第5話 魔導士団 入団
レイモンの行動は素早く、翌日には魔導士団を訪ねていた。
「こちらの方ですか」
王宮内にある魔導士団の部屋を訪れ、ハミルトンと名乗る金髪の魔導士団の副団長と対面した。ハミルトンはリコを見るなり不思議そうにしている。
好印象を持たせた方がいいのだろうかと一瞬考えたが、おそらく魔導士団は実力主義のような気がしたのでやめた。
無理に愛想笑いをしなくてもいい。ここが駄目だったら、別の仕事を探せばいいだけだ。冷静に自分のことを見ることが出来る。
この世界に来て早二ヶ月、何とか生活出来ている自分の中に漠然とした自信が付いてきている。ここは無理をして自分を鼓舞しなくてもいい雰囲気があり、それを肌で感じ取っていると心の余裕みたいなものが出来た。
自分に自信みたいなものだ、そのままの自分で良いのだと言う自信が湧いてきている。その為、真っ直ぐにハミルトンを見る事ができる。
「最近、魔法が使えることが分かった。まだ、自分でコントロール出来ないので初歩から教えてほしい」
レイモンの言葉を聞いてもなお、困った表情をしている。
「しかし、この方はエリアス侯爵家のご令嬢ですよね」
「本人の希望なのだ。団長には許可を取っている」
「団長からは聞いていますが、どこまで教えればいいのでしょうか。まさか討伐に参加するなんてことはないですよね」
ハミルトンは不安そうに聞いてくる。足手まといと思われているのだ。
レイモンは訓練すれば討伐に行くだけの力がつくと言っていたが、どうだろうか。
「取り敢えず、どこまで出来るかやってみてほしい。後は、本人の希望を聞いての判断になるが」
レイモンはあくまでも私の意見を尊重してくれるようだ。渋々とした感じのハミルトンは再度リコを見た。
「まずは、どの程度なのか確かめさせてください」
「はい」
リコは張り切って返事をしたが、いったい何をするのか。
「あちらの方に何か魔法を使ってみてください」
(はい?)
ハミルトンが示した先は的のようなものが立っている。
それに向かって魔法を使えと言われてもどうすればいいのか分からない。ここに来るまでにレイモンに聞いておいて良かったと一先ず安心する。手のひらを的に向けて念を送ってみる。
ボン!!
手のひらから勢いよく出たのは白い煙のようなもので、シュルシュルと尻すぼみのように的まで届く前に消滅した。やはり思うようにいかないようだ。
両腕を胸のあたりに組んで見ていたハミルトンは納得した様子でリコを見ていた。
「コントロールというより、力の使い方から知らないようですね」
「先日、初めて魔法を使ったからな。それまで魔法を使えることすら知らなかった」
「なるほど。分かりました。やってみましょう」
(よかった)
思わず心の中でガッツポーズをした。
先程までの諦めていたことが一気に高揚感がました。入団の可能性があると言う事だ!気持ちが先走っているのが自分でも分かる。冷静にならないと思い自分にいいかせる。
私が魔法のことはほとんど知らないので座学から始まった。そこで自分のレベルを見る方法や魔法に関しての説明を聞く。
レベルは他人が勝手に見ることは出来ないが、訓練すれば相手の魔力の大きさもある程度予測は出来るようになると聞いて、訓練すれば自分を召喚した人物を探し出すことが出来るかもしれないと思ったが、魔導士たちはその魔力を他人に読み取れないようにする訓練もしているので、魔導士団にいる魔導士たちは特にその能力を読み取ることも感じることも難しいと言われた。
授業は魔法の説明と共に、その訓練も始めた。
私のレベルは三。
魔導士団に入団するには最低でも十五は必要だと言われ、魔導士団就職はそんなに簡単ではないということを思い知らされた。でも、魔法を教えてくれると言っているのだから感謝しかない。少しでも使いこなせるようになれば魔法師団での立ち位置も変わって来るはずだ。
リコは諦めずに頑張れば良いはずだと自分に言い聞かせた。
先生は副団長のハミルトンで魔法の属性から何が出来るかなど基礎的な話から、実際にやって見せてくれる。
ハミルトンは水と風の魔法使いだと言って、机上に小さな竜巻を作って見せてくれた。
竜巻は机上の上でどんどん高さを増していって、天井に着くくらいまで大きくなった。高さが出てくるのと同時に横にも広がって気がつくと机上いっぱいまでの大きさまでになっていた。これは力をコントロールすれば出来ることだとも教えられた。
「では、リコ様もやってみてください」
「はい」
私も水と風の魔法が使えるみたいだったので、ハミルトンと同じことが出来ると言われ、説明を受けて同じようにやってみる。
風の動きが分かるようにと紙を小さくちぎったものを机上に置き、ハミルトンに言われた方法で手をかざして机上の紙切れを見つめる。
紙切れが少し浮いた。
が、横に少しずれただけで止まった。
ハミルトンみたいに竜巻は出来なくて、木枯らしくらいの風しか出せなかった。気まずさが残り、そっとハミルトンを見る。
「少し、難しかったようですね。もう一度やってみましょう」
ハミルトンに言われて、もう一度手をかざし机上の紙切れを見つめる。
机上にかざした私の手に、ハミルトンの手がかざされて、じわじわと温かい感覚に気づいて力が集まってくるのが分かった。すると、机上の紙切れが舞い上がる。
一枚、二枚と浮き上がり、小さな竜巻が形成された。
紙切れが巻き上がる度、期待に胸が膨らむ。人差し指ほどの高さだが、竜巻が出来ている。
目を見張った。出来ている!
