6-5


 アズキばあちゃんは、とかい島の国王のうったえを聞いて「やれやれ」とあきれてしまった。


「つまり国王は、コマリが結婚することが、幸せヲイモカだと思っているんだな?」

「ソウデス」

「……結婚する相手は誰なんだい?」


 コマリは、すごく嫌そうな顔している。

 きっと、この話はされたくないんだ。


「ちょっと、この話は止め……」

「頭ヨイ、背もタカイ、カッコいい、王子、デス」


 僕が止める前に、ハヤテが答えちゃった。


 でも、頭が良くて、背が高くて、カッコいい王子様!?

 要は、ハヤテみたいな猫がお相手なの?

 お外の島にはかっこいい猫がいっぱい居るんだにゃあ。

 こっちの島は個性豊こせいゆたかな猫しか居ないのに。


「そんな立派な王子様と結婚するのが、嫌なのかい? コマリちゃんは不思議な子だねぇ」


 その個性豊か代表のタマジロー先輩が、嫌味いやみじゃなく、本当に不思議そうにぼやいた。


「俺だったら、喜んで財産ざいさんと……じゃなかった、王子と結婚するのに」

「本官もジグソーパズルを買って貰えるなら、喜んで結婚するでアリマス!」


 ソックスとネギも同じ事を言う。


 しかし、ハヤテは「チガイ、マス」と答え、言葉をまらせた。どう説明したらいいか迷っている様だ。

 言葉の壁って難しい。こういう時、上手く説明出来ないんだもの。かくいう僕だって、とかい語はさっぱりだ。


 すると、アズキばあちゃんが、ハヤテにとかい語で言った。


ネへアヌ゛ヅとかい語でアソツフゑ、言ってみろ


 ハヤテはとかい語を喋るアズキばあちゃんに驚く事もなく、説明を始めた。

 そして、アズキばあちゃんは頷き「分かった」とこちらを向いた。


「コマリの結婚する王子は、「プラスチック」や「燃料ねんりょうで走る乗り物」を発明はつめいした国の王子なんだそうだ」


「へえ! プラスチックって、とかい島で発明したんじゃないんだ!!」


 プラスチックに一番興味いちばんきょうみあるソックスが声を上げる。


「そう、とかい島の西にある「きかい島」で発明されたそうだ。お前は分かるだろう? プラスチックって軽くて便利なアイテムだ。最初はとかい島の猫達もきかい島から大量に仕入れて使っていたらしい。けれど、それだけでは足りなくなってきて、とかい島に工場を建設し、そこでペットボトルや乗り物を作り始めたらしいのだ」


「とても良い話デスネ!」


「しかしな。大きな問題も起きた。作る事で生まれた汚水おすいが川に流されて水は汚れ、ゴミが大幅おおはばに増えた事でとかい島のごみ処理場しょりじょう処理しょりしきれなくなって、まっていくゴミから大量の毒ガスが出るようになり、とかい島のたくさんの猫達が病気になったそうだ」


 それを聞いて、以前にハヤテがとかい島は汚染おせんが進んでいるって言っていた話を思い出した。


「そこで、重要になったのが、コマリの存在だ」

「にゃ、にゃんで?」

「マメ、お前はころころマーケットで見ただろう? コマリの空気の浄化じょうかの力を」


「!!」


 思い出した。コマリがころころマーケットで踊った時、空気がとっても綺麗になったんだ。体も軽くなって……。


「とかい島でも、王家の女性にだけ伝わる力らしい。汚染おせんが進んだ国で、コマリの踊りは島の猫を守る重要な役割だった。それを知ったきかい島の猫達もコマリを欲しがった。なにせ、きかい島も汚染おせんが進んでいたからな」


「でも、コマリちゃんがきかい島の王子と結婚したら、とかい島の汚染おせんはどうなるのさ?」


 とタマジロー先輩が尋ねた。


「コマリは二つの島を毎日行ったり来たりして、たくさん働かせる約束だったらしい」

「……ひどい!」


 思わず言葉が出てしまった。

 なんて、ひどい事をコマリにさせようとするのだろうか。


「でも、コマリは迷っている」


 みんな、アズキばあちゃんの言葉に驚いた。迷っている?? なんで??


「コマリは自分にだけしか出来ない仕事から逃げて来た。そして自分が居なくなった事で、たくさんの猫が困っている事を知っているから……」


 僕らはコマリを見た。

 今にも泣きそうな顔で、俯いている。

 お仕事は嫌だけど、残された猫の事を思うと苦しいのだろう。



 ……僕は。


 お仕事は好き? って聞かれたら、好き!! って答える。


 そりゃあね、ミケランジェロさんには毎日怒られるし、島中を駆け回ってへとへとだし、毎日発行しないといけないから、お休みも少ない。


 でもでも、それ以上に僕の記事を読んでくれた猫の反応とか、出来上がった新聞を眺めている時の達成感たっせいかんが好きなのだ。


 好きってすごいんだよ。

 どんなに大変でも、怒られても、次はがんばろー! ってなる。


 ぎゃくに嫌いはどんなに頑張がんばってもダメ。

 やればやるほどイヤイヤ貯金が増えてもっと嫌になる。


 だから、僕はコマリにも「好き」をお仕事にして欲しい。


 僕ははてな島の呑気のんきな猫。むずかしいのは嫌い。

 シンプルが一番だ。



「コマリ!」


 僕はコマリの両手を握ると、涙をめていた青い目が僕を見上げた。


「コマリ、僕と一緒に新聞を作ろ?」


「……!」


「コマリ、はてな島、ずーっと、一緒に、新聞を作ろ!」


 言葉が通じる様に、すごくゆっくりと言ったつもり。

 分かるかな。

 コマリの青い目に、不安げに髭を垂らした僕が映っている。

 すると、コマリはごしごしと涙をぬぐって、言ったのだ。


「コマリ、ズト、シンブン、ツクル、タイヨ……!」


「にゃ」


「コマリ、はてな島、ヲイモカ、ヨ! マメ……アイガト!!」


 僕はうんうん、と大きく頷いた。

 それから、みんなを見渡して、言った。


「――国王様には、納得なっとくして帰って貰おう。コマリは、これからも、ずーっと、はてな島で暮らす猫にゃ!」


 僕が決意けついすると、全員が大きく頷いた。


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