第5話 タケノコ×学ラン×盗賊
出現したのはSRのタケノコ星人。だった。
ルインズサーガでもよく見た奴だ。頭がデフォルメされたタケノコになっていて、体は全身タイツで覆われている。右手には本物のタケノコを模したドリルを装備している。
「これが……召喚……なんかショボいわ」
「ああ、僕もそう思う」
もう少し凄いのが出てくると思っていただけに肩透かしだ。まあガチャってそんなもんだよ。
でも夢を見たっていいじゃないか。
初回、SSR確定だっていいじゃないか。だってリセマラの回数が減るんだもの。
だがこれは紛れもない現実であって、リセットがきくようなものでもない。起きてしまった事はもう巻き戻せない。出て来てしまったタケノコ聖人で戦っていくしかないのだ。
悲壮な決意を込めて僕は現実を直視した。
全身タイツにうっすらと見える彼のボディラインに僕は目を逸らした。
「アンタが俺のマスターか」
やけにイケボのタケノコ星人が僕を見る。
そのセリフは女の子から聞きたかった。もしくは騎士風のイケメンに。
「タケノコは好きか?」
「あ? まあ、嫌いではないけれど」
「そうであろう。そうであろう。タケノコはいいぞ」
タケノコ星人の表情は見えないが、どこか満足そうだ。
タケノコはどちらかと言うと苦手だ。嫌いと言うほどでもないが、好んで食べるものでもない……はずだ。
……ラーメンに入っているメンマですら避けて食べようとするくらいだから、ああは言ったものの多分嫌いなのだろう。
「してそちらは?」
タケノコ星人はセリアを見た。
セリアは一瞬ビクリとした。まさか自分に振られるとは思っていなかったのだろう。又は全身タイツに委縮したか。
さっきまでの気丈さが借りてきた猫のように静かな彼女を見かねて僕は口を開いた。
「自称盗賊の旅芸人。名前はセリアだ」
「いや何言ってるのよ。旅芸人はどうみてもアンタでしょうが」
僕は旅芸人では無いのだが、最初に呼び出したのがタケノコ星人じゃ、そう思われても仕方ない。僕だってもう少し格好いいクリーチャーとか可愛らしい女の子を召喚したかった。
「ふむ。じゃあ戦いになったら呼んでくれ。後ろから付いて行くから」
意外に殊勝な奴だ。
……まあとにかく旅を始めるしかないだろう。
僕はセリアを見た。彼女は盗賊で、どこから来てどこへ行くのかも分からない人で、本人も道に迷っている最中だが、この世界の人間である事には変わりない。
多分、危険だ。この性格で盗賊ならば敵も多いだろう。そんな彼女と一緒にいれば僕も面倒に巻き込まれてしまうだろう。
だからといってこんな所に放置していくのは忍びなかった。僕の役割は勇者だ。ならばセリアだって救うべき人間のはずである。
「セリア……さんは道が分からないんだったよな。僕もなんだよ。同じ迷子同士、とりあえず休戦しようぜ」
「セリアでいいわ。アンタの名前も教えなさいよ」
「雲季義弥だ」
「変な名前ね。ヨシヨシと呼ばせてもらうわ!」
「なんでそうなる?!」
しかもどこかご満悦な表情をしている。まるで上手い名前を考えたとでも言いたげだ。
「じゃ、行くわよヨシヨシ!」
「ふざけんな!」
どうにかこうにかヨシヨシからヨシヤに呼び名を変えてもらうと、僕らは街を目指して歩き始めた。とはいっても誰もどこに街があるかは口に出さない。なんとなく歩き出して、なんとなく真っ直ぐ進むだけだ。地図も無いし。
タケノコ星人は言ってい通り後ろからついて来ている。
「ヨシヤって勇者なのよね。てことは女神様と会ったの?」
「会ったぜ。女神と呼ばれるに相応しい神々しい美女だった」
「へぇ、そんなに綺麗ならアタシも会ってみたいわ」
「セリアもそういうのに興味あったのか」
意外だった。盗賊なんてやっているのだから、金と宝にしか興味が無いと勝手に思い込んでいた。
「当然でしょ。アタシは盗賊よ。女神様のお宝なんて盗めたら後世にまで名を轟かす大盗賊になれるじゃ無い」
前言撤回。
やはりコイツは盗賊だ。
「それ悪名だからな」
「盗賊が名を上げるのに悪名以外に無いでしょ」
「義賊路線とかあるだろ……」
「バカね。名誉を狙って悪事を犯す義賊がどこにいるのよ。彼らはあくまで自分のエゴを貫いているだけ」
「確かに」
セリアにしては含蓄のある言葉だった。
「何でセリアは盗賊やってるんだよ」
「盗賊団の再興よ」
「再興? 盗賊団の首領って言ってただろ」
首領なのに、再興……?
いや首領だからこそ再興か。
「何かの理由で盗賊団が廃れちまったって事か?」
「そうよ」
セリアは吐き捨てるように言った。余り遠慮なく踏み込むのも良くないだろう。
「アタシは盗賊団の首領なんだから……」
彼女はその言葉を呪詛のように呟く。
「ああ。再興出来るといいな」
「じゃあヨシヤも入りなさいよ。今ならマグカップも付いて来るわよ」
「入らないよ。何でマグカップだよ」
「お茶を飲むときに便利じゃない。それにお茶汲みも大事な仕事よ」
「え、僕はまさかのお茶汲みとして採用されてます?」
せめて普通に構成員として採用してもらいたいものだった。
まあどちらにせよ盗賊団に入るつもりはないのだけれど。
「お二人とも、あっちに見えるのはダンジョンではないか?」
僕らの後ろを歩くタケノコ星人が彼方を指さす。
そちらを見ると地下へと向かう階段があった。
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