第35話 勇者、家を買う

 アタシの名前はリンリン・フロンティア。周りからは大賢者リンリンとか、リンリン様とか、フロンティア王女。とか色々と言われている。


 親しい間柄の人からは……とは言っても、家族を覗いたら三人くらいしかそんな人はいないけど。彼等はアタシの事をリンと呼ぶ。




「お姉ちゃん」



 まぁ、一人くらいはお姉ちゃんと言う妹も居るけど。



「ターニャ」

「ん、お母さんがお姉ちゃんと勇者ダンが良い感じって言ってたけど、本当なの?」

「……そうよ」

「うっそ……凄いじゃん! 玉の輿じゃん! 超玉の輿じゃん! 凄いじゃん! 資産額いくらだっけ!? 勇者ダンって」



 あ、アタシの見栄を張ってしまう悪い癖が……というかママもなんでそんな事を言うのよ! 確かに素顔を知っているのはアタシくらいだけど。



「勇者ダンって、どれくらいお金持ってるかな? お姉ちゃんは分かるでしょ」

「……まぁ、何となくは想像つくわね」

「えー! いくら!?」

「いや、そう言うのって言わないが方が良いと思うわよ」



 アタシはダンと一緒に居たから、ダンが世界を救って色んな国や人たちから報償金を貰っているのを見ている。


 だから、ダンがどれくらい持っているのかは想像は出来なくはない。



「ちょっとだけ!? ちょっとだけだから教えて!」

「……ダンって世界を救った後に凱旋パレード的なので世界を巡るでしょ? 王様の前に立って、お金をせびるのよ。『俺が世界を救ってやったのにこれっぽっちな訳がないだろ、お前等の国の財源ありったけ寄越せ』って」

「うわぁ、えぐ」

「そう? 命がけで世界を救ったら当然の権利だと思うけど。というか確かにあれっぽっちで報酬金は低いわね」

「でも、勇者ダンってお母さんとお父さんにも同じこと言って、国の財源潰しかけたじゃん」

「若気の至りよ。それくらい」

「いや、故郷の国潰れそうになっているんだけど。お姉ちゃん第二王女でしょ?」

「そんなのどうでもいいわよ」

「そ、そう。それでお金って?」

「うーん、贅沢をしているようにも見えないし……そうねぇ。一時期、ダンジョンで一攫千金とかもしてたし……あ、月の国からもお金せびってたわね。トータルすると……一人で10か国くらいの国の財源をすべて集めても敵わないくらいかしら?」

「エッぐ……え、マジで? えぐくない? えぐすぎない?」

「そう? ダンなら普通だと思うけど」

「いやいやいやいや、お姉ちゃんの感性がおかしいって!!!!!! 絶対バグってるよ!! 勇者ダン基準でこれから人と話さない方が良いよ!!」



 急に鼻息荒くなる妹……大丈夫かしら? 眼が凄い血走っている。お金は無いよりあった方が良いとは思うけど、お金位はダンの付加価値だと思うけど。



「そりゃ、ダンの基準を人にあてはめないわよ」

「お姉ちゃんそりゃ結婚できないよ。理想が高い所が、突き抜けて殿堂入りレベルだもん」

「そうね」

「でも良かった。これでこの国も安泰だね。お金持ちだし、強いし、何かあっても全部解決してくれるし。お姉ちゃんいつ結婚式あげるの? 子供は?」

「…………ぼちぼちね。こうゆっくりやって行くことだと思うのよ。慌ててもさ。良いことないし」

「あー、確かにね。でも、本当に良かったね。お金持ちだし」

「お金って、そんなに大事?」

「そうだよ! お金は大事だよ!」

「……うーん、ダンと一緒に居た時は貧乏でも楽しかったからあんまりピンとこないわね」

「えー、10か国の財源あわせても足りないってヤバいと思うけど」



 お金か……ダンとなら貧乏でも楽しい生活できると思うんだけどなぁ……。そうねぇ、ダンのあの家に居候させてもらってもいいけど。


 やっぱり小さくても一緒の家に住んで……子供は二人かなぁ……。でも、居ればいるほど楽しいと思うし。



「お金持ち凄いなぁ」

「まだ、お金言ってるのね」

「そんなにお金凄いかしら? アタシからすると……前に、超新星魔王アルティメット・ノバ。とか言う魔王が現れた時の方が凄かったわ」

「ん?」

「魔王の能力がね、星の自転を弄るとか言ってのよ。それで遠心力を生み出して、凄いパワーを出すとか言ってね。それでさ、『フハハハ、この俺様が星の自転を回す』

って言ったら、ダンが『ちょっと自転止めるかって』足で地面をバンって踏んでこの星の自転を止めて相手の能力を封じた時の方が凄かったわ」

「いや、こーわい……敵も意味わかんないけど、勇者ダンも意味わからんない」

「あそこで惚れ直したわねぇ」

「変わってるなぁ。ある意味ではお似合いだけど」

「でも、ダンを怖いとか言う人が居るから悲しいわね」

「いや、怖いと思うよ。今の話聞いたら」

「皆の為に頑張ってくれてるのに、意味わかんない。文句言ってないで、お前が戦えって言ってやりたいわ。ダンだってそう言いたいはずよ。でも、それを言わない器の広さもあるのよ、アイツは」

