書きたかった7(了)

「まず、僵尸キョウシについて説明だな。僵尸……日本人からはキョンシーと呼ばれてるんだっけ?」


「キョンシー……それなら知ってます!手を前に出してぴょんぴょん跳ねてる死体ですね!……あれ?でも朱宮あけみや様は……」


「あぁ。私も最初はそうだった。というか、そこより私が人間じゃないところにびっくりしろよ」


「すみません。化け狸とかの存在を知ったあとでは……」


「そういうもんか……?話が逸れたな。


 で、最初は私も僵尸……キョンシーみたいに筋肉が硬直してたんだ。そのせいで脳とかも色々あったっぽくて、生前について何も覚えてない」


「じゃあその名前は……」


「もちろん、キョンシーになったあとに付けられた名前だ。朱宮は私のかつての主人の家名。で、天涯てんがいはそいつがつけてくれた名前だ」


「かつて、ということは今はもう……」


「気にせんでいい。もう数百年前の話だ」


「数ひゃ……何歳なんですか、朱宮様は……」


 私はニヤリと笑う。それに怖気づいたのか、それ以上聞いてこなかった。


「話を戻すが、キョンシーは時間が経てば普通に動けるようになるんだ。そりゃ、筋肉を使ってたら硬直も和らぐよな」


「へぇ……勉強になります」


「どこでその知識使うんだよ……。

 あ、そういえば他にもキョンシーは自分の姿が映る鏡が苦手でな。蘇った最初の頃並に筋肉が硬直するんだ。


 あと、視力が低い。目の周りの筋肉も硬直してるからな。今はだいぶ戻ったが、今もローズの顔がぼやけて視える


 そして、死体だからもちろん腐った匂いがする。私は香水を飲んで誤魔化してるけどな」


「眼が悪いのに鏡見たら固まる……死体の匂い……。


 ……香水を飲む!?」


「体には何も悪い影響無いから、大丈夫だぞ」


「そ、そうなんですね。なるほど、キョンシーって面白いです。……ってことは、鼻が良いのもキョンシー特有の……」


「いや、それは私の鼻が普通に良いだけだ」


「あっ、はい」


「……ま、こんぐらいかな。さっさと風呂行くぞ」


「はいっ!」


 このあと、鏡を見てまた固まったのは言うまでもない。


 あ、みんな肌キレイだったぞ。羨ましいだろう。



 21:15

「おぉ!美味そうだ」

 私は並べられてる豪華な料理に感嘆の声を漏らす。


白熊木はぐまきさんの料理はホントに美味しいんだよ?もう食べたらこれ無しじゃ生きてけないぐらい……」


「ひまわりちゃん、そこまで褒めなくても……まぁ、嬉しいけどさ」


 白熊木は恥ずかしがりながら、嬉しそうに頬をく。そして、誤魔化すかのように食事を促す。


「ほら、みんな揃ったし食べよう」


「ここは使用人も一緒に食べるんだな」


 ローズは誇らしげに、嬉しそうに、自信満々に、そして子供のように笑みを浮かべ、高らかに言う。


「みんな、私の大事な家族なのでっ!」


「……そうか」


 それは、かつての主人を思い出させる笑みだった。しかし、はもういない。


 次の日の朝、私は帰った。ネモフィラは元気にやっていけそうだ。


 この話もここで終わり。これ以上は何もない。


 最後に、カッコつけてみるか。





「私は朱宮天蓋。


 数百年前にキョンシーになった、


 天涯孤独の―――――探偵だ」

 

 ――――――――――――――――――――――

 終

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