第12話 クリスマス・イヴの葛藤
12月24日、クリスマス・イヴ。
一年で最も一人で街を歩きづらい日と言っても過言ではなかろう。
いつからこの日は、カップルのための日になったのか。リア充爆発しろ――とまでは思わないが、多少自重してほしいとは思う。
……いや、最近は俺も他人のことをどうこう言える立場ではないのかもしれない。
穂積と出かけた、栗花落への誕生日プレゼント探し。
栗花落と出かけ、穂積をお姫様抱っこすることになった夏祭り。
他にも何だかんだで休日に彼女たちと出かけることは何度かあった。
もちろん、彼女たちとは友人以上の関係にはないが(彼女たちから友人と思われているかすらやや不安だ)、少なくとも傍目にはそうは見えないらしい。クラスの悪友からは「栗花落さんと風紀委員の後輩、どっちが本命なんだ?」などとからかわれる始末だ。
彼女たちは、どう思っているのだろう。
彼女たちの口から時折こぼれる言葉の断片に、答えがあるような気はしている。
しかし、俺にはそれを上手く繋ぎ合わせることができない。
イースターにあやかって栗花落が仕掛けてきた宝探しの最後、彼女が俺に投げかけた謎――彼女が宝探しを仕掛けた目的――も結局解けていない。その日彼女が俺に見つけさせた、幼稚園児の頃に俺が書いた彼女宛の手紙の返事も思い出せないままだ。
「だいすき、か」
幼稚園児の俺が彼女に宛てた手紙。
あの頃は、何も考えずそんなことを言えた。
けれど、今や栗花落は、俺にとって眩しいくらいの存在だ。美人でカリスマ性があって、何事も涼しい顔でやり遂げる。そんな彼女に臆面もなく、好きだと言えるわけがない。
……待て。
なぜ、俺が彼女に好きだと言うんだ?
あれはあくまで幼稚園時代の話だし、そもそも「好き」の意味合いも違う。
恋愛感情なんて――
――じゃあ、大きくなったら玲夜をお嫁さんにしてくれる?
「……!」
唐突に、思い出した。
彼女の返事、そしてその後にした指切り。
もちろん、彼女だって当時は幼稚園児だ。いかに聡明な彼女とはいえ、その意味を理解していたとは言い難い。所詮子どもの頃の約束で、彼女にとっても思い出の一部でしかないだろう。
だが、だったらなぜ、栗花落はイースターでわざわざ手紙のことを思い出させたんだ?
思い出は思い出のままでいいじゃないか。今更掘り起こしたところで、恥ずかしいだけだろうに。
……。
彼女にとっては、ただの思い出じゃないのか?
約束は過去の物じゃなく、現在進行形だったとしたら?
ありえない可能性だと思っていたけれど――
栗花落は、俺のことが好き、なのか……?
まさか。
そんなご都合主義があるわけがない。
浮かれるな。
自惚れるな。
彼女は、俺には過ぎた相手だ。
あまりにも釣り合わない。
だが、そんな釣り合いの問題をさて置くとしたら、俺は、どうなんだ?
俺は、栗花落をどう思っている?
好きか嫌いかの二択ならば、迷いなく「好き」の方だろう。問題は、そこに友人以上の感情があるかどうかだ。
彼女を「女」として意識したことはある。正直、彼女の笑顔に見惚れたこともある。恋愛感情がまったくないとは言えまい。
だが、確信を持てない。
考えれば考えるほど、銀髪の小柄な少女が頭をよぎるのだ。
「穂積……」
栗花落同様、彼女のことは「好き」ではある。
可愛らしいとも思う。
守ってやりたいとも思う。
でもそれは「庇護欲」であって、恋愛感情とは異なるものだろう。
……異なるもの、だろう?
自問しても、答えは出ない。
サンタクロースにでも答えをプレゼントしてほしいと、そんなくだらないことを考えて自嘲した。
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