第8話 SSR召喚

 セリアの声を聞いた二人組が、物陰から現れた。

 縦に長い奴と横にデカい奴。

 おそろいの格好をした二人だ。全身を青紫色のスーツに包み、顔にはガスマスクが付けられている。


「そのダッサイスーツは……アルセイン盗賊団ね!」


 セリアが怒鳴った。

 彼女の声がドームの空間に響き渡る。


「アルセイン盗賊団?」

「このご時世に盗賊なんてやってる時代錯誤な連中よ」

「お前も盗賊だろ」


 二人組がこちらを見て何か話している。会話の内容は全く分からない。


「ってあーーー!」


 セリアが男の片方が持つ袋を指差して叫ぶ。

 

「それアタシの荷物じゃない! そうだったわ! アンタ達に盗まれた荷物を追ってたんだわ!」

「……お前、マジで大事なことを忘れるんだな」


 盗賊云々とか関係なく、セリアがまともに生きていけているのか心配になって来た。


「ヨシヤ。アイツらをブチのめすわよ」

「は?! お前、一人でやれよ」

「うそー。アンタとアタシで盗賊団を再興させようって話だったじゃない!」

「んな話してねぇよぉ?!」

「仕方ないわね。だったら一人でやるわ!」


 言うや否やセリアが勢いよく駆け出す。

 そして果敢に殴りかかるも頭を抑えられ、接近が出来ない。

 ひとしきり腕を振り回して疲れている所を華麗なドロップキックを貰って吹き飛ばされた。


「にゃあああああああ!!」

「随分と可愛らしい断末魔だな?!」

「アイツら、中々やるわ! 盗賊のくせにぃ。雑魚敵のくせにぃ!」

「お前が弱いだけじゃないか?!」


 散々恨み言を言い放ちながらセリアは倒れた。気絶してるだけと思いたい。

 盗賊二名も肩をすくめていた。どうやら全力なのはセリアだけだったようだ。

 ならばよし。既に奴らの背後に放ったタケノコ星人に倒してもらうだけのこと。無警戒なところに背後からの伏兵。

 何だかんだ言って僕も戦う気満々だったのだ。セリアとあの盗賊二人

 対応は出来ないだろう。


「今だ……やれ!」

 

 天井に張り付いていたタケノコ星人が盗賊に向けて急降下する。タケノコ型のドリルを眼下の盗賊へと向ける。彼が勢いを増すごとにタケノコ型のドリルが回転を強めていく。持ち主のスピードが直接攻撃力に関わる武器の様だ。


「うおおおおおお!」


 まるでニチアサのテンションで叫ぶタケノコ星人だが、その叫び声に盗賊が彼の存在に気付いた。

 しかしもう遅い。

 タケノコ星人は既に回避不能の状態。

 あんな線の分かりやすい攻撃は回避されてしまうだろう。


「あのバカやろー! 奇襲の旨みを自分から潰しやがった!」

「武人たるもの。正々堂々とやりたいのでな!」

「武人でもなんでもないだろ。お前は!」


 そして僕の懸念は当たってしまい、タケノコ星人の攻撃は簡単に回避された。おまけに彼のドリルが地面を掘り進めたおかげで体の半分が埋まってしまう惨事。タケノコ星人がさっきまで張り付いていた天井が崩れ、体を半分も地面に埋めて動けない彼はあっけなくも瓦礫に押しつぶされて死んだ。

 死んだといったが、実際はユニットとしての限界を迎えたタケノコ星人の体が光の粒となって消え去ったのである。

 ユニットは耐久度を失うと消失……ロストするのだ。死体の残らないクリーンさは見習いたい。

 盗賊二人がこちらへと駆けて来る。今度は向こうから攻めて来る番だ。

 対してこちらはというと、床に這いつくばってるセリアと、壁の無くなった高校生のみ。先ほど召喚したスキルやアイテムはどう考えても戦闘向きでは無いので、今の僕に残された手は一つだけ。


「くそ! 次だ! 次。良いの来い!」


 召喚ボタンをタップする。

 瞬間。

 周囲の空間が弾けた。

 

「な、なんだ……?!」


 まるでプラネタリウムのような周囲の風景に盗賊も驚き立ち止まる。僕の持つスマホから極大の光が現れる。

 それは段々と人型を成していく。


「来たぁぁぁぁぁ!」


 この過剰なまでの演出はSSR級のユニットだ。

 僕は興奮しついつい大声を出してしまった。これが異世界で本当の召喚だから良いが、東京の街中だったら死ねる。

 光が弾け、中にいる人物が地面に降りると周囲の風景は元に戻る。

 そして僕の前に現れたのは、


「帰りたい」


 めちゃめちゃやる気の無さそうなバニーお姉さんでした。


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