥を被るのが一番いい。
これはセリアとの信頼関係にも繋がる話だ。出来るだけ真摯にいきたい。どう考えても紳士とはいいがたいけど。
「ああ。そうだよ、僕だ」
僕は堂々と立ち上がった。両手を挙げても、もう無駄だろうけど。
「んな?! ま、まさか……覗いて……」
「覗きに来たんじゃない……ただ覗いてしまっただけだ」
「それどっちも同じ事じゃない!」
セリアは顔を真っ赤にしながらしゃがむ。池の中に全身を入れているが、透明度の高すぎる池なのもあって、全く隠せていなかった。
「セリア。ただ一つだけ言わせてほしい」
「な、なによ……」
セリアの声はかなり弱弱しい。露出度の高い恰好をしている事を恥じている程度には普通の女の子なのだ。裸を見られて平静を保つのは難しいのかもしれない。
だからそれを含めても。僕は彼女に言いたい事が、いや言わねばならない事があった。
「ありがとう」
感謝。
いいものを見させていただいてありがとう。
転生させてくれてありがとう。
産んでくれてありがとう。
僕は三人の女性へと惜しみの無い感謝を贈ったのだった。
ちなみにこの後、頭部に衝撃があって視界が暗転。気付いたら朝になっていた。
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