第34話 右と左の分かれ道

 本当は滅茶苦茶帰りたいと思い始めているのだがウィルとかがどうしても、と言うので仕方なく進むことにした。


「埃臭いな……」

「バンさん、流石に何百年放置されている遺跡ですし。無理もないですよ」

「帰って良い?」

「いやいやここまで来たら! いきましょうよぉ!! 折角来たんじゃないですか!」



 いつもより体温が二度くらい高そうなウィルに溜息を吐きながら先に進む。アルフレッドとウィルが前を歩くのでそれについて行くと、分かれ道を発見した。


「右と左に別れてますね……どっちに行きますか? 僕は……なんとなく左がいいかなって」

「私は右が良いと思うが」

「俺はどっちでもいいな」



 ウィルは左が良いと言うが、アルフレッドは右が良いと言う。対して俺はどっちでもいい気がする。


「私はどうしても右が良い」

「ぼ、僕は左かなって」

「……そうか、ならウィルは左に行くといい。そこまでそっちに行きたいとなると何か意味があるのかもしれない」

「え!? いいの!? この遺跡はアルフレッド君の先祖のものなのに」

「先祖と言ってもほぼ他人のような物とも言える。それにウィルは見込みがある、好きにして構わない」

「それなら、僕は左に……バンさんはどうしますか?」



 どっちでもいいんだけど……どっちかと言うとウィルの方が心配だから何か罠があったりしたら助けてあげないといけないし。



「ウィルついてくことにするか」

「あ、ありがとうございます!」

「そうか、なら私は右に一人で行こう。あとでどうだったか教えてくれ」

「は、はい!」


 アルフレッドは一人で右に行ってしまった。さて、俺達は左に進むか。




◆◆



 なぜか分からないけど、僕は左に進むべきだと思った。


「左ねぇ」

「バンさんは右が良かったですか?」

「いや別に、それより埃が凄いなって。ちゃんと初代勇者整備してほしいよな」



 もう死んでいるから無理ではないだろうか……。と僕は思った。それにしてもバンさんも不思議な人だ。


 初代勇者アルバート……世界に知らぬものなど居ないほどの有名人。原点勇者。


 全てはアルバートから始まったのだ、とも言われている。魔王サタンを倒して勇者になった男……まぁ、魔王サタンは勇者ダンの時代に蘇って彼に倒されているんだけど……。


 それでも彼の事を未だに最強だと信じている者や、最も優れている勇者と信奉する者も多い、勿論僕だって好きだし尊敬もしている。ただ、それは勇者ダンの次位にという言葉が付く。


 とにかく勇者ダンの次には凄い人なのだ。それなのに……



「バンさんは初代勇者アルバートをあんまり尊敬と狩ってしてない感じですか……?」

「うーん、まぁ、凄い人なんじゃない? でも会ったことないし、でも織田信長くらいには凄い人なのかなぁ? だったら尊敬もするけど」

「そ、そうですか」



 織田信長って誰だろう? 全然聞いたことがないけど……普通なら尊敬してたり、信奉してたりするんだけどバンさんってそう言うの全然ない。勇者ダンもあんまり好きじゃないって感じだし。



 変わってるなぁ。さらに言えば超古代文明の文字が読める人なんて会ったことが無いか。


 本当に謎と言うか、底が知れないというか……。



「お、扉があるぞ」

「そうですね。ん? なにか書いてありますよ」

「確かに、扉の下に何か書いてあるな」



 僕達が進み続けると大きな扉の前で止まった。何かが書いてあるのだが、僕には読めないのでバンさんが読んでくれる。



「子孫よ。安らかに……だってさ」

「えぇ、なんか怖いですね」

「取りあえずこれどうやって開けようか……」

「多分ですけど。こういうのって何か仕掛けとか開けるの条件が――」



――ドカーン!




