第37話 ウィル、騎士の学校に行く

 ウィルは貴族達が多く通う騎士育成校、そこに見学に来ていた。


 ウィルは冒険者であり、そもそも騎士の学校に通うべきではない人間である。しかしながら、彼がここに来ている理由はアルフレッドが原因であった。



「ウィル、折角だから私の学校を見に来たらどうだ?」



 アルフレッドはウィルの事を見込みがある存在として認知をしていたので、色々と優遇をしていたのだった。



(アルフレッド君に言われたから、思わず来ちゃったけど……学校大きいなぁ。平民もいるけど、貴族が通う学校らしいから当然と言えばそうなのかな)



(魔王とか、人類に対する脅威に対抗するための騎士育成校。アルフレッド君が言ってた、勇者並に強い人間が排出できるようにするのがこの学校の指針の一つだって)



(僕もこの学校で学べるならいい機会だ。僕も勇者を目指している身だし。勇者ダンも偶に非常勤で来るときもあるらしいし)



 ウィルは中に入り、色々と見学を始めようとする。そこに丁度待っていたと、アルフレッドが登場した。



「ウィル待っていた」

「アルフレッド君!」

「校内を案内しよう」

「うん、ありがとう!」

「ただ、少し待ってくれ」

「え?」

「もう一人、案内しようと思っている」

「誰?」

「バン、と言う名前だったか。彼も偶々この間、会ったから呼んだ」



(そう言えば、バンさんは古代文明の文字を読んでたから。アルフレッド君が目をつけたのかな。バンさんはもしかして、学者さんだったりするのかな)




■■



 先日、アルフレッドに偶々会った。騎士育成校に見学に来ないかと誘われたのだが、普通に非常勤で何回か行ったことあるしな。


 まぁ、でも、息抜きに仮面なしで行ってみようかな。いつも吸ってる空気とは違う感じもするし。


 ただ、勇者ダンとしても教鞭に立つ予定があるから切り替えしっかりしないといけない。



「バンさん」

「ウィルも呼ばれてたのか」

「揃ったのならば行こう」



 ウィルとアルフレッドが待っていたようだ、この間もこのメンツで会ったな。校内に入ると、生徒達がジロジロとこっちを見ている。



「凄い見られてますね」

「そーだな」



 制服を見てない、それに加えてアルフレッドと言う勇者の子孫と一緒にいる俺たちはさぞかし、目立つのだろう。



「ウィル、それとバン。ここの校内はかなり厳しい訓練がある。実力者順に上からAからDにクラスが分類されている」

「そうなんだ。アルフレッド君はAクラスなの?」

「当然だ」

「すごい!」

「ウィルだって、私は相当の可能性を感じている」

「そ、そっか。そう言えばユージン君も通ってるんだよね?」



 そうだ、ユージンもこの学校に通っているって言ってたな。修行では会うけど世間話とかはしないからな。



「あぁ、アイツはAクラスだ。元はDだったが、すぐさま駆け上がってきた」

「ユージン君も凄いんだね」

「だが、基本的にアイツは授業に来ない。そのせいで結局Dクラスに落ちたんだ」

「あ、な、なるほど。ユージン君、勇者ダンが好きだから冒険者として行動してるもんね」

「それもある、だがアイツの家は色々面倒なんだ。ユージンも複雑な境遇だったしな」

「そう言えば、そんなこと言ってたかも」



 ユージンは才能ないとか言われてたらしいからな。貴族でも有名な名家らしいから余計に面倒なんだろう。




「あ、バン君、だっけ?」

「はい?」



 サクラが居た。きっちりした教師制服みたいなのを着ている。俺に声をかけたと言うことはこの間、戦士トーナメントで会ったのを覚えていたらしい。



「サクラさん」

「どうしたの? ここの学生じゃないよね?」

「アルフレッドに見学に誘われまして……あ、ウィルとどっか行ってる」



 アルフレッドはウィルが特にお気に入りのようで、俺を忘れて校内を案内しているようだった。



「あー、アルフレッド君ね。見学者がいるみたいな話はあったかも。でも、置いてかれちゃったね」

「ですね」

「……よかったら僕が案内しようか?」

「え?」

「ここで置いておくわけにもいかないし」

「あ、はい。じゃあ、お願いします」

「はーい」(この人、偽勇者君を倒した時異常な強さをしてた。リンちゃんの知り合いだし、悪い人ではない……とは思う。それにどっかで会ったことある気がするし。でも、こんな実力者が無名っておかしいよね。話してみたら何か分かるかもしれないし)




