第36話 始まりはリンだった

 リンが隣で寝ている。寝顔が可愛い。


 俺に寄っ掛かっているが、こんなにかわいいとは。以前に母親の寝顔を見たことがあるが見なかったふりをした事がある。


 あれを見てから、寝顔ってあんまり良いものじゃないと一瞬思ったりもした。


 だが、まさか、寝顔でここまで可愛い存在がいるとは思わなかった。まぁ、旅をしている時から寝顔を見た事があったけど、改めて見るとマジで美人だ。



 ぼぉっとしながら、りんの寝顔を見た。確かに美人、本当に美人だ。


 しかし、どこか寂しそうな顔をしているのは気のせいだろうか。いや、気のせいではないのだろう。


 リンと話していた時に気づいた。コイツはずっと自分が弱いと言うことを気にしている。


 リンって凄い強い部類に入るんだけどなぁ。


 結構気にしちゃう性格だし、意外と怖がりだし。



 あとは、俺のせいかな? 俺って強すぎるし。神託とか全然気にしてないけど。凛はその辺を気にしているのだろう。


 だから、元気ない、もう30歳くらいなのに。


 そう言えば俺も30だったな、思えば……リンに一度も想いを伝えられなかった。


 今更、あの時好きでした、と言うつもりはない。本当に今更だしな。


 ━━ただ、リンは勇者ダンと言う存在に自分がずっと守られてきて、重荷で自分があったと思っているんだろうなぁ。



 そんな事はないと俺は思っているんだけど。勇者ダンの俺って俺様系キャラだからちゃんと礼とか言わないし。


 これは……ちゃんとお礼を言わないとダメかな。俺って、こう言うのって気になり出すと眠れなくなる。


 まぁ、恩恵で眠らなくてもピンピンしているんだけど。そう言うことではなく。


 リンにお礼を言うべきか、勇者ダンとしてな。





■■




「ん……」



 なんだか、夢を見ていた気がする。ずっと昔、ダンと出会った時のことを。



「ごめん、バン。少し、眠りすぎて」

「遅いぞ、いつまで寝ているつもりだ」

「んッ、あえ!? だ、ダン!?」



 びっくりした。まさか、バン、基、ダンがそこに居たのだ。鉄仮面を被っていた。服装は全然変わっていないけど。


 アンタ、勇者って隠す気あるのかしら? 相変わらず変なところが抜けているわね。



「いつの間に、居たのよ」

「バンは俺の古い知人で、さっき会ったからここにきた。ちょうど、お前に話があったからな」

「いや、そこまで聞いてないけど」



 聞いてもいないことをペラペラ話す辺り、隠し方がヘタクソというか。面白くて笑ってしまいそうだけど。



「それで、どうしたの? 私に話があるって言ってたけど」

「……」

「何よ」



 言い淀むとは珍しい。不遜な感じで強気な口調で言ってくるのに。



「俺は今まで一度も、お前に。いや、リンリン・フロンティアに礼を言ったことが無かった」

「お、おう、急に、どうしたのよ……」



 な、なによ。急にどうしたって言うのよ。こんな雰囲気出すなんて、らしくない。



「……これは、一度しか言わない。俺の始まり、お前だった」

「え……?」

「お前が始まりだった。勇者になったのも、世界を守りたいと思ったわけじゃない。お前だけを守りたい、それが俺の始まりだった。結果的に世界を救ったわけだがな」

「……ッ!!!??!!」



 え、わ、私だけを守りたい!? どどどどど、どういうこと!? なにがどうなってるの?


