2-3



 ソックスが新聞を読んでいる間、僕は鶏小屋をのぞいて、ある事に気が付いた。


「……あれぇ?」

「どうかした?」

「ソックス、鶏は1羽だけ?」

「1羽いれば、毎日一個の卵が食べられるのだ」


 アズキばあちゃんの鶏は居なくなった。


 ……という事は、あと1羽はまだ行方不明ゆくえふめいなのだ。


 それをソックスに教えると、目をランランとさせて「明日は両目の目玉焼きが食べられる!」と、もう1羽も捕まえる気まんまんに、いつも着ているこん作務衣さむえそでをまくる。

 僕はあきれたが、1羽がここの近くで見つかったって事は、もう1羽も近くに居る可能性かのうせいが高い。


 はてな新聞堂に戻る前に、ソックスの家の周りを探す事にした。

 ……目的は違えど、一緒に探してくれるソックスと共に。



 (ΦωΦ;)&(ΦωΦ)☆!



「こっこっこ! こけこけ! こけこけ! こけこっこー!! こけー!! こーけーこっこー!!」


 ――勘違かんちがいしないで欲しい。


 みんなの耳には鶏の鳴き声が聞こえているだろうが、まだ鶏は見つかっていない。


 この鳴き声の出どころはソックスだ。

 前傾姿勢ぜんけいしせいで、両手を後ろに、鶏の鳴き声をマネしながら壁の周りを歩いているのだ。

 ……誰も見ていないけれど、でも、距離を置いて歩いた。恥ずかしいんだもん。


 ――それから。


 長いこと周りを探したが、鶏は見つからなかった。もっと壁沿かべぞいの雑木林ぞうきばやしおくに行ってしまったのだろうか。


「…………居ないにゃあ。まあ、卵は一個でもお腹いっぱいになれるから、オリャ帰るぞ」


 ニャン! と急に鶏から猫に戻ったソックス。スタスタと丸太小屋の方へと歩き出した。


「マメも、もう仕事に戻るんだろ?」

「う、うん……」

「どうしたんだ? 何か気になる事でもあるの?」

「もう少し奥まで行けば、居そうな気がするから、僕はもうちょっと探そっかなって……」

「……お前はいっつも、そうだよな」

「にゃ?」

「おねこよしと言うか……自分が依頼いらいを受けて記事を書いたから、鶏探しが自分の仕事と勘違いしている」


「にゃ? 違うの?」


 ソックスがおどろいた顔で、言葉を失っている。僕は何が違うのか、聞き返そうとした時、急に視界がフッと薄暗うすぐらくなった。


 そして真っ暗になる。

 同時に悲鳴が聞こえた。


「きゃあああああああああああああ!!」「――――にゃ?」


 甲高かんだい声が頭上からしたので、見上げた瞬間しゅんかん、真っ白な布に包まれた肉団子にくだんごが、僕に直撃ちょくげきした。


「ふごお!!?」


「きゃああ!!」


「マメ!」


「✕✕✕!!」


 肉団子がぶつかって、地面に後頭部を強く打った僕は、その場に大の字に伸びた。


 ――僕の視界はグラグラと揺れて、ぼんやりしている中、乗っかる肉団子から見えたのは、綺麗な深い青だった。


 深い海色の目に、光で金色にも見える真っ白な体毛を持つ、見た事ない女の子猫。


 僕を心配そうに見つめている。


「✕✕✕! ✕✕✕✕!?」


 女の子猫が、何か言っている。


 しかし、僕の意識はとおのいて、聞き取れない。意識が消える寸前すんぜんに、キュウ☆ニクニクさんの声が、頭ん中に響いた。


「【女難じょなんの相】が出ている。【落下物に注意】!」



 ……なるほど。ニクニクさん……。


 ……これの事、なんですかぁ……?




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