2-2



「――あにゃ?」


 思わず声がれた。

 幼馴染おさななじみの丸太小屋まるたごや辿たどり着けば、知らぬ間に増設ぞうせつされた部分があったからだ。


 丸太小屋の真横に、小さな小屋が出来ていた。


 ――なんだかいやな予感がする。


 僕はその予感を確かめるため、増設された小屋へと足を進めた。

 深緑ふかみどりの魚釣り用のあみが張られ、木材で枠組わくぐみが作られたちっちゃな小屋。


 のぞくと――コケコケと鳴きながらわらかれた小屋の中を歩くにわとりが居て――。


「……あっにゃあ……」


「――おい、人ん鶏小屋にわとりごやのぞいて、何をしているんだ?!」


 いつの間にか丸太小屋の入口に立っていたのは、この家のあるじであり、僕の幼馴染みの垂れ目のソックス。

 名前の通り全身が黒毛なのに、手足の先っちょだけ靴下くつしたの様に真っ白な猫。

 はてな島で『変わり者のソックス』と言えば有名だ。


「なんだよ、欲しくてもやらねーぞ。俺の卵かけご飯」


 鶏小屋にわとりごやを見て脱力だつりょくする僕を、卵泥棒たまごどろぼうとでも思ったのだろうか。


 泥棒どろぼうはどっちだと言うのか。


「ソックス。この子はアズキばあちゃんの鶏……」

「鶏にアズキなんて名前は書いてなかったぞ。だから、俺の卵焼きだ」


 確かにその通りだけどさ。

 こりゃあ、話が面倒めんどうになってきたぞ。


「ところで、マメ、何しに来たの?」

「ああ、明日ね『ころころマーケット』があるから、教えてあげようと思って」

「え!」


 本日出来上がった新聞を手渡すと、ソックスの垂れた黒目がキラキラとかがやいた。


『ころころマーケット』とは。

 僕たちの北側はとかい島だけど、それ以外の三方位さんほういは海で囲まれている。その海はとっても綺麗きれいなんだけど、時々、とかい島の方から変な物が流れてくる。

 うすくてかたい板とか、透明とうめいのやわらかいつつとか。


 共通きょうつうして、みんな軽くて丈夫じょうぶ


 海岸線のごみ拾いボランティアが、ある程度謎ていどなぞの物がまるとマーケットを開く。

 みんなは、はてな島では見たことない物体をめずらしがって買いに来るんだ。


 ――え? 使い道??


 みんな家の中に飾り物として並べたり、束ねてオブジェを作ったり、小さい物は頭にかぶったり、ブローチやイヤリングなどのアクセサリーにしたり、用途ようとは様々。

 特に「透明の筒」が人気で、先端が細いものの、水がめるから綺麗にして、花瓶かびんに使う猫が続出している。木材やびんと違って、軽い所が良いのだ。

 僕たちの島の容器と言ったら、木材か瓶だからね。


 で、ソックスは自称じしょう発明家はつめいか

 その謎の物体を使っては、色々と発明品を作っているのだ。

 はてな新聞堂に贈呈ぞうていされたカラクリ時計も、パキパキの箱と透明の筒などを使って作った物だ。

 この前は、透明の筒をなみだの様な形に切って、それに竹串たけぐしを付けて、空飛ぶおもちゃを作っていた。子供には大好評だいこうひょうだった。

 いつか自分も乗れる様な空飛ぶ乗り物を作って、壁を越えるのが発明家ソックスの夢なんだそう。


 だから、夢の道具の手に入る『ころころマーケット』は、ソックスにとって宝の山なのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る