第36話 人間の魔法②
そうしている間に、ヨンさんは立ち直っていた。
ぱんぱんと手を叩いて彼は注目を集める。
『はぁい、じゃあ続きね。魔力操作さえできれば魔法習得は簡単だよ。基本的に杖とスペルロールがあればいい』
『杖?』
『魔法の展開場所を指定するものだよ。無いと魔法が暴走するから必須だけど、まあそれは置いといて魔法の解説からやろうか。人間の魔法は大雑把に3種類あります』
ピッと指を3本立てるヨンさん。
曰く、属性魔法と生活魔法とオリジナル魔法、とのこと。
[は? オリジナル魔法?]
俺が説明をそのまま翻訳すると、アジャはオリジナル魔法という単語にピクリと反応した。何やら引っかかるらしい。
俺はそのままヨンさんに質問した。
『オリジナル魔法ってなんだ?』
『お、そこに着目するとは勘がいいね。オリジナル魔法は簡単に言うと、スペルロール化してない魔法。属性が分からないくらい特殊なのから属性魔法のチャチい改造版までピンキリ』
『ん……? 属性に当てはまらない特殊な魔法とかそういうわけじゃないんだな』
『そう! そうなんだよ!』
ヨンさんがズビシッと興奮気味に俺を指さす。
なんか重要なところだったっぽい。
『ついでに、生活魔法は魔力の少ない人でも使える属性魔法の超簡単バージョンだよ』
『……雑じゃね? 実質全部属性魔法じゃん』
『そうなんだよ。というか、人間と魔法の話するときはこの分類を覚えといた方がスムーズに話ができるから覚えといた方がいいだけで、ハーフエルフの俺に言わせるとこの分類は分類じゃない』
『えっと、よく分からないんだけど……』
『ここ、俺も勉強してて長いことよく分かんなかったところだから難しいよ〜』
ヨンさんがニマニマと笑った。
ターコイズの瞳がゆるりと弓形に細まる。嫌らしいと言うよりはちょっと自慢げな感じの表情だ。多分本気で苦労したんだろうな。
どうでもいいけど、ヨンさんって何歳なんだろう。ハーフとはいえエルフの『長いこと』って本当に長そうだ。
ヨンさんは芝居かかった仕草で説明してくれた。
『そもそも魔法ってさ、根源は同じものなんだよ。魔力を使って世界に干渉する技術なの。まあその干渉方法が色々あるんだけどね』
曰く、魔法は基本的にその干渉方法ごとに種類分けされているらしい。
で、人間の魔法はそれが誰でも使えるようにすごく最適化されているものなのだとか。
『もとはエルフの精霊魔法から発展してるんだけどね。じゃあまずはもととなる精霊魔法の解説からしましょうか。おっほん!』
というわけで、人間の魔法の前に精霊魔法講座が始まった。簡単にまとめると以下の通りだ。
精霊魔法は、主にエルフが使う魔法である。自然に宿る精霊に力を借りて世界に干渉するものだ。
魔力操作はもちろん、精霊にちゃんと指示を出せる呪文を編めること、そもそも精霊と相性が良い必要がある。特別仲が良い精霊がいると、魔法を使う際に魔力をあんまり消費しなかったり、短い呪文で済んだりするケースもある。
精霊には大きく大地・水・風・炎がいると言われている。よって、精霊魔法も大地、水、風、炎の四種類があるらしい。
まあつまり、ファンタジーの典型的なやつだ。
『エルフは精霊が見えるし、基本的に精霊と相性良いんだ。先祖が関係あるんだけど、この話は今はいいや。で、だけど人間は違う』
『だろうな』
ヨンさんの説明に俺は力強く頷いた。
俺、精霊とか見たことないしな。
やはりと言うか、人間はよっぽど才能ないと精霊は見えないし、相性は良くないらしい。そもそも保有魔力量が基本的に少なく、操作にも慣れていない。エルフと全く同じように修行しても精霊魔法を習得できる人は万人に一人もいないそうだ。
そういえば、アジャには精霊が見えているのだろうか? 今まで過ごしていて、魔力が見えるっぽい様子はあるものの、特に見えないものと交信する様子はないのだが。
少し気になったが、今はおいておこう。
『そこで、精霊魔法を人間が誰でも使えるように極限まで色々削って最適化したのが属性魔法さ!』
ババーン! とヨンさんが何故かポーズを決めた。
後ろに黒板があったら、黒板を力強く叩いて『属性魔法』の文字の上に赤チョークで花丸でも描き出さんばかりの勢いである。
『これのすごいところは、魔力操作と呪文を覚えると、致命的な魔力の不足と致命的な精霊との相性の悪ささえなければ基本的に誰でも使えるところ! ただし、効果は相当低くなっているし、全く応用が効かないし、しかもここまでしても使えない人間は多い!』
『ここまでしても使えないハーフエルフもいるしな』
『容赦なく抉るね!? その通りだけど!』
ヨンさんが地団駄を踏んだ。愉快な人だ。
それにしても、なるほどな。
つまりスペルロールっていうのは、呪文と魔力操作を正確に記述したもので、それの通りにできれば自動的に魔法は使えるってわけだ。
ただし、例えば水を出すスペルロールからは、一定の量の水を出す魔法しか学べない。水の量の調整も、応用して氷を出すとかも出来ない。
そして、魔力不足だったり相性が悪いと不発になる。魔力量も相性も一朝一夕で変わるものでもないだろうし、だったらざっくりと『不発だったら才能がない』という判断でもまあ問題ないのだろう。
俺は頷いた。
『まあなんとなく分かった。要するに、「アプリ」なんだな』
『「アプリ」?』
インストールしたら自由に使えるけど、仕組みは分からないしアプリの機能以上の使い方はできない。そして、インストール要件がめちゃめちゃシビアなんだろう。
クソアプリである。
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