嬉しくて感動しているとハミルトンの声がした。
「そのまま、今度は横に広げるイメージをしてください」
(よ、よこ?)
アセアセとしながらイメージを作り上げる。
すると、手のひらに先ほどまでとは違った感覚が湧いてきた。
私が作った竜巻は握りこぶしくらいの大きさまでになって、消滅した。
ハミルトン曰く、私の魔力がまだ少ないので、ここまでが限界だろうということだった。それでもハミルトンは初めてにしては上出来だと褒めてくれた。
リコは気を良くして練習を続けた。
次第に速く竜巻を作り出す事ができるようなっていった。
魔力を増やして、もっと練習すればハミルトンが作った竜巻を作り出すことが出来るのだろうか。ほんの少しの期待が湧いてきた。
座学を初めて二週間ほど経って今度はポーションの作り方を教わった。これは魔力を上げる方法の一つでもあると教えられた。
体力を回復させるポーションも魔力を回復させるポーションも基本は同じで薬草と水、そこへ魔法を入れ煮詰めるのだという。
最初は一番簡単な下級のポーション作りを教わった。
ポーション作りを初めてからは自分のレベルや魔力は急上昇して、気がつくとレベルは二十を超えていた。
マリベルの授業は変わらず続いていて、午後から魔導士団へ行きポーション作りに励んでいた。その合間に座学や簡単な魔法の使いかたを練習していたある日、長髪を一つに結んだ背の高い男性がやってきた。
「ハミルトン。出来栄えはどんな感じだ」
ハミルトンから団長のウォルターだと説明された。
「ポーションは一人でも作れるようになりました。魔法はまだ、簡単なものしかできませんが、少しずつコントロールできるようにはなっています」
「そろそろ、入団テストをしてもいい頃か?」
「そうですね。この後のことは入団してから学べばいいだけですから」
二人の会話を聞いていると、どうやら私が受ける予定のテストが行われるらしい。
まだ、ほんのちょっとしか魔法を使いこなせないのに大丈夫だろうか。
「明後日、入団テストをしよう」
「分かりました」
ウォルターは私に今出来ることだけをみせてくれればいいと言って帰っていく。
「ハミルトン様、私が出来ることはこぉ~んな小さな竜巻を出せるくらいです。大丈夫でしょうか」
私は人差し指と親指で竜巻の大きさを伝える。
確かに一番初めの木枯らしから竜巻を作るまで成長したが、その竜巻も息を吹きかけたら消えてしまいそうな弱々しいものだった。それで受かるのか心配になってくる。
「リコの魔力はまだ少ないですから、仕方がありません」
ハミルトンからは毎日ポーション作りをしていくとそのうち、魔力も増えていくと言われた。その為、魔導士団にはいった新人はみんなポーション作りをしてレベルを上げていると言う。ある程度レベルが上がったら、今度は小さな魔物を退治して更にレベルを上げると言われた。
リコはまだ、魔法が使いこなせないので魔物退治はまだ、先だと言われている。
試験では魔力をどれだけコントロールできるかが重要だと言われ、それならと安心する。
竜巻は小さいながらも横や縦に自在に大きく出来るのだ。そこで水の魔法を入れ込んで水柱も作れる。
もちろん、小さいが。
その日の帰り、ハミルトンから本を一冊渡された。試験に必要な内容が書かれているので読むようにと。
私は部屋に帰ってからその本を隅々まで読んで、試験に臨んだ。
「合格です。おめでとう」
「ありがとうございます」
私が作った水柱がきれいに成功して、ハミルトンからもらった本のおかげで筆記試験も上手くできて、ポーション作りはウォルターからお褒めの言葉までいただいた。
数日後、私は正式に魔導士団に入団した。
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