2-10


 じりじりと僕との距離きょりせばめてくる兵隊さん。


 距離が一歩一歩近づくたびに、僕の全身からぶわっとたまあせき出した。


「にゃ、にゃ……」


 ど、どうしよう。

 頭をフル回転して、この危機ききから脱出だっしゅつする方法を考えていた時、僕の優秀ゆうしゅう視力しりょくが、兵隊さんの後ろにいる物体を発見してしまったのだ。


 それはトサカが赤くて短い、体毛が白く、くちばしが黄色い物体で。


「に、に、に、にわにわにわ、にわとり!?」


 そう、それはアズキばあちゃん家の、もう1羽のにわとりだったのだ!


 コッコッコと、大ピンチの僕とはに、のんびり教会の牧草ぼくそうをついばんでいる。


 さっき、ミケランジェロさんに鶏を探すのば僕の仕事じゃない、と言われたばっかりだが、鶏の方から僕の目の前に現れたのなら、話は別だ。

 捕まえなければ!!


 すると、僕の思考回路しこうかいろが、もっと大変になった。 

 このピンチから脱出する事と同時進行で、鶏を捕まえる事まで考えなくちゃいけなくなった。


 そんな二つのことを同時に考える事マルチタスク、したことが無い僕の頭ン中。


 考え過ぎて、グルグル、ガタガタ、ゴトンゴトン、ギコギコと、もはや頭ン中から出る音では無い音がしていた。

 こわれた頭ン中は、二つのキーワードをり返す。


 にわとり兵隊へいたいにわとり兵隊へいたい、にわとり、へいたい、にわとり、へいたい、にわにわ、へいへい……にわたい、とりたい……。


 …………とりたい?


 ピンポン♪ と頭ン中に、正解音せいかいおんが鳴った。


 取りたい。

 そうだ、僕は、鶏を取りたいんだ!!


 そのためには、この邪魔じゃま障害物へいたいさん退しりぞけなくてはならなくて。

 しかも牧草がきたのか、クルリとおしりを向けて去ろうとする鶏。


 考えているひまは無い。

 僕は捨て身で行く事にした。


「僕は、鶏が、取りたいんじゃあー!!」


 目をギラリと光らせて、鶏めがけてスライディングしたのと、兵隊さん達が僕を捕まえようとかったタイミングが同時だった。


 兵隊さんのたくさんの手を上手うまくすり抜けた僕は、鶏を見事捕まえ、その後ろでは、三匹の兵隊さんが器用きようにお互いの頭をぶつけて、その場にへなへなとたおれた。



「…………にゃ?」



 鶏を抱きしめて、けば、三匹の兵隊さんが気絶きぜつしている。



「…………にゃっ!!」



 僕は小さくガッツポーズした。


  

 ♪(ΦωΦ)v&(•ө•)v



「――これで、良しっと!」


 勝手に自爆じばくした三匹の兵隊さんは、正気しょうきに戻ってけつけたソックスと、町のおまわりさんの協力の元、それぞれの手と足をロープでしばり付けた。


「マメ、お手柄てがらでありマス!」


 縛られた三匹の兵隊さんの前で、黒い制服を着てビシッと敬礼けいれいするのは、はてな島のおまわりさん・シロネギだ。

 僕とソックスの学生時代の同級生でもある。

 去年まではネギのお父さんがお巡りさんだったけれど、引退いんたいして、今はネギがあといでいる。すごく真面目まじめな猫だから、すごくお巡りさんに向いていると思う。


「この兵隊さんはどうしたらいい?」とみんなに相談そうだんする僕。

「本当なら、とかい島に返したいけれど方法が無いよなぁ」とソックス。

「でも、来たからには、自分で帰ってもらえば良いのデハ?」とネギ。


 僕らは顔を見合わせる。


「そりゃあそうだ。でもさ、きっとコマリ達を見つけるまで、帰るつもりないよ」と僕。

「いっその事、こいつらの記憶きおくを無くしてしまえば良いんじゃないか?」とソックス。

「では、彼らの記憶がぶっ飛ぶくらい、楽しい事をさせてあげるのはどうでしょうカ?」とネギ。


 ふたたび、顔を見合わせる僕ら。


「……例えばお誕生日会とか?」と僕。

「兵隊の誕生日を知らないだろうが。こういう時は、かくげいや、フルーツバスケットをするお楽しみ会だよな」とソックス。

本官ほんかんはチョコチップクッキーを食べながら、ジグソーパズルをするのが好きでありマス!」とネギ。


 楽しい事を考えて、楽しくなってくる僕ら。


 ――しかし、僕らが楽しくなっても、しょうがないのだ。

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