 サクラとは偶に教師陣営として話したりしてるから、今更だけど。暇だし回るかな。



「ここが教室だよ」

「へぇー、広いですね」



 知ってる



「ここは武器庫だね」

「へぇー」



 知ってる、言葉では言わないけど



「ここが闘技場だよ」

「知ってる」

「え?」

「あ、初めて来ました」


 

 思わず心の声が漏れてしまった。危ない危ない。闘技場とかはあんまり、来ないけど。こことかで模擬戦してるらしいんだよな



「試しにどう? 僕と戦ってみない?」

「伝説の勇者パーティーですし」

「大丈夫だよ」



 サクラはやる気満々のようで、木剣を俺に投げてきた。それを掴む。こんなにやる気だとやるしかないけど。


 

 

 俺は木剣を軽く構えた。





■■


 嘗て、僕は勇者サクラと呼ばれていた。勇者となる定めであった。僕も最初はそれを望んでいたのだ。


 だけど、唐突に怖くなった。敵は、四天王は、魔王は恐怖の塊だった。


 でも、本当に強い人、圧倒的なまでの存在は微塵も強さを感じることができないって知った。


 勇者ダン、彼がまさにそうだった。彼の場合は優しさもあるから、怖さを出さないって言う所はあるけど。


 だとしても、絶対に勝てないと理解できる。彼が出た瞬間に生物として自分が彼よりも劣ってしまっていると理解できるのだ。


 何もする気が起きない。意味もない。



 それほどまでに強い。



 それなのに力の扱い方を間違えない。守ってくれる。



 つまり、めっちゃカッコいい! ラブ! なんて僕の恋については置いておいて。


 

 この人は謎、なのだ。圧倒的な強さを垣間見て凄いと思った。だけど、今対面をして



 普通の強者なんて沢山、見てきた。ある程度人を見る目はある。



 だけど、僕の前にはバンと言う名前の冒険者がいる。何も感じない。



「それじゃ、軽く僕からいくから」

「はい」



 軽くと言ったがそれは嘘だ。相当の実力者なのは間違いないはずだから、かなり強めに振ったがあっさり剣で止められた。



 絶対おかしい。この学校のAクラスでもこんなに強めの止められる人だって一人もいない。



「結構軽めに打ったけど、よく止めたね」

「どうも」



 なんてことないと言う顔だけど、嘘を言っているようでもない。本心からの言葉のようだ。


 一体どこまで力があるのか。確かめるべきだと思った。魔法による身体強化しない。


 だけど、全力の八割……!!



 上段から思いっきり振り下ろす、ふりをして。


 フェイントを使いタイミングをずらして、振り下ろした剣を振り上げる。完全に虚をついた一撃。


 

 これで流石に少しは、実力を見せるはず……



「は?」




 思わず、僕は口から変な声が出た。彼は剣の柄、そこに振り上げた剣の先を当て勢いを止めたのだ。



 いや、どんな神業……剣の柄に剣先を当てて止める。角度とかをミスればこんな形で止まることはない。


 そして、さも当然のような顔つきなのはなに? 


 

 剣が止まったことでしばしの静寂が訪れる。


「反撃しないの?」

「しますよ」



 とん、音がした。本当に軽い音。



 。僕の方には軽く剣が乗せられていたのだ。そして、彼は僕の後ろに回っていた。


「あ、え?」



 実戦ならば間違いなく負けていた。魔族ならば殺されている。一瞬の動きすらも見えなかった。


 明らかに僕を超越をしている。



 負け? 嘗て勇者と呼ばれていたのに。



 情けないな。



 剣術だったら、勇者君以外に負けるはずなどないと思っていたのに。



 しかし、不思議と不快感は無かった。負けたことがむしろ当然でないかと思えるほどだ。



「ねぇ」

「はい?」

「強いんだね」

「どうも、ありがとうございます」



 謙虚、と言うよりも当然と思っている顔だ。自分の強さに自信があるんだろう。



「僕、勇者パーティーで覇剣士って言われたのに。負けるとは思わなかった」

「運が良かったです」

「絶対そんなこと思ってないでしょ。流派はどこなの?」

「我流、に近い感じです」

「我流ねぇ……今までどこに居たの? 結構な実力者なのに知られてないのはおかしいと思うけど」

「最近まで山で暮らしてて。最近人里に降りてきました」

「めっちゃ嘘つくじゃん」



 この人、のらりくらりとしていて全然情報がわからない。リンちゃんは放っておいていい、彼の実力は誰にも言わないで。


 と言っていたけど、このレベルの実力者を野放しはやばいでしょ。


 