「へぇ……でも、良かったね。そんな器の広い人と結婚出来て」

「……まぁね」



 まぁ、未来では結婚するしね。ほぼ確実と言うか……嘘とは言えなくもない絶妙なラインね。


「新居とか建てるの?」

「まぁね。色々、二人で未来について話してる所」

「うわぁ、凄いなぁ。お姉ちゃんの結婚式、凄い大々的にやってね」

「当り前じゃない。国総出でやってもらうわよ」

「お兄ちゃん達にも言っておくね! お姉ちゃん結婚するって」

「いいわよいいわよ。言ってきなさい」

「うん! 早速行ってくる!」

「……そ、そう、そんなに慌てなくてもイイと思うけど」

「いやいや! もうワタシ、嬉しくって! すぐに言いたい! 大丈夫、言うのはお兄ちゃんとお姉ちゃんの二人だけだから!」

「そ、そう。なら、いいわ、よ?」




 ターニャは凄い勢いで走り去った。どうしようまたしても……見栄を張ってしまった。




◆◆



 ターニャに見栄を張ってしまった。ついでに言えばアタシは弟子であるメンメンにも見栄を張っている。


 アタシとダンはラブラブであると……。


 あぁ、どうしよう。そろそろぼろが出そうな気がする。昔からの悪い癖なのだ。これは。


 

 そうこうしているうちに冒険者交流会にやってきた。


 ダンはいるかしら? あ、居た。一人でぼぉっと窓の外を見ている。何をしているのかしら?




「バン……」

「リンさん、今日はリンさんを待ってたんです」

「え? アタシを」

「はい」

「ふーん、なに? 可愛い子でも紹介してほしいの? 生憎だけどアタシ、あんまりそう言うの好きじゃな――」

「――あの、一緒に家を見ませんか」



 空気が止まった。今なんて言った?



「あ、ごめん。一緒に家を見ませんかって言ったように聞こえたんだけど、本当は何て言ったの?」

「そう言いました」

「え? 家?」

「はい」

「ま、マイホーム?」

「はい」

「……」



 え? 嘘、ナニコレ!? こここお、告白って奴!? ととと、遠回し過ぎない? 一緒に住んでくれみたいなことを言ってる。


 こ、婚約? 



 ――まぁ、受けてあげなくはないけど?



 まぁ、嬉しいって言うか? そろそろ結婚しなきゃとか思ってたし? うんうん、全然してあげなくもないけど?


 ちゃんと甘えさせてくれたり、甘えてくれたりするなら。イチャイチャできるなら全然いいけどね?



「まぁ、いいわ、わよ? そ、その、いつ、ごろ?」

「今からです」

「ええぇえ!? は、早くない!? あ、アタシも妄想とかでは挙式してたけど」

「すぐに家見に行きましょう。もう用意してるので」

「やる気バッチリね!! 嫌いじゃないけど!!」




 急に積極的に……う、嬉しい。これを何年待った事か……! アタシ可愛いから? 当然と言えばそうかしらね?


 準備してたし? いつ選ばれてもいいように若々しくいるようにしてたし? 下積みが結ばれたわねぇ?


 えへへ……



 ダンに連れ出されて、冒険者交流会を出た。



「あ、ここの不動産屋で紹介してくれるみたいです」

「フーン……」

「すいませんー、予約してたバンですけど」

「いらっしゃいませー」



 ダンは店の人に色々と話をしている。アタシは一緒に住めるならどこでも良いけど。一緒に決めるって言うのが大事なのよね。



「あの、ご予算の方は?」

「上限なしでお願いします」

「冷やかしなら帰ってください。上限なしって」

「あの、取りあえず上限なしで本当に大丈夫です」

「……は、はぁ」



 貫禄なさ過ぎて冷やかしとダンは思われているようだった。脱いだら凄いんだけどね。それに勇者だし、資産とか確かに上限ないだろうし。


 それにしてもダンに対して失礼な奴ね。昔なら魔法を軽く見せてビビらせるところだけど、今のアタシは気分が良いから見逃してあげるわ。



「取りあえず、これが家のリストです。どうぞ」

「ありがとうございますー」



 ダンと一緒に不動産屋を出た。


「それじゃ、先ずはこの家から」

「う、うん!」


 最初は普通の小さい家だった。1階建てで部屋も3部屋くらいしかない。煉瓦で造られている。



「うーん」

「アタシは結構好きだけど」



 ダンとならどこでもいいわ。前に一緒に洞窟とかで過ごしたことあったし。



「折角ならちょっと大きい家が良いですね。のびのび生活したいですし。子供とか居たら、元気よく育ってほしいですし」



 ちゃ、ちゃんと考えてる! 家庭的でリンリンポイント高い!!



