2-9


 ふたたび、原っぱへとおもむく僕ら。

 はてな島の猫達は、やって来た僕らを見て……なんだかとても珍妙ちんみょうな物でも見ている様な表情を浮かべていた。


 ……おかしいにゃあ……。

 変なのは、とかい島の猫の方なのに……。

 

 僕はその予想外よそうがい反応はんのうに、ちょっとオドオドしながらも、はてな島の猫達を押しのけて先頭へと進み、兵隊さん達の前へと立った。


 僕達は武器ぶきを持っている。

 ヘルメットもしているから、上から降って来る猫パンチも痛くない……はず。


 しかし、何だろう。

 このき出てくる不安な気持ち……。


 それはきっと、相手が武器を持って現れた僕達に、こわがったりふるえたりしていないからで……。


 ちょっとづく僕とはんして、ソックスは自信満々じしんまんまんに胸をって仁王立におうだちするから、僕もとりあえず真似まねして仁王立ちした。


 そして勇敢ゆうかんなソックスは、兵隊さんに怒鳴どなった。


「出てけ! はてな島には、お前らが探している猫なんて居ないぞ!」

「そ、そうだ、居ないぞ!」


 僕も、そう叫ばなければいけない気がして真似まねした。



 ……でも……。




      ……本当は。




                         怖いにゃ~!!



 兵隊さん達、僕たちよりも頭一個分大きいし、筋肉もムキムキなんだもの!

 

 ヒソヒソと、コマリ達と同じような言葉をおしゃべりしながら、ギラギラした青い目だけは僕とソックスをずーっとにらみつけている。


 ……怖いにゃ~!!!!


 やっぱりヘルメットをしていても、痛いかも。

 なんて、耳をビクビク、尻尾しっぽをプルプルさせていたら、隣で胸を張っていたソックスが忽然こつぜんと消えていた。


「……にゃに!?」


 ……と思ったら!

 兵隊さんに首根くびねっこ持たれて、ちゅうに浮いていた。


「ソックス!!」


 まだ何もされていないのに、気絶きぜつして白目しろめを向くソックス。周りの猫もソックスが捕まった事に動揺どうようし始めた。


「✕✕✕! ✕✕✕✕ー!!」


 兵隊さんはさっきよりも大声で、とかい島の言葉を叫んだ。

 きっと、これはコマリ達に聞こえる様に言っているのだろう。



 ……あれ? という事は。


 ……はっ!!


 気がついちゃった。

 気がついちゃった。

 気がついちゃったよー!


 ソックスが戦闘不能せんとうふのうの今。

 もしかして、僕一匹で兵隊さんとたたかわなきゃいけないのー?!


 状況じょうきょう自覚じかくすると、急に足が高速こうそくでガタガタガタとふるえ始めた。

 無理むりだ。

 そもそも、三対一なんだ。無理に決まっている。


 ああ、ニクニクさん。

 これがコマリと出会った【女難の相】の続きならば、どうすれば解決かいけつするのかまで教えて欲しかった。


 そんな事を考えていると、兵隊さんの手がニュッと僕の方へ伸びて来た。


 にゃあああああ!!


 僕はすんででけて、咄嗟とっさにロケットを差し出した。

 思わぬアイテムが現れて、伸びて来た手が止まる兵隊さん。

 それから無我夢中むがむちゅうで、ロケットを地面にセットし、注射器ちゅうしゃきでシュコシュコと空気を入れた。「きゃっしゃあああああ!!」という奇声きせい威嚇いかくしながら。


 次の瞬間しゅんかん


 シュパーーーー!! とロケットが飛び出した。


 野次馬やじうまから「うわわあ!!」「きゃああ!!」と悲鳴が上がる。


 ロケットは先頭に立つ兵隊さんの顔のきわをギリギリを飛んで、それから木にぶつかって、ストンと落っこちた。


 ……外れた。

 兵隊さんにはかすりもしなかった……と思いきや。 


 先頭に立つ兵隊さんの、見事な太い猫髭ねこひげがへにょん、と折れた。


「!」

「!!」


 それを見た仲間の兵隊さんが、とてもびっくりしている。

 そして、猫髭ねこひげが折れた兵隊さんは目をパチパチとさせた後、自分の髭を触った。


 自分のひげが折れた兵隊さん。

 みるみると顔が赤くなっている。

 そして、頭のてっぺんから湯気ゆげが出るんじゃないかってくらい、顔が赤くなると、僕に怒鳴った。


「✕✕✕✕✕ーー!!!!」

「ひえええ!!」


 僕は思わず逃げ出した。

 追ってくる三匹の兵隊さん。


 僕は走って、走って、とにかく、走った。


 町の地理を知っている分、民家の隙間すきまや、しげみの抜け道を乗り越えて、近道していく。

 足の速さにも自信があったから、どんどんと兵隊さんとの距離を離した。



 (ΦωΦ)))))===3



 ――やがて逃げ回った僕は、町の外れの古い教会にたどり着いた。


 兵隊さんの姿も見えなくなり、僕は教会の壁に手をつきながらもハアハアとあら息継いきつぎをしながら、疲れた足を休めた。


 ここまで来れば、一安心。


 ――そう思った時、三つの影が僕をおおった。おそおそる振り向くと、僕の尻尾しっぽはピーンとなった。


 へ、兵隊さんにゃあああーー?!

 なんでここにーー!?


 逃げ出そうとする僕を、兵隊さん達は素早すばやく取りかこんだ。

 ひげを折られた兵隊さんは、ポキポキと手の関節かんせつを鳴らす。


「ひえええ!!」


 僕の全身の毛は逆立さかだつ。


 絶体絶命ぜったいぜつめい

 四面楚歌しめんそか

 孤立無援こりつむえん

 焼肉定食やきにくていしょく!……じゃなかった、

 

 弱肉強食じゃくにくきょうしょく!!


 このままじゃあ、僕が明日の新聞の一面をかざっちゃう!


優秀ゆうしゅうな新聞記者ソラマメ、とかい島の兵隊さんに負けちゃった!』ってね!!

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