 勇者君に後でこっそり相談しようかな。うん、それがいい、手作り弁当を持って、一緒にランチしながら相談しよ。



 ついでに彼女いるか聞こう。うん、それがいい。




「まぁ、いいや。学校案内の続きするよ。模擬戦に付き合ってくれてありがと」

「いえいえ」




 歩きながら、校内案内を続ける。今度は研究会がある、部屋などを案内した。



「研究室って言うのがあってね。歴史、魔法、剣術、そう言った事を授業以外で独自に学ぶ場所だね」

「高校の部活的なやつですよね」

「こうこう…? ぶかつ?」



 高校? 部活? 一体何を言っているのかわからないけど。



「サクラ先生」

「どうしたの?」

「この超古代文明の文献について意見がほしんですけど」

「あー、それはちょっとねぇ」



 とある女子生徒が古い歴史書を僕に見せてきた。超古代文明って初代勇者とか色々関わってるから、教えちゃダメなんだよね。


 歴代勇者と限られた人。そう言った人しか読める人がいないから、と言うか読ませたらいけない。



 だから、教えられない。



「ごめんね、僕からは何も言えなんだ。でも、応援してる」

「はーい」




 そう言って、女子生徒は文献を再び見始めた。歴史を研究する、研究室には数多の研究資料が置かれている。


 実は僕も文明文字は全部は読めない。学び始めたら勇者君が勇者になったから、学ぶのはやめた。



「色々書かれてるんだな」

「遺跡、古文書とかがあるからね」



 バン君もぱらぱらと歴史研究室の研究品を眺めている。ここにあるのは古代文明のやつが九割だから見ても分かるはずがない……



「……右に神、左に魔が宿る。神と魔神、天使、悪魔を率いて戦乱を起こす。神は痛み、魔は退く。悪は散り。天使は千切れ。千切れた破片集めて、文明を築く。文明を扱う存在。後に勇者と呼ばれる」

「━━え?」



 小声でボソボソと彼は呟いた。まさか、読めるのか。これが? 僕も彼が見ていた場所を見た、だけど中途半端に古代文字を学んでいた僕には読めなかった。



 ━━まさか、これを読めるの?



 まさかと勘繰っていると急に彼は胸を押さえて苦しみ始めた。



「ど、どうしたの?」

「くっ、昔、中学生の時に書いていた黒歴史ノートを思い出して胸が痛くて。この文献があまりに僕の共感性羞恥を抉るような詩的表現をするから」

「あえ?」



 何言ってるんだこの人。ふざけてるのかな? あー、びっくりした。だって、読めるのって。




「あー、旅をしてた時も日記にこんな、痛い言い回ししてたな。偶に寝る時にベッドの上で思い出して、悶えるんだよなぁ」



 変な人。何言っているのか、よくわからないし。



「あ、すいません。そろそろ僕帰ります」

「え? 急に」

「それでは」



 ぴゅーと走り去ってしまった。本当に変わった人だった。結局正体も分からず終いだったし。でも、悪い人ではない気もする。



「サクラ」

「うわ! ゆ、勇者君!?」

「あぁ。俺だ」

「あ、えっと。どうしたの?」

「いや、何もない。久しぶりに非常勤として顔を出しただけだ」

「そ、そう、あの、だったら授業まで時間あるから。ご、ご飯いこっか? お弁当作りすぎちゃって」

「構わんが、俺の舌を唸らせられるのだろうな」

「うん! 任せておいて!」

「そうか」



 気づいたら鉄仮面を被った勇者君がいた。相変わらず速すぎて見えなかった。でもでも、ご飯誘えたし、最高のランチタイム……



「サクラ先生!」

「はい?」



 唐突に他の先生が焦った表情で寄ってきた。



「近くの荒野で謎の生物が発生し、生徒達が戦っています!!」

「そんな、今すぐに行きます!」



 僕は今すぐに救援に向かおうとした。勇者君にも力を借りようとしたが、既に彼は僕の前から姿を消していて。



 既に現場に向かっていたのだ。











━━━━━━━━━


次回予告


騎士育成校に起きる襲撃、敵は謎の生命体!?


ウィルとアルフレッドが正体不明と激突する。彼らは勇者の弟子として、ダンが到着するまで時間稼ぎができるのか!?


サクラ『あれ? バン君の正体ってまさか……』


次回、第38話『カッコよく助っ人として登場したら既に弟子が全て終わられていた件』








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