第33話 初代勇者

 俺は基本的に外に出掛ける時は頼まれた用事がある時だ。勇者としての講演会をしてくれとかが例に上がる。

 自分の予定を入れて外に出ると言うのは冒険者交流会くらいしかない。

 最近、弟子たちの修行もあるしね。趣味とか、自身の用事で外に出ようとかはあんまりない。


 だが、俺は久しぶりに自身の趣味で外に出る。その理由は初代勇者の祭典があるからである。


 初代勇者については俺はあんまり知らない。しかし、魔王サタンを倒したと言うのは有名な話で、常識に疎い俺も出知っている。


 まぁ、それが俺の時代に蘇って倒す羽目になったらちゃんと倒しておけよって昔は思っていたけど……


 初代様に今まで興味はなかったが勇者後継者を育成する身として、知っておくに越したことはないと思ったので祭典に行くことにした。


 本日は訓練もないしな。


 場所は都市アルバート。アルバートと言うのは初代勇者の名前らしい。アルバートはその都市出身らしく、偉業を達成してから彼を称えるために都市の名前がアルバートに変わったらしい。


 そんな都市には近くに大きな遺跡があるらしい。ただ、強力な魔法で中は閉じられているらしいが……、リン曰く自身なら余裕で開けられるらしい。


 特殊な魔法がかかっているらしく選ばれしものが来た時に開くとか。だから、無理に開けてしまうのはルール違反らしい。


 まぁ、無理に開けられるのはリンとか俺くらいだろうけどな。暇だし、折角だから遺跡は見学していこうかな。



 走ってたら着いた。都市アルバートは大きいのに人が混みあってる。



「あ、バンさん!」

「ウィルも来たのか」

「はい! ここまで来るのにかなり時間がかかりませんか? 僕馬車で、二日かかったんですけど」

「同じくだな。それにしても人多いな」

「初代勇者は今でもすごい人気ですからね。しかも遺跡に挑戦者が居るみたいですし」

「挑戦者?」

「あれ? 結構有名な話ですよね? 初代勇者が子孫に力を授けるために移籍を作ったって」

「……そうか」



 初めて聞いた。遺跡が子孫に力を与えるか……選ばれし者が来た時に遺跡が開くみたいなのはそういうことか。という事は挑戦者って……



「アルフレッドか」

「そうです、勇者の子孫。アルフレッド君が遺跡に向かうと明言しているので」

「なるほどな」

「ただ、遺跡は現在人が近づけようになっているので実際にどんな感じなのかは分からないのが残念です」



 あ、通行禁止なのか。それは確かに残念だ。観光はしたかったんだけどね。



「それなら、ウィルも一緒に来るか?」

「あ、アルフレッド君!?」



 アルフレッドが居た。相変わらず服装がダサいなぁ。全身蒼の服、腕の部分だけ羽毛がある。本当にダサいが本人が良いと思っているのならいいのだろう。



「遺跡に入るのに同行者をつけてはいけないという決まりはない。私が許可しよう」

「な、なんで、僕を」

「ウィルは見込みがありそうだ。私ほどではないが……それに遺跡に行きたいと以前あった時に言ってただろう」

「ま、まぁ、そうだけど」

「そちらの方もウィルの知り合いならば許可してもいい」



 ウィルとアルフレッドは以前、会ったと言ってたけどそこでちょっと仲良くなっていたのか。あんまり仲良くなり過ぎて俺の事とか、思わず言ってしまったりしなければ良いけど。



