第2話 異世界転移

 目を開けると全く知らない場所にいた。

 女神様の言葉の通りならここが異世界と言う事らしいが、あまり実感は湧かない。何せ僕の視界には草原しか広がってないからだ。

 ただ空気は美味しい。こればかりは元の世界では味わえないだろう。

 帰り道に突然、女神様とご対面してあれよあれよと間に異世界に飛ばされてしまったが、大丈夫なのだろうか。僕は魔王を倒す勇者らしいがそんな大役が務まるのだろうか。

 

「……死線の一つでもくぐれば男も上がるだろうな。そう思わないとやってられないぜ」

 

 ここから僕の壮大なるサーガが始まっていくのだが、その前に現状の確認からしようではないか。

 今着ているのは学ランだ。学校帰りに飛ばされたからだろうし、動きやすいのでアリだ。鞄は持ち込めていないようだが、あの中に入っているもので役に立ちそうなものはないのでアリだ。

 そして……


「ポケットを叩くとスマホが一つ……」


 別に叩いてはいないが、ポケットに手を伸ばすと無機質で固い物に手が触れる。それをポケットから出した。

 女神様は召喚器と言っていたが、見た目は紛れもなくスマホだ。僕が持っている物とは違うようだ。パスコードロックと顔認証もかけられてはいないので、簡単に開けた。僕の手でしか開けない特別仕様とのことなので、パスコードロックとかは不要だろう。充電は魔力的な何かで補っているらしく、充電切れを気にする必要はない。

 スマホにはメール、メモ帳、召喚アプリしか入っていない。格安スマホでももう少し手厚いだろう。それにカメラが無いのは変だ。召喚器の背面を見るとしっかりとレンズはあるのだから、カメラアプリだってあってしかるべきなのだ。

 女神様が作った端末だけに何か仕掛けがあるのだと期待したいところだ。


「僕のスキルは召喚だって、女神様が言ってたな」


 試してみようかとアイコンをタップする。すると画面が暗転し、魔法陣のような幾何学模様が幾つも現れる。そして画面中央に召喚と書かれたボタンのようなものが現れる。

 これを押せば召喚が出来るらしい。押してみても反応は無い。

 ふとメールの着信がある事に気付く。メールは女神様からでこの世界での生き方について書かれてあった。その中でもスキルについては大かっこで強調されていた。

 

『召喚は異界から物資、人員、スキルを召喚するスキルです。なのでこれ使うのにはとてもコストがかかります。召喚器にエネルギーを充填することで、召喚を行えます。時間経過か、モンスターの討伐、人助けによりエネルギーが溜まります。たくさん人助けをしてじゃんじゃか召喚しまくって、快適な魔王討伐ライフをお送りください』


 魔王討伐に快適さを求めるのはいかがなものか。

 メールの文面を要約すると勇者らしい行動をすればエネルギーが溜まって召喚が行えるという事らしい。エネルギーが溜まる理由は不明だが、そういうものだと割り切るしかない。

 ガチャのようなもの、という認識でいいのかもしれない。

 

「こんなところか」


 一通りの確認を終えた所で、僕は足を動かそうとして、気付いた。気付いてしまった。

 ここがどこなのか分からない事に。

 

「……」


 召喚器にはマップみたいな便利なものはない。コンパス的なアプリすらも無いのだ。視界に目的地マーカーが表示されている訳でもない。もっと言えば女神様が場所の名前などを教えてくれてすらいない。

 僕もまさかこんな草原の只中に飛ばされるとは露にも思わなかった。

 メールの文面的にモンスターが徘徊しているのは分かる。だが今の僕にモンスターと戦えるだろうか。無理だ。そんな便利な力を授かった覚えはない。

 

「これムリゲーだろ」


 大目的はあるのに、そこに至る道があまりにも暗中模索過ぎる。RPGだとしてもここまで酷いものは無い。魔王を倒せと言われても魔王とどうやったら会えるんですかね。ていうか本当に魔王が復活して世界がヤバいのか疑問なくらい、青々とした空をしているのですが、本当にここは危険な世界なんですか?

 背後から鋭い声が聞こえてきた。

 

「ようやく見つけたわ」


 それは女の子の声だった。振り返るとそこにいたのは金髪の少女。ぱっちりとした目の美少女だ。胸元や腰回りを深紅の皮鎧と黒い肌着で包みそれ以外はちょっとした装飾のみという中々に露出の激しい恰好をしていて、お腹とか足とかが惜しげもなくさらされている。

 見つけたというセリフから推察するに彼女は女神様が派遣した人物なのだろう。さしずめこの世界のナビゲーターか。美少女を寄越してくれるなんてあの女神様も人がいい。

 

「身に着けている物、全部置いていきなさい。ついでに街までの道のりを教えて下さい」

「……」


 初めて出会った人はまさかの敵でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る