 ははーん、さてはこれ、夢ね? あのダンがこんなこと言う訳ないしね。


 まぁ、でも、夢なら夢で楽しめるから。存分に楽しみましょう。



「お前だけを守りたいね。どうしてそう思ったの」

「俺は魔法をお前に教わったからな。感謝もある。だが、俺はお前が小さい花を大事にした時に、それを思った」

「小さい花」


 あぁ、昔、小さい花を魔物から守ったことあったわね。そんなことよく覚えているわね。夢だと思うけど



「世界を守りたいと思っていた訳じゃない。お前を守ることを重荷と思った事はない。だから、あまり余計なことでへこむな。俺もお前に助けられた事はあった、だけど、それをいちいち気にしてはいない」

「そっか」



 ダンは夢の中でも優しいのね。夢以外でこんな甘い言葉かけられた事ないけど。


「バンがお前が色々と気にしていると言っていた」

「バンね。まぁ、気にしていないと言ったら嘘になるけど。世界をアンタに一人に押し付けちゃったりしたから」

「確かに面倒を思うこともある。だが、それだけじゃない。俺が勝手にお前を守った。世界は正直どうでも良かった、お前を守りたかった、それは俺の本当にやりたかったこと、それが少し広がった。それだけだ。だから、気にするな。もう、俺に縛られるのはやめろ」

「何よ、急にかっこいいこと言われたらドキドキするじゃない」

「お前はお前のしたいように生きればいい。俺もそうする」

「そ、そっか」

「長い話がすぎたな。俺は再び消える」

「う、うん」

「またな。自分の思うように生きていろ。それが俺の━━」



 歯切れ悪く、そこでダンは何も言わなかった。そして、次の瞬間にダンは消えた。相変わらず残像すら見えない。



 夢なのだろう。それはわかっている。それでも私の目には涙が溜まっていた。


「夢の中の、ダンの癖に。いつも以上にカッコ良いじゃない……ありがと」


 そう思って、そろそろ私も起きようと思った。いつまでも寝ていると日が暮れてしまうから。


 そう思ったけど、全然目が覚めない。



 あれ、おかしいわね。そう思って頬をつねると凄い痛かった。あれ? これ夢じゃない?



「リンさん」

「わ、今度はバンが来たわね」

「勇者ダンなら、さっき帰りました」

「あ、そう。ねぇ、私の頬をつねってくれない?」

「いいですよ」

「痛い痛い!! え? 夢じゃない?」

「現実です。日も暮れてます」

「あ、そ、そう」

「お城まで送って行きますよ。おんぶで」

「な、ならお願いするわ」



 バンが私をおぶってフロンティア王国に向かった。あれって、夢じゃないんだ。


 ダンが本当に私に言ってたことなんだ。ダンが急にあんなことを言い出すなんて。いや、私が元気ないのを見て、気づいたのね。



「アンタって、本当にバカよね」

「そうですか?」

「うん、本当にバカ。でも━━」




━━そんな貴方が好きなのだそんなお前が好きだった



「ありがと、お城に着いたわ」

「いえいえ。僕も家を見てもらったので」

「そう、また、一緒に行こっか」

「いいですね」

「今度はご飯でもどう?」

「いいですね。色々女性目線の話が聞きたいので」

「そう、なら約束ね」

「はい」



 バンは消えた。バンと言うかダンだけど。あいつがあんなことを言うなんて。


 ワンチャンあるわよね? いや、ワンチャンありまくりよね? いやー、良かったぁ!


 絶対行ける、デートも行けるし!! 脈だって絶対ある! やった!!


