書きたかった2-3

「あっ、すみません!」


 私……白山椿はいつものようにレジ打ちや商品の詰め方でミスを多発してしまいました。


「いえ、誰でもミスはするものです。それにしても、この仕事はあまり貴女にあっていないような気もしますが……」


「……はい。でも、そんなこと百も承知です。でも、生きていくにはお金がいりますので」


「……それも、そうですね」


 その日はその後いつものように社員さんや店長に怒られて、山茶花と慰め合いながら帰りました。


 数日後、またメラレウカさんが来ました。メイド服という目立った服装や会話の内容で印象的だったのですぐにわかりました。


「おや、おはようございます。お久しぶりですね」


「お久しぶりです。私のこと覚えているなら別のところに並べばいいと思いますけど……」


「私は別に誰でも良いですので。急いでいるわけでもありませんし、混んでもいませんし」


 私は驚きました。私がミスをしてしまったお客さんは怒った方も許してくれた方も覚えている方だけでも誰も二回目は来ませんでした。


「……変わったお客様ですね」


「ふふ、育ててくださった方が変わっていたからかもしれませんね。」


 笑った顔はまるで人形でした。今でも鮮明に覚えています。


 よく表現として聞きますが、確かにそうとしか例えられない美しさでした。


「では、またいつか会いましょう」


「……ありがとうございましたー」




「……っていうお客さんがいたんだー」


「ほぅ?美人さんとな……。気になるのぅ」


 山茶花さざんかは私よりも仕事が上手だったので(それでも人並みではないと私も山茶花も思っていますが)、いつも私の仕事の話を聞いてもらっていました。


「でも、メイドさんかぁ……。ここらへんじゃああのブラックライのお嬢様が住んでるお屋敷ぐらいしか候補が無さそうじゃけど……」


「お嬢様もスーパーで買った使うのか……」


「さぁ?あくまで私の予想じゃし、当てにせんどいてくれ。コスプレの可能性とかもあるからの!」


「そだね。あ、そういえば……」


 いつものように、他愛もない話をして、床につきました。初めてお客さんが2回並んでくれた嬉しさか、それとも仕事疲れのせいかはわかりませんが、その日はよく眠れました。


 そして、次の日


「あ、君来月から来なくていいよ」


「…はい」


 見事にクビになりました。


 山茶花はまだクビにはなってなさそうでしたが、山茶花のことです。私のことが心配で次の職場が決まったらついてくるはずです。


「さて、今月も残り三日……せめて頑張らないと」


 その三日間はいつもと変わらない、なんてことない日々でした。


 働いて、ミスをして、怒られて、山茶花と一緒に帰って、仕事の話をして、一緒に寝て……。


 そして、最終日になりました。


「いらっしゃいませー……って、メイドさんじゃないですか」


「はい、メイドさんです。……少し元気がありませんね。もう怒られましたか?できるだけ早めに来たつもりでしたが……」


「いえ、今月いっぱいで辞めることになりまして」


「なるほど……次の職場などはもう決まってますか?」


「いえ、それがまだで……」


 そして、メラレウカさんはあのときの笑顔とはまた別の笑顔……いたずらっ子のような笑みを浮かべて、提案してきました。


「なら、うちのところで門番やりませんか?」



――――――――――――――――――――――

次回へ続く

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