第24話 部屋と着替え
『ここっス』
カーニャに案内されたのは、狭いものの二人で過ごすには十分な広さの部屋だった。
長らく使われていないのか家具の類が最低限しかないが、きちんと掃除はされているのか結構綺麗だ。まあ現代日本と比べると、ベッドのシーツの肌触りとか衛生面の質は落ちるけど、寝泊りする上で申し分はない。
カーニャはすぐに服と桶いっぱいの水と布を持ってきてくれた。
『はい。この水と布で体を拭くっス。服はこっち。ギルドの古着でサイズピッタリのはないっスけど、近そうなのを持ってきたっス。何着か渡しておくっスね。貸し出しか買い取りかはサイラスさんと話してください』
『ありがとう、水とか重かっただろ』
『このくらい出来ないと! 今はギルドの下働きっスけど、私だって未来の冒険者っスよ!』
カーニャがふんっと力こぶを見せるポーズをする。
尚、特に力こぶは出来ていない。まあカーニャは幼いし女の子だから、筋肉も付きにくいだろう。
ところで、ギルドってなんだろう。
なんとなく、ファンタジー小説で定番の冒険者の集団なんだろうということは察しがつくのだが、詳しい制度などが分からない。
カーニャの話から推測するに、小さな子を保護して冒険者になることを支援してくれる仕組みがありそうなのは分かるのだが。
古着などを融通してくれるところからも、身寄りのない人を保護し慣れている感じがする。ボランティア団体みたいだな。
『私は部屋の外にいるっス。着替え終わったら呼んでください』
『はーい』
カーニャはそう言ってあっさりと外に出た。
俺はさて、とアジャを見下ろす。
[じゃあ、体を拭いて着替えるか]
[体を拭く? なんで?]
[不潔だから。病気になるだろ]
[病気? 衰弱死するってこと? 汚れくらいでそんなのならないと思うけど……]
[人間はなるんです]
[貧弱……]
[はいはい]
そんな話をしながら俺は自分の服を脱ぎにかかった。アジャも俺に習って俺が貸したジャケットを落とし、ボロボロのワンピースの襟を掴んで引っこ抜いた。
わさっと砂が落ちるのが目に見えて、俺は自分たちが如何に汚れていたかを思い知る。
よくこんな格好の奴を食堂に入れてくれたなと思うくらいの汚れぶりだ。思い返せば料理人さんに一瞬嫌な顔をされたような気もする。あとで謝っておこう。
俺はため息をついた。
ふわっと砂が舞ってちょっとげんなりだ。
[すっご……こんなんで四日も過ごしてたのか]
[……言っとくけど、俺は服がボロボロなだけで、汚れ自体はハチの方がすごいから]
[あー、まあそうかも。最初の神鳴りの爆風が決定的だったな]
[んぐ、]
俺の言葉にアジャがキュッと口を噤む。
別に嫌味のつもりではないが、俺が砂だらけになった原因はアレが一番だ。
今思い返してもアレに行き合ってよく生きていたなと思う。災害大国日本にいた俺ですらアレはヤバいと思ったもん。俺が今まで経験した地震よりも台風よりもヤバかった。
[というか、そういえばお前あの後洗濯魔法みたいなの使ってなかった? 俺の上着貸したとき]
[別に、水出しただけだよ]
[体洗えたりしないの?]
[するよ。というか、拭くってそういう……水出す方が早いのに]
アジャがそう言って、ふんふんと呪文みたいなものを唱える。
途端に俺の頭の上からじゅわじゅわと水が降ってきた。
量はシャワーみたいな感じでちょうどいいが、結構冷たい。ここは気候が暖かめだから拭けば問題ないが、寒い場所ではキツそうだ。
不思議なのが、水は俺の体を洗い流して足元まで落ちると解けるように消えていくことだった。
しばらく継続的に水が頭に降ったあと、やがて水は徐々に量を減らす。全ての水がなくなる頃には、体を拭く必要がないほど綺麗になっていたし、乾かしてないのに水も無くなっていた。
[おー便利ー]
[でしょ]
ドヤっとアジャが得意げな顔をする。
アジャは魔法に自信があるのか、魔法について褒められるのがなかなか好きみたいだ。
それに実際かなり高度なことをやっているっぽい。風を遮る結界もそうだし、洗濯魔法っぽいものも、仕組みが分からないからな。
「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」とかよく言うが、つまり魔法は十分に発達した科学技術並みのことをやっているのである。
そう考えるとなかなか凄い。
アジャはまたふんふんと魔法を使って自分も綺麗にすると、カーニャに渡された服に手を伸ばした。パサリと広げると、それはシンプルなワンピースだった。
[……これ、着るの?]
[まあそうだな]
頷く。
アジャは結構尻尾が大きいので、ズボンを履こうとすると多分大変だ。ワンピースはそういう意味では大正解なのだが、もしかしたらアジャの性別が誤解されているかもしれない。見た目だけならアジャはストレートの金髪も可愛らしい顔も相まって女の子みたいだから。
あとでカーニャに確認しておこう。
俺は内心で頷いた。
さておき、俺に用意された服を見ると、こちらはシンプルなシャツとパンツだった。
サイズはちょうどいいが、肌触りがやはり現代の服と比べると結構落ちる。まあ贅沢は言っていられないのでそのまま着よう。
アジャも横でモソモソと着替え出した。
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