 と大きな音がした。えっ? と思いバンさんを見ると彼が扉を破壊していた。



「あ、やべ、強く押したら壊れちゃった」

「え、えぇ!? 初代勇者の遺跡壊したらダメですよ!!」

「マジか。弁償した方が良いかな?」

「一億ゴールドか絶対しますよ! 弁償とか無理では」

「あ、一億なら割と安いな」

「えぇ!? 安いの!?」



 冗談を言ってるんだろうけど、一億ゴールドは安くないと思う。でも、冗談にしては嘘を言っている感じには見えない。


「まぁ、黙ってればバレないだろうし。それより扉の中、結構広そうだな。入ろうぜ」

「は、はい」



 僕達が扉の中に入ると、彼の言う通りとっても大きな空洞があった。天井には無数の鉱石があり、それが太陽のように光り輝いている。



「神秘的な場所だなぁ」


 バンさんがきょろきょろ辺りを見渡している。確かに彼の言う通り、神秘的な場所だ。


 でも、なんだろう、神秘的な所なのにどこか、不気味さを感じるような……



『ノロイ、ハライ、ヤスラカニ……』

「ッ!?」


 なにか、声がする。誰かが……僕達を、いや、。誰かに見られているという気配にきづいた。そして、その見ていた主が僕から遠い壁際から壁を破るように姿を現す。



『スイテイ、カクセイイマダシテオラズ、スミヤカニマッサツ……』



 人型の人形の様だった。しかし、体のいたる部分が見た事のないパーツで覆われている。



「変わったロボットみたいな感じだな」

「はい……これって、戦いになるんでしょうか?」

「多分、俺の勘がそう言っている。俺がやってもいいけど、ウィルに任せる」

「は、はい」



 人型の人形、背丈は僕と同じ位だ。ただ、遥か未来の技術によって作られたのではないかと思う程に異質だった。


 こんなの見たことがない。もしかして……超古代文明の人形型戦士なのかもしれない。超古代文明の文字があった事だし、初代勇者と古代文明には何か関係があるのだろうか。



「おい、来るぞ、ウィル」

「は、はい」

「ふむ。相手を仮にスーパーロボット君と命名しよう。ウィル、スーパーロボット君に勝て」

「は、はい。スーパーロボット君に勝ちます!」



 バンさんに言われて僕は持ってきていた剣を抜いた。スーパーロボット君の手が剣に変わった。



『ハイジョスル!!』

「ッ!」



 大きく飛来し、一気に僕の間合いまでスーパーロボット君は入ってくる。流石は初代勇者の遺跡に存在しているだけはある。


 途轍もなく速い。だけども、僕は……常にこれより強い存在と戦っている。修行をしているのだと――



――間合いを見切り、剣を交わして流れるように胴体に剣を当てて引いた



『……スイテイレベル、ジョウショウ……ジャノメ、カクニンデキズ。シカシ、オオキク、チカラヲツケテイル……パターン解析……』



 ピロピロ、ロボット君から音が鳴る。眼の部分が青く怪しく光る。



『完了……パターン26、双剣ディルバッシュ、サイゲンが効果的とハンダン』



 双剣ディルバッシュ……!? それって初代勇者が一番最初にライバルと認めた剣士の名前だ。


 それをまさか……再現するのか!?



『模倣開始……』



 スーパーロボット君の両手が剣に変わる。僕は構えて、一歩下がった。それと同時に先ほど、僕が斬ったロボットの一部が再生する。そして、再び向かってくる。



「……本当に再現をしているならッ」

『ダブルブースト、ハイジョ』


 上下左右から剣の雨が降ってくる。確かにこれは先ほどの剣の感じとは全く違う。手数が多い分、僕は下がるしかない。



 ダブルバーストって両方の剣を強化するって言うシンプルな魔法。初代勇者アルバートの英雄譚に書いてあった。シンプルだからこそ厄介であり、普通の剣で斬撃を受けすぎると剣が折れてやられてしまう。


 双剣による圧倒的手数で相手のみ動きを封じて、止めを刺す。確かにそれが再現されている。



 今の僕もかなりヤバい。受け流しているが剣が徐々に軋んでいるを感じている。



「ウィル、変わるか?」

「い、いえ、ダイジョブです!」



 バンさんまだ居たんだ……正直に言えば逃げて欲しいけど



「ウィル、頭下げろ!」

「え!?」



 咄嗟に言われて頭を下げた。すると、スーパーロボット君の口元からナイフが発射されてそれが空を切った。



――頭を下げなかったら……今頃頭に刺さっていたッ!?



「右足、上げろ!」

「は、はい!」



 今度はロボット君の足元からナイフが飛び出た。それは僕の右足に目掛けて飛んできた。双剣ディルバッシュの剣技だけじゃない、こういう絡め手も使ってくるのか……。



 バンさんは分かっているのか……? これを?



 まさか、この戦闘が僕よりも見えている……!?