 ウキウキの気分で城に帰ってママの部屋に向かった。



「ママ」

「リン、こんな遅くまでどこに行っていた、この国の姫がこんな遅くまで」

「ご、ごめん。ダンと一緒だったの」

「なぜ早く帰ってきた!」

「え?」

「もっと遅くまで一緒にいるべきじゃ! 朝帰りで結婚しておけ!!」

「えぇ」

「あの男はそれだけの男なのだ。財政だって一気に変わる。金だってあり得なくらい持っている! それなのに倫理的に破綻していない! お前の最高の相手じゃろうに」

「でも、今度デートに行くわ」

「うむ、よくやった。さすがは妾の娘じゃ」

「それに、ちょっと脈アリみたいな雰囲気だった」

「最高か。流石は妾の娘」



 ママはやっぱり変わっていると思った。情緒も安定していないし。自分の部屋に戻って、ベッドに横になった。



 夢だけど。夢じゃなかった。



 やった、まだまだ私もやれるじゃん。私だけを守りたい、それが全ての始まりか。



 私もダンを支えたい、それが始まりだったのを思い出した。力不足、全てにおいて劣っている私だけど、これからは彼のことを支えていこう。



 脈アリだしね。うん、脈アリだから。今日はいい夢が見られそう。



 また、ね。ダン





■■



 リンと一緒に家を見た次の日、俺はウィルとの修行を行っていた。


「でや! てや!」


 向かってくる弟子をいつものように木剣でポコポコにする。


「あで! いで!」


 うん、相変わらずどれくらい強くなったのか分からない。こいつ強くなっているのは分かるが、他と比べてどうなのだろう。トーナメントでは3位だったし強い方なのかな?



「あの」

「どうした」

「今度、騎士学校に行くことになりまして」

「なぜだ」

「見学というか、勇者様が教鞭に立たれていると」



 非常勤講師みたいな感じだけど。一応騎士学校にはいるけどね。



「その通りだ」

「それを見てみたくて、丁度騎士学校を見学しても良いってアルフレッドくんに言われて」



 アルフレッドのやつ、ウィルのことを気にかけていたな。あの遺跡の時もごちゃごちゃ言っていた。



「それでその、行ってもいいですか?」

「好きにするといい」

「はい! めっちゃ楽しみです!」

「うむ」

「そう言えば、超魔人デスペラードと言う存在をご存知ですよね?」

「うむ」

「それが授業で取り扱われるらしくて」



 そうなのか、知らなかった。超魔人デスペラードね。前に倒したことがあるような気がする。



「超魔人デスペラードは勇者様に流血をさせて、傷をつけた伝説級の魔族ですよね」

「そうらしいな」

「そうですよね。あの時の傷って」

「完治している」

「そうですか……全盛期の勇者ダンに傷を与えた魔族。でも、デスペラードはその出生や目的が何も分からなかった謎の魔族。勇者ダンに倒された後、彼は一体全体何者で誰が送り込んできたのかは分かっていない。それが授業で」



 なんか、一人でぶつぶつ言い始めた。



 超魔人デスペラードね。思い出した。俺を流血させたとか、傷を与えたとかで一時期大騒ぎだったあれね。


 あー、でもあれって……全然話が違うんだよね。



 正確には俺のおでこに、偶々ニキビがあって、鉄仮面被ってたから、殴られた拍子に仮面の内側の尖っているところがニキビに刺さって血が出たって言うのが本当の話。


 それが流血をさせたとか、騒いでるんだよね。一ミリも痛くなかったんだけどなぁ。


 当時はそんなこと言えなかったから、黙っていたけど。今ではあいつが伝説の魔族になっているのか。


 全然強くなかったし、倒すの余裕だったな。


 超魔人デスペラードねー、どんな尾ひれがついているのやら




■■


 とある某所。薄暗い研究室のような場所に白衣を着た者達がとある、魔人の完成を待っていた。


「遂に、あの伝説の魔人を復活させる時が来た」

「勇者ダンに死を!」

「遂に復活したぞ。超魔人デスペラード。しかも、全盛期よりも、さらに強く仕上げておいた」

「これならば、新人類創造寮、進化Iファーストにも匹敵する。ゆくゆくは私自身が、神へと登るのだ!!」

「だが、油断は禁物だ」

「騎士育成学校、そこにある、伝説の鉱石。勇者ダンの聖剣にも使われているあの石があれば、超魔人デスペラードは、超絶大魔神デスペラード・ネオに進化ができる」



 謎の液体によって満たされているガラス管。そこには全身が真っ黒、両手は剣のような形をしている魔族が居た。


 それを囲いながら白衣に身を包んだ研究者たちは笑っている。


「では、今度、騎士育成学校を襲い、伝説の鉱石を」

「奪うことにしよう」



 騎士育成学校に危機が迫っていた。









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