第4話 召喚発動

 どうにかして制服を取り返さないといけない。

 が、曲がりなりにも盗賊であるセリアからぶんどるのは不可能だ。

 僕は手に持っているナイフを見た。とても綺麗なナイフだ。手入れもされているのか、刃が光を反射している。

 

「このナイフ。よく見たら結構綺麗なナイフだよな。大事な物なんじゃないのか?」

「そうだった忘れてたわ! 返しなさいよ! それは大事な物なのよ!」


 セリアの足が止まる。

 大事な物なら存在を忘れるなよ。

 だがこのナイフは彼女と交渉するにあたって強力なカードたり得る訳だ。つくづく思うがどうしてそんな大切なものを真っ先に投擲したのだろうか。


「制服と交換なら、返してやる」

「う……ぐぅぅぅぅ。盗賊の首領たる私が、盗んだものを返すですって……? しかもあまつさせ敵に盗られた物と……? 屈辱的すぎるわ」

「もう結構醜態晒してる気がするぞ。ほれほれ、いいのか? 俺もどこかへ投げ飛ばすかもしれないぜ」

「ああ! ちょ、やめなさいよ! 無くなったったらどうするのよ!」


 セリアがぴょんぴょんと飛び跳ねて僕の手からナイフを掠め取ろうとする。しかし背丈の差か、本気で手を伸ばせば彼女の手が届かない所にナイフを置けた。

 盗賊ならば奪い返す技術とかもあって然るべきではないだろうか。スキルによる盗みと技術による盗みは違うという事なのか。


「さあ早く制服を返せ。絵面が酷い事になってるから」


 軽装の女の子がパンツ一丁の男の周りでぴょんぴょんと飛び跳ねている絵は、日本だったら間違いなく通報ものだ。


「くぅぅぅぅぅぅ」


 セリアは頭を掻きむしりながら散々唸った後、力が抜けたのか、だらりと手が垂れ下がる。本気の葛藤が見えた。盗賊としての誇りやプライドは強いのだろう。


「もういいわ。服は返すから、ナイフ返して」

「良かった……」


 ここで先に制服を返してもらうと言っても良かったが、流石にそれは悪いので先にナイフを渡した。


「先に返すなんて馬鹿ね。アタシが持ち逃げしたらどうするのよ」

「あんた、プライド高そうだししないだろ?」

「まあ、しないけどさぁ」


 制服を着ると、落ち着いた。やはり人間は服を着る生き物だ。大昔はどうか知らんが、現代人にとっては当たり前のことだ。


「はぁ……初めての盗みは大失敗ね。まさか最終的に元に戻るとは思わなかったわ」

「一話くらい無駄にしたな。全く、世界を救わなきゃならんというのに」


 僕とセリアは揃ってため息を吐いた。

 セリアが僕の言葉にピクンと反応した。


「世界を救う? アンタって勇者候補生なの?」

「候補生って言うか、勇者だ」

「ふーん」


 セリアの反応は薄い。まさか勇者を名乗る変な奴に見られただろうか。


「驚かないのか? 信じてないなもしかして」

「そりゃそうでしょうよ。アンタみたいに何の力も感じない奴が勇者な訳ないじゃない。夢を見るのもいいけれど、まずは現実を見てからにした方がいいわよ? それとも現実が目も当てられないくらい悲惨なの?」

「立て続けに煽る奴だな。このへっぽこ盗賊め」

「はぁ?! 変態の露出狂に言われたくは無いわよ!」

「僕が自分から脱いだみたいに言うんじゃねえ!」


 ぜえぜえと呼吸が荒くなる。セリアとはどうやら性格的な相性が悪いようだ。

 突然、スマホから音が鳴った。通知音の様な感じだ。僕は慌ててスマホを見ると、そこには召喚を行うエネルギーが溜まったと書かれていた。


「召喚が出来るのか? ていうか僕はまだ何もしてないが……時間経過によるものか?」


 確か召喚をするには、魔物を倒したり善行を行う必要があるという話だ。他に時間経過で溜まるともあったが、それにしたって早過ぎやしないかと思っていると、女神様からメールが届いた。文面を読む限り、今回限りのサービスだとか。


「何を見てるのよ」


 セリアがスマホの画面をのぞき込む。


「板に何かが映ってる?」

「板じゃねえ召喚器だよ。どうやら召喚が出来るらしい」

「へぇ」


 へぇって。

 全く興味無しって感じだ。

 召喚。

 それは遥か異界から物資、技能、人員を呼び出すスキル。

 ルインズサーガに照らし合わせると、スキルとユニットの魔石ガチャと、アイテム入手できる課金要素ゼロのポイントガチャが複合したような感じだ。

 初回ガチャは夢がある。

 僕は迷わず召喚のアイコンをタップ。召喚アプリが起動する。


「しゃあー。召喚だー!」


 気合を入れて召喚ボタンをタップ。

 するとスマホから青白い光が放たれる。光は高く登っていき炸裂する。まるで花火のようで綺麗だ。


「うわぁ」


 隣にいるセリアが感嘆の声を漏らす。彼女にも綺麗なものへの憧れはあるようだ。

 それを見届けた後、ガクンと体の力が一気に抜けた。まるで、持久走を終えた後のように息が苦しい。


「な、なんだ……すっげぇ疲れる」


 立っていられないくらいの疲労に僕は膝をついた。

 セリアが心配そうに僕を見ていた。あれ、意外と優しい奴なんじゃないか?


「アンタ、その魔力量の無さでよくもまあ勇者を名乗れたわね。なんか悲しくなってくるわ」

「憐れんでたのかよ! 余計なお世話だっつうの!」


 炸裂した光から何かが降ってくる。それは人型の存在だ。

 頭部はデフォルメされたタケノコのような被り物を被った、全身タイツの男性。

 僕達の前に着地したそいつは名乗った。


「俺は、タケノコ星人! よろしくな!」


 なんか……変なのが出て来てしまった。

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