「い、良いなら僕行きたいです!」

「まぁ、折角だしついでに行くか」

「構わない、付いてくると言い。私の活躍は伝導する役目も必要だしな」



 なるほど。そう言う事で俺とウィルの動向を許可したのか。活躍とかを世間に知らしめるためにはある程度事情を知っている人が居ないと言う理屈は分かる。



「付いてこい」

「うん!」



 アルフレッドが走り出した。この人込みの中で走ったら危ないとも思うが余裕で二人は避けている。


「……この速さについてくるか……ウィル」

「うん、それなりに鍛えてるから!」

「……やはり思ったよりも見込みありか……」



 走っていたら都市外れの森に着いた。そして、そこには大きな石で出来た遺跡があった。苔があったり、古臭い男性の石像があったりそれなりの雰囲気がある。


 神秘的という表現が正しいのだろうか。


「ここだ、ウィル」

「うん」

「……初代勇者アルバート、私の……お前」



 何かを話そうとしていたアルフレッドが話を止めた、俺を見ている? 眼が開かれて驚愕と言う文字が顔に書いている。


「お前、どうやってここに来たんだ?」

「普通についてきたんだけど」

「……私の速さについてこれたのか……、手を抜いていたとはいえ……そうか。てっきり途中で引き離されていると思っていたが、思っていたよりもやるようだな」

「鍛えてるからな」



 アルフレッドは遺跡の前に立った。扉は開かない。


「以前もここに挑戦したことがあるらしいのですが……その時は開かなかったらしいです。アルフレッド君は二人の兄が居るのは知ってると思うのですが、その二人もダメだったらしいです」

「そうなのか。子孫でも何か条件があるのか」



 選ばれし子孫ね。単純にアルフレッドの力が足りないのか、もっと他に原因があるのか。


「……私はここに居る、開いてくれ。アルバート!!」



 アルフレッドのやつ真剣だな。かなり気合が入っている。しかし、開かない。扉は開かない。



「……何が足りない、私は優秀な師が居て、力もあって。世界の為に何かをしたいとも思っているのに……まだ、私には強さが足りないのか……」

「あ、あの、アルフレッド君……ま、また今度に」

「そうだな、まだまだだった。と言うだけか」

「僕からすればアルフレッド君は十分凄いよ」

「すまない、ウィル。少し、焦ってしまったようだ……」



 ウィルが遺跡の前に立っているアルフレッドの前に向かいながら、気持ちをフォローをする。アルフレッドも焦っていたと自覚をしているのだろう。一度上を向いて、気持ちを切り替えた。



「それにしても、この遺跡は開かないな。毎年、来ているのだが」

「歴代勇者たちは空けてるんだよね?」

「あぁ、私の勇者と言われた先祖達は全員扉が開いたらしい」

「へぇ……強さが足りないか……。それとも何かほかに条件があるのかな」

「さぁ、どうだろうな」



 二人でどうして遺跡が開かないのか話している。入ったことないから分からないけど……単純にアルフレッドの強さが足りないのかもしれないな。強いけど、やはり勇者と言えるにはまだまだな感じするし。

 あと、一年くらいで開くんじゃね? 知らんけど。


「でも、本当に凄いよね。この遺跡……初代勇者アルバートか。僕も会ってみたいとは思うよ」

「私も、それは思う所だ」



 ウィルは遺跡に触れながら色々調べている。アルフレッドも諦めきれないのか、遺跡の開錠スイッチを探して遺跡を触っている。


 俺はぼぉっと二人の様子を眺める。すると……唐突に遺跡から轟音が響いた。


「うわ!?」

「開いたのか……ッ!?」



 ごおおおおおおお!!! みたいな音がして、重い扉が開錠する。あれま開いたよ。もしかして、本当にスイッチでもあったのか?



「私にも勇者の資格はあったと言う事か」

「さ、流石だよ! アルフレッド君!」

「あぁ、中に入ろう」

「うん!」


 おー、面白そうだし俺も入ろう。中は埃だらけでちょっと汚い。綺麗好きな俺からするとちょっと嫌だなって思う場所だ。



「う、うわあぁあああ! 凄い、遺跡。青白い光る鉱石が神秘的に照らしてる!!」

「こんな内蔵だったとはな」



 勇者オタクのウィルは興奮しているが俺はあんまりかな。やっぱり掃除してほしいって思っちゃうのは日本で暮らしていたからだろうか。観光地とかもインフラ整備しっかりしてたしね、日本は。



「あれ? なにかあるよ!」

「……石碑か?」

「しかも二つ……なんて書いてあるんだろう?」

「すまない、私にもこの文字は……こんなのは王家にもなかった」

「初代勇者が残した暗号なんだね」

「……我が家には勇者についてあらゆる情報があるがこの遺跡については何も伝わっていないんだ。意図的なのか、どうなのかは分からないが」

「そ、そっか。残念だよ」



 あ、この文字知っている。サクラが昔、調べてた奴だ。遺跡回ったことあったけどその中に似たような文字があったな。


 サクラは超古代文明の文字って言ってたっけ。でも、俺が勇者とか言われ始めて、聖剣とか抜いたら急にどうでもいいとか言い始めて、超古代文明の文字使わなくなったな。


 そう言えば……あの頃からだったな、サクラが急に俺を勇者君とか言い始めたのは。前まで凄い毒舌だったのに急に話すのもオドオドしたり、眼も凄いキョロキョロさせて話したり、そう言えば急にプレゼントもしてきたのも、超古代文明の文字捨てたあたりからだった。