「じゃ、次、行きましょう」

「そうね!」



 あー、幸せー。ダンも家庭的な部分が知れたし。元から優しいから父親としていい人とは思っていたけど……



「ここは凄く大きくて庭もありますね」

「そうね!」

「2階建て、しかも部屋が沢山ある。のびのび出来て良さそうです」

「バンは子供は何人くらい欲しい」

「二人くらいとは今のところ思ってます」

「あ、アタシも二人くらいが理想と思ってたの!」

「なるほど、参考になります。でも、犬とか猫もいてくれたら楽しいかも……超光霊創造犬フェンリルとか、幸運将来体ネコーンとかも居て欲しいですね」

「うんうん! バンなら手懐けられるし!」



 

 や、バ、ヤバい幸せでニヤけそう……



「女性目線は参考になりますね」

「……うん?」



 なーんか、温度差が違うような……


「あのさ、なんでアタシを誘ったの? 一応、聞いておくけど」

「女性目線で選んだ方が良いかなって思って」

「……ふーん、あっそ……」



 まぁ、分かってたけど。どうせ、こんな結婚するつもりはないんだろうとか思ってたけど。


 あーあ、ダンは結婚する気ないのね……ショボーン……



「なんでアタシを誘ったの? 他にも誘える人居たでしょ」

「いえ、リンさんくらいしかいないです」

「そっか、アタシしかいないのか……でも、どうせ母親に勧めらえたとかそんな理由でしょ」

「確かに……でも、母親に勧められなくてもリンさんを誘ってました」

「……なんで?」

「話しやすいし、思った事とか言ってくれそうだし」

「……ふーん。まぁ、アタシの意見は参考になるでしょうね」

「はい」

「バンはさ、アタシと例えばだけど、結婚したらどうなると思う」



 あ、ヤバい、思わず変な事を聞いてしまった。いかつい性格だから一緒に居るのきつそうとか言われたらどうしよう。



「楽しいと思います。美人だし」

「前にダンが美人は3日で飽きるって言ってたわ」

「いえ、飽きないです。だって、何回あっても可愛いと思いますし」

「ふ、ふーん。そうね、確かに可愛いのは認めるわ。アタシの可愛さって底なしだしね!」



 可愛いかー。嬉しー。アタシって単純な女ね。今ので凄い嬉しくなっちゃうんだから。


 ダンに言われたから、だろうけど。



「……アタシってさ、性格キツいかな? 偶に面倒な性格って言われるけど」

「……うーん、俺も面倒な性格ですし」

「まぁ、そうよね」

「え? 俺面倒です? リンさんから言われるとは思っていなかった」

「凄く、面倒くさい」

「えぇ」

「なんか、期待するような言い回しするからね、でも、嫌いじゃないわ」



 ダンって言動とかもだけど昔から面倒くさい奴だった。でも、嫌いじゃないし、嫌と思ったことも一度もない。



「どうも」

「バンはさ、結婚したい?」

「はい」

「なんで?」

「……普通の幸せを感じたいとか?」

「そっか。アタシはね。怖いから結婚したい」

「?」

「怖いの、全部。死ぬことも、誰かに道筋を決められているような気がして。だから、大切な人が一緒に居て、大切な子供が一緒に居たらそんな怖い事をフッ飛ばすくらいの幸せがある気がするの」

「……ふむ」

「自分の事だけを考えているから、あんまり良い意見とは言えないけど」

「ユニークで俺は良いかと。確かにこの世界には危険が多い、魔王とか暗躍する組織とか」

「情けない気もするけどね」

「俺なんて、モテたくて冒険者交流会何回も行ってるから、凄い恥ずかしい感じですが」

「確かに……お互いにやっぱり面倒くさいわね。そりゃ、互いに結婚とかできない訳ね」



 ポカポカ陽気な気温、外から暖かい日差しが入ってきて何だか眠い。ソファに二人して座りながら話していると、昔を思い出す。


 弱かった彼、強かったアタシ。出会いから、どんどん強くなって……未来もねじ伏せるくらいに強くなった。



 神の神託を彼は幾度なく超えて来た。




「なんか、眠くなって来たから、アタシが起きるまでそこに居て」

「了解ですー」





――ずっと一緒に居て……。と言える勇気が欲しい



















――――――――――――――――――――――――――――――

次回はダン君視点!! そして、まさかの勘違いで訳の分からない空気になります!



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