「ウィル、そろそろ決めた方が良いぞ。相手は学習するタイプの敵だし。長引けば損だぞ」

「は、はい」



 ……勇者ダンから修行でつけろと言われていた。この錘を外そう。一度、距離を取って、服を脱いで錘を外す。



「……ふー」



 一息をついて。構える。



 勇者ダンは嘗て剣だけで戦っていた。魔法はリンリン・フロンティアから教わったりしていたらしいが彼は魔法を覚えるのが不得意でかなりの時間を要したらしい。


 故に彼は剣に全てをかけていた。


 単純でシンプル、な戦い方が一つある。勇者ダンは持っている手札が最初は少なかった。故に持っている手札を上手く使った。


 最初はある程度動きを抑えて、相手に自身の動きを認識させる。そこから、認識をさせた動きを遥か上を行く動きを見せる。


 本気を急激に出すことで不意打ち的な攻撃であるが彼はそれを己の武器としていた。今の僕にも出来る。


 錘を外した、最速。認識をさせている今までの動きを超える――



――追いつけ、あの背中にッ



『スイテイ、レベル……コ、コレは……コレホド……アルバート、ソウテイヲコエテイル……』

「――疾風剣」



 最速で走り、僕はロボット君を切り裂いた。気付いたら体中から汗が吹き出し、肩で息をしていた。あの双剣ディルバッシュの再現と戦い続けたのはかなり体に来ていたようだ。



「おー、よくやったな」

「はぁはぁ、ど、どうも……」



 パチパチと手を叩きながらバンさんが僕の元に寄ってきた。



「でも、まだ居るみたいだぞ」

「え……?」

『スイテイレベル、ソウゾウコエテイル。ハイジョハイジョ。

「――え……」




――初代勇者アルバートを再現……!?




 できるのか、そんなこと……!?



 先程切り裂いたロボット。それは動かない、完全に破壊を出来たようだ。しかし、奥から同じようにロボットが数十体、現れる。


 それぞれの眼が青く光り、



『『『『『『勇者アルバート再現開始……完了』』』』』』



 彼等全員の手が剣に変わり、それが神々しい光を帯びる。まさか、古代魔法による付与魔法を剣に行っているのか……!?


 勇者ダンや大賢者リンリン以外にも古代魔法が使える……確かに元を辿れば勇者アルバートが始まりではある。だから、その遺跡のロボットが出来ても可笑しくはない――



――や、やばい、もう、体力が……



 息を吸う暇もない攻防を得て、僕は既に満身創痍だった。足元はくらついて剣を杖のように扱いながらなんとか立っている。


 くっ、まだ行けるか。だけど、勇者アルバート……を、さいげ……あれ、意識が……



「大分気を張ってたから、もう限界なんだろ。寝てろ」

「ま、まだ、やれま――」

「――まだまだ世代交代には早いか」



 僕は気付いたら倒れていた、倒れながら微かに空いた眼でその光景を見続ける。バンさんはさっきの攻防が見えていた。でも、流石にアルバートの再現をどうにかできるほどの実力――



「――初代勇者の遺跡、アトラクションを内蔵するのは構わないけどちょっと遊び心が過ぎるんじゃないか」



 彼はゆっくり歩いて行った。彼は剣を持っていない。魔法を使うそぶりもない。



 僕は虚ろな目でそれを見る、もしかしたらこの光景は既に夢で僕は死んでいるかもしれない。



『邪魔するモノ、ハイジョ、ワレワレノモクテキ――ジャキ、がかががわわあああああ!!!!!』



 きっと夢なのだろう。



 ――だって、バンさんが片手でロボットの顔面を潰していたのだから。



『スイテイ、レベル……ソクテイ不能……シンジラレナイ……こんな存在が、現れるのか、アルバートを超えて――』

「――当たり前だろ、俺にかなう奴は存在しないからな」



 彼は右手を振るった。それはただ、振るっただけ。特別な事はしていない。本当に右手を軽く振るったのだ。


 ――人には過ぎた力。


 明らかに生まれる世界を間違えていると思われるほどの軌跡。


 ただ振るうだけで、理不尽を生み出す絶望的なまでの希望の象徴。



 消えゆく意識の中で僕はそれを見たのだ。



 彼が振るった右手がそこから真なる力を発揮する。バキバキと数十体のロボットを塵に還した。しかし、それだけで留まらず、威力は波紋をしていく。



『ビービー、ソクテイ不能、スイテイレベル、規定オーバー!!! 超危険!! 超危険!!』


 

 本当に振るっただけで全てのロボットは消えてしまった。静寂が残り、僕は静寂に誘われるように瞳を閉じたのだ。



◆◆



 遺跡の探索は終わった。結局、ちょっと変わったロボットを見るというだけで終わったのは残念だがまぁ、良しとしよう。


 気絶をしているウィルはアルフレッドに任せて俺は家に帰宅をした。


「バン、お帰りなさい」


 我が母親が出迎えてくれる。


「あのね、バン、言いたいことがあるの」

「なに?」

「一人暮らしを始めなさい」

「確かにそろそろ実家暮らし辞めた方が良いか」

「そうよ、丁度いいからリンちゃんと家を探してきなさい。女性目線の意見も貰えるから」

「あ、はい」



 今度リンを誘うか……



 ――勇者、家を買う。



 






―――――――――――――――――――――――――――


更新が大分空いてしまってすいません。実はリメイクとかも考えていたので大分時間がかかってしまいました。


これからは定期的に更新できればしていきますのでお願いします。


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