 サクラはよく分からない。未だに。



 さて、折角だし超古代文明の文字読んでみるか。昔はリンに超古代文明の文字が読めるのカッコいいって思って欲しくて、サクラと一緒に勉強したんだったなぁ。

 ほら、日本でも英語ペラペラの奴かっこいいみたいな? 安易な発想だった思うがこんな形で役に立つ日が来るとは……


 えっと……なになに……ふむふむ、なんだ? これ? 読めるけど意味わからん



「あの、もしかして読めるんですか……?」

「え? この石碑?」

「そうです、バンさんさっきから凄い速さで紙にメモをしてるから」

「あ、うんまぁ、読めるよ」

「「!!!!!!!!!!!!!!!!!???????????」」

「読んでみる?」

「お、お願いします! 気になります!」

「どうして、私に読めなくて君に読めるか気になるが……頼む」

「石碑は二つあるから一個ずつな」



 ふむ、では読んであげよう。



「私の子孫よ、ありがとう。私の強さを君が受け継いでくれた。悲しみ、痛み、嘆き、憤り。それら全てが君に降りかかった事だろう。しかし、感情は表裏一体、悲しみがあれば喜びがある、痛みがあるから愛があるのだ。きっとそれを君は知ったのだと思う。

 世界の為に頑張ってくれた君に感謝をしたい。ありがとう、呪いを殺してくれて。きっと気分は悪かっただろう。真実を知った時、そんな事をしたくないと思っただろう。でも、君は乗り越えてくれた、これから先の未来は君だけのものだ。君のこれから進む未来に幸があって欲しい。沢山の幸福や感謝が世界から君に与えられるだろう。最後に、本当にありがとう。勇者、アルバート」



 変わったポエムみたいな言葉だ。さて、もう一つの石碑を読むか。


「私の子孫よ、すまなかった。私の弱さが君を生んでしまった。私が君から幸福を感謝を、喜びを奪ってしまった。どうすることも私には出来ない。君の人生から私の弱さが奪った全てをどうか許してほしい。

 世界の為に犠牲にしてしまって、本当に謝っても謝りきれない。どうにかしたいとずっと思っていた。しかし、私にはこれしか思い浮かばなかったのだ。先の未来に私は居ない、故にこんな事しか出来なかった。君の未来はない、これから進む先すらも消えてしまっているだろう。世界から拒絶をされてしまった君の死後だけは穏やかであってくれ。最後に、本当にすまなかった。先祖、アルバート」



 ふむ、全然分からない。ただ謝っているのは伝わってくる。



「これは……私に向けられたものなのか? それとも私の先祖の勇者に向けられたものか?」

「ど、どうなんだろう? 僕にはちょっと……敢えてぼかして伝えているようにも見えたけど」


 敢えてぼかすか……ちょっと気持ちはわかるかもしれない。リンに一回だけ恋文を書いたことがある。


 なぜだが分からないが、めっちゃ遠回しに告白文を書いたのを今でも覚えている。しかも武士口調でな。



――拙者の心から、震え春夏秋冬を巡りし時に、気づいた、当方とうほう好きでそうろう



 いや、今でも恥ずかしいと本気で思う。日本の記憶があるけどね、あの時の俺って小さかったんだよな。小さい体に精神が引っ張られるから、後先考えずにフツメンの癖に俺様系キャラとかやったりしちゃうんだよね。


 敢えてぼかすのは勇者あるあるなのかもしれない。まぁ、その恋文はとある日記に練習用として描いてたんだけど、四天王との戦いで川に流れたからそのまま海に行って既に海底の底にあるだろう。

 

 もう、バレる心配ないからどうでもいいんだけどね。



「よく分からないが、他にも秘密がありそうだ。私について来てくれ。この文字が読めるなら、他にも何か分かるかもしれない」

「バンさん! 行きましょう!」

「え? ここホコリ凄いからそろそろ帰り――」

「――バンさん! 行きましょう!!!!」



 ウィルの眼が凄いキラキラしている。こうなったら断れんよ。俺は二人にこのままついて行った。
















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