第12話 討伐任務
ギルドに登録した僕はこれからの旅の資金稼ぎを始める事にした。
どれだけ稼げば平穏に旅が出来るのかは分からないけれど、お金なんて多いに越した事は無いだろう。
僕がやって来たのはイルジオンを出てすぐの平原だ。
ギルドは街や国から受けた依頼をクエストとして冒険者に発注する。僕が受けたクエストは『エボルボアを倒せ』というものだった。
エボルボアとは野生の猪みたいなモンスターであり、そこまで強くないモンスターとして有名だとか。食肉的価値は高く、元の世界でいう所の牛肉や豚肉レベルの人気を誇る。
僕はテラーラビットを召喚した。僕が持つスキルの一つ。【確定召喚】によるものだ。一度召喚したロストしていないユニットを通常召喚よりも高い魔力消費で召喚するというものだ。倦怠感が出るのは止められないが、彼女を引き当てた時よりは体が楽だった。
「クエストの内容は分かるよな」
「うん」
ロストしていないユニットはこうして再召喚が可能で、僕の状況も逐一共有されている。タケノコ星人を再び出すにはランダム召喚で頑張るしかないという訳で、次に出したタケノコ星人は以前の記憶を持たない。何とも悲しい話である。
「マスター」
テラーラビットがこちらを見た。
「ん?」
「帰りたい」
「言うと思ったよ。でも抑えてくれ。僕の衣食住の危機なんだ」
「むぅ」
「何で不満なんだ……?」
先行きに不安を感じながら僕らは平原の探索を進める。道中、エボルボアよりも弱い魔物を数体倒したり、全力で逃げたりしながら進むことしばらく。
「あれか? エボルボアって……エボルって何のエボルだよって思ったけど、エボリューションの意味なのかもな。いやまあこの世界で僕が知っている言葉の意味がどれだけ通用するかは分からないけどさ」
「……」
話しかけたつもりだったが、思いっきり無視された。
若干ショックだった。
エボルボアは僕が想定していたよりも数倍は巨大だった。猪というのだから腰の下くらいの大きさを想定していたのに、出会ったそいつは僕の背丈ほどの高さがある。
これが弱い方なのだから異世界は怖い。
「よし頼んだ!」
言うや否や僕はテラーラビットに任せて近くの木の陰に隠れた。流石にあんなのと接近したくはない。
だがテラーラビットはいつまでも奴に近付こうとはしなかった。
「射程距離外だよ」
「何ィー?!」
彼女の言葉に僕ははっとした。そうだ。僕のスキルには弱点もある。現状分かっているラインでも弱点だらけだとは言ってはいけない。
召喚したユニットは一定の距離を僕から離れると弱体化する。ユニットごとにこの距離は変わり、接近戦タイプのテラーラビットの力をフルに使うには僕もそれなりに敵に近付かなければならない。ただでさえ僕個人の戦力に引きずられて弱いユニットが更に弱体化するというのは良くない。
「僕も近付かないとダメって事か」
「うん。そう。私は寂しがりだから」
「射程距離って性格で決まるのかよ……?! てっきりお前が蹴り主体だからだと思ったぞ」
テラー"ラビット"だからこう見えて寂しがりなのだろうなとは勝手に思っていたが……。
いつかは彼女のテラーの部分も見てみたいものだ。
どう見ても猛獣のエボルボアに近付くのは怖いけれど、仕方がない。テラーラビットが守ってくれるだろうし大丈夫だろう。
木の陰から出るとエボルボアが僕に気付いた。
「?!」
「マスター、どいて!」
「ぐへっ」
勢いよく飛び出したテラーラビットに足蹴にされ、僕は勢いよくうつぶせに倒れた。足手纏いだと言わんばかりだった。泣きたくなる。
遠くから戦闘音が聞こえてくる。何となく怖いので、僕はそのまま倒れていた。
やがてしばらく経つと音も聞こえなくなった。
「終わったかな」
立ち上がるとエボルボアは無残にも打ち倒されていた。傍らにはヒールに着いた血を叩いているテラーラビットの姿があった。
「流石……SSR。戦闘を見る間もなく終わったな……」
「……」
帰りたいと幾度となく口にする割にちゃんと仕事はこなすのだ彼女は。その一点においては意外にも僕は信頼していた。
「眠くなってきた」
「信頼しても……いいんだよな?」
エボルボアを倒したという証はどうしたらいいのだろうか。そこら辺の説明も受けずにやって来たのは間違いだったか。
ふとポケットに入れていたギルド証が光ったので、見てみると『エボルボア討伐完了』と光の文字が刻まれていた。
「なるほど。これを見せればいいのか。楽チンだな」
「帰ってもいい?」
「ああ、いいぞ」
「分かった。また何かあったら呼んで」
テラーラビットはすうっと消えていった。
ビジネスライクなお付き合いがご